難行を成し遂げた大阿闍梨・塩沼亮潤が見た、極限に行かないと見えて来ない「悟り」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年10月30日 18時51分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(9月29日放送)に福聚山・慈眼寺住職、大阿闍梨の塩沼亮潤が出演。苦行のなかで塩沼が体験したことについて語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。9月27日(月)~10月1日(金)のゲストは福聚山・慈眼寺住職、大阿闍梨の塩沼亮潤が出演。3日目は、千日回峰行のなかで起きたある出来事とそのときに思い出した母親の言葉について—
黒木)1000日山を歩き続けるという、5月から9月まで山が開いているときに9年かけて達成されたということなのですが、VTRを見させていただきましたが、本当に道なき道と崖で。
塩沼)鎖がかかっているような場所もあります。それも含めて48キロなので、16時間かけて毎日歩くということは、いまだったら1日もできないと思います。53歳にもなるときついと思います。「若いころに自分はとんでもないことをしたのだな」と、50歳を過ぎてから思いました。
黒木)494日目からだったでしょうか、山の途中で倒れてしまった。もうダメだと思ったときに、死の間際のときに自分の記憶が走馬灯のようにめぐって、「最後にお母さんの言葉を思い出した」とおっしゃっていましたが、この話もぜひお聞かせください。
塩沼)高熱と脱水症状でものも食べられませんでした。食べても2時間で下ってしまうような状態が1週間くらい続きました。
黒木)400日目辺りですね?
塩沼)488日目からです。4と9と4の付く日、この日は葛湯をたった1杯飲んだだけで山に行って帰って来ました。帰ったときには、全身が震えて痙攣をしていました。しかし、次の日に山に行くために掃除、洗濯と次の日の用意をして、495日目に出たのですが、もうフラフラで4キロほど行ったところで倒れてしまい、真っ暗闇のなかに顔面から倒れてしまいました。痛いとかそのような感覚は全然なかったのですが、目を瞑っていると、幼いころからの思い出が走馬灯のように見えて来たのです。
黒木)幼いころからの思い出が。
塩沼)最後は出家する昭和63年の5月6日、母ちゃんとばあちゃんと味噌汁とご飯を食べていたときでした。そのときにご飯茶碗と箸を全部洗ったら、母がゴミ箱に投げてしまった。そして「お前の帰って来る場所はないと思いなさい。命がけの修行をするのだから、砂を噛むような苦しみをしなさい」という言葉が耳に聞こえて来たのです。そのとき、「まだ砂を噛むような苦しみは味わっていないな」と思って目の前の砂を噛んだのです。その瞬間に「まずい」と思って吐き出しました。99消えかけた熱量が盛り返したというか、夢や幻、幻聴幻覚の世界から現実の世界に戻って来ました。半分死んでいたのかも知れませんね。
黒木)しかし、それでまた復活するのですものね。
塩沼)ただ、あのときは人間の力を超える不可思議な力がありました。前の日は全然食べていないのに、猛烈な勢いで山頂に向かいました。「8時30分までに到着したい、山小屋のおじさんに心配をかけたくない」と思い、2時間の遅れを取り戻して全身から湯気が出ました。あれは異常でしたね。限界を迎えたら死なのですが、「限界を押し上げることはできるな」とそのときに感覚で掴みました。極限に行かないと見えて来ない「悟りの花」が見えたのです。
黒木)それなのですよね。極限に行かないと悟りの花が見えないというのは、やはりすごい話です。
塩沼)皆さんは、「千日回峰行は荒業で超人的なことだ」とおっしゃいます。確かに本などにするとそのように受け取られがちなのですが、やっている本人は毎日、「世のなかが幸せになりますように」と功徳を積みながら1歩1歩歩いた記憶しかないのです。
黒木)そのような気持ちになるのですね。
塩沼)第1日目からなっていました。そのために自分が功徳をみんなのために積みたい。大阿闍梨になりたいとか、偉業を成し遂げたいという思いは全然ありませんでした。
塩沼亮潤(しおぬま・りょうじゅん)/ 慈眼寺住職 大阿闍梨
■1968年(昭和43年)、宮城県仙台市生まれ。
■小学生のとき、テレビで酒井雄哉大阿闍梨の比叡山千日回峰行を見て行を志す。
■1987年、高校卒業の翌年に吉野山金峯山寺で出家得度。1999年、金峰山寺1300年の歴史で2人目となる大峯千日回峰行を満行。
■2000年に四無行を満行、2006年に八千枚大護摩供を満行。
■2003年には故郷の仙台市秋保に慈眼寺を開山し現住職。大峯千日回峰行大行満大阿闍梨。「心の信仰」を国内外に伝えている。著書に『人生生涯小僧のこころ』『縁は苦となる苦は縁となる』ほか多数。最新刊は『幸いをいただきまして このひとときを大切に』。
◎大阿闍梨…弟子の模範になれる位が高い僧侶であり、中でも深い学識や高い徳を備え、千日回峰行などの厳しい修行を乗り越えた僧侶のみが「大阿闍梨」となる。
◎千日回峰行…数ある仏教の修行の中でも荒行中の荒行と言われ、比叡山や吉野・大峯山の山中を、悟りを求めて1000日歩き続ける。
◎四無行…「断食・断水・不眠・不臥(横にならない)」を9日間続ける。現代では千日回峰を果たしたものにしか許されない命を懸けた難行。
◎八千枚大護摩供…五穀と塩を断ち、100日間に渡り護摩を焚き上げる。
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