老舗駅弁店による冷凍駅弁開発&掛け紙復刻&クラウドファンディング、その斬新性とは? ~静岡駅弁・東海軒
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年9月27日 11時55分
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
2021年の駅弁の1つのトレンドと言ってもいい「冷凍駅弁」。西日本エリアを中心に多くの老舗駅弁屋さんが、さまざまな形の冷凍駅弁を開発しています。そのなかで、静岡駅弁の東海軒は、冷凍駅弁と明治時代の掛け紙の復刻を組み合わせて、クラウドファンディングを実施するという、いままでにない形の冷凍駅弁開発に取り組んでいます。どうして、このような取り組みを行うことになったのか、トップに訊きました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第29弾・東海軒編(第6回/全6回)
静岡の茶畑のなかをN700S新幹線電車の「のぞみ」号が駆け抜けて行きます。静岡茶は、鎌倉時代以来の歴史を誇る静岡市内の足久保が発祥の地と言われますが、いまのような大規模な産地となったのは明治以降のこと。かつての武士や大井川の川越人足が、牧之原台地の開墾に従事して生産能力を高め、首都圏の大消費地に比較的近かったことが、静岡茶のブランドが高まっていった背景にあるようです。
明治の物流の発達に大きな役割を果たした鉄道。その草創期から静岡駅の構内営業者として、いまも駅弁を作り続けているのが、株式会社東海軒です。そんな老舗業者にも、容赦なく冷たい風が吹き込んでいる現在進行形のコロナ禍。この歴史ある駅弁屋さんが、コロナ禍で取った対応、そして、新たな取り組みについて平尾清代表取締役社長にお話を伺いました。
●コロナ禍1年半、なりふり構わず「危機突破」!
―コロナ禍の1年半あまり、どのようなご苦労がありましたか?
平尾:このままでいったら、日本の駅弁店の8割は廃業に追い込まれてしまうであろう危機です。東海軒の場合、駅の売り上げは2020年以降、それまでの約6割減、平均40%台に落ち込んでいます。それ以外の弁当も入れて会社全体では50%減といったところです。普通、売り上げが半減して、生き残っていける会社は、ほとんどないと思います。政府のさまざまな補助金や雇用調整助成金に助けられたところは大きいですね。
―この苦境をどのように乗り切ってきていますか?
平尾:初期(2020年7月ごろまで)は「危機突破」をキーワードに、できることは何でもやりました。なりふり構わず、銀行から借りられるお金は全部借りました。給付金、助成金、政府系融資なども全部申請して使いました。コストカットもできる限りやりました。静岡駅構内に借りていた事務所も解約し、新幹線ホームの売店も可能な限り休業しました。老舗企業の信用もあって、何とか乗り切れるだけの資金は用意することができました。
●コロナ禍でできた時間で、駅弁「掛け紙」の文化的価値を再発見!
―お金は何とかなりました……そのあとは?
平尾:「本業の深掘り」と「新規分野への挑戦」の両輪をテーマにしています。そこから生まれてきたのが、「元祖鯛めし」の冷凍駅弁の開発と、明治時代の掛け紙を復刻させたクラウドファンディングです。明治時代の掛け紙の復刻も、コロナ禍でできた時間で、東海軒の社内に眠るさまざまな史料を見直し、掛け紙の文化的価値に気が付くことができたからです。このタイミングで木版印刷技術を持つ京都の藤澤萬華堂さんとつながることができました。
―元祖鯛めしの冷凍化と、掛け紙の復刻で「クラウドファンディング」というアイデアは、どこから生まれたのでしょうか?
平尾:クラウドファンディングは、掛け紙を作る藤澤萬華堂さんとのコラボレーションの話し合いのなかで生まれてきました。藤澤萬華堂さんは昔からの印刷技術の継承もあり、駅弁の掛け紙に注目して下さっていて、「元祖鯛めしの復刻掛け紙を作りませんか?」と東海軒にお声がけいただいたんです。そこで、新たに開発した冷凍駅弁と復刻掛け紙を組み合わせることで、より価値ある取り組みにしていこうということになりました。
●創業130年超の老舗駅弁店、はじめての「冷凍駅弁」!
―なぜ、「冷凍駅弁」を開発しようとなったのですか?
平尾:コロナ禍で、「駅弁を利用する機会が減ってしまった」というお声をたくさん頂戴しました。このままですと、駅弁という日本独自の食文化が忘れられてしまうことに大きな危機感を持っています。ならば、こちらから駅弁をお届けしようと。弊社にとってもいままで製造当日限りの弁当しか作ったことがなく、冷凍駅弁はいままでにない挑戦です。「元祖鯛めし」の冷凍販売ができるようになれば、他の冷凍弁当にも商品化の道が拓けます。
―「冷凍駅弁」にたどり着くまでにも、いろいろな試行錯誤があったそうですね。
平尾:レトルト、常温、いろいろ試して、「元祖鯛めし」の味のクオリティを保つには、やはり「冷凍しかない」という結論にたどり着き、冷凍技術を確立するところまでは来ることができました。機材の見積もりも済んで、あとはクラウドファンディングの成立を受け、「冷凍駅弁」の実現に向けて動き出すところです。冷凍駅弁も各社さんが取り組まれていますが、せっかく出すなら「美味しいもの」を出したいと思っています。
「元祖鯛めし」「特製鯛めし」に代表される、東海軒自慢の「鯛めし」駅弁。じつはもう1つ、鯛めしをいただくことができる駅弁があります。それは「大御所弁当」(850円)。平尾社長の先祖にも大きな影響を与えた、大御所・徳川家康公にちなんだネーミングの駅弁です。葵の紋所がドーンと入って威圧感がありますね。昭和58(1983)年の大河ドラマ、「徳川家康」の放映を記念して誕生したと言います。
【おしながき】
・鯛めし(桜飯、鯛そぼろ)
・赤飯 ごま
・焼き鯖
・蒲鉾
・玉子焼き
・鶏肉団子
・海老の天ぷら
・わさび漬け
・安倍川もち
・杏
鯛めしだけでなく、他のご飯もいただきたいという欲張りの“大御所”のようなアナタにもちょうどいいのが「大御所弁当」。幕の内三種の神器「焼き鯖、蒲鉾、玉子焼き」も入って、鯛めしと幕の内弁当のいいトコどりをしたような作りになっています。加えて、静岡名物の安倍川もちや、杏のシロップ漬けも入っているのが嬉しいところ。ごはんもおかずもデザートもしっかり食べたいときに、重宝する駅弁です。
日本一の山・富士山に見守られながら、東海道随一の名所・薩埵峠を3両編成の特急「ふじかわ」が下って行きます。6回シリーズでお届けする予定でした「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第29弾・東海軒編。130年を超える歴史ある駅弁業者ということもありまして、エピソードが多く、急きょ1本延長しまして、第7回で完結いたします。次回は、東海軒・平尾社長にこれからの展望を語っていただきます。
https://www.makuake.com/project/ekiben/
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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