黒木瞳が山田五郎に訊く「闇の西洋絵画史」 ~なぜ人は昔から髑髏(ドクロ)の絵を飾るのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年11月1日 8時11分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(10月25日放送)に評論家の山田五郎が出演。闇の西洋絵画史について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。10月25日(月)~10月29日(金)のゲストは評論家の山田五郎が出演。1日目は、闇の西洋絵画史について—
黒木)もともと美術の本をつくりたくて出版社に入られて、そして雑誌の仕事で一躍、“時の人”になられた。そんな山田さんですけれども、今年(2021年)3月、創元社から『闇の西洋絵画史』シリーズを出版されました。
山田)はい、第1期5巻。
黒木)これは西洋絵画に関する本ということですよね。
山田)「闇の西洋絵画史」というくらいで、悪魔だとか、死など、比較的ネガティブイメージのある絵画です。ネガティブなのですが、これほど描かかれているということは、需要があったわけです。例えば髑髏(ドクロ)です。髑髏を描いた絵画はやたら多いのです。みんな、なぜこのようなものを飾るのと思うかも知れませんけれども、これだけ飾るということは、それだけ需要があった、では、なぜ人々は髑髏の絵を欲しがって、それを部屋に飾ろうとしたのかというところを見て行くと、いろいろなことがわかって来るのではないのかなというものです。
黒木)これが1巻~5巻まであるのですよね5巻のオフィーリアのものは私も持っています。
山田)絵ですね。イギリスのラファエル前派という19世紀のころの、ジョン・エヴァレット・ミレイという画家ですけれども。
黒木)おっしゃったように、この闇の部分の需要があったから描かれた。
山田)それは本当に闇なのかという話ですよね。いまの私たちのこの暮らしのなかで、死ぬということは絶対的なタブーになって、完全に蓋をされて見えなくなっていますでしょう。だけど、死はもっと身近なものだったわけです。みんな日常的に死に接していたのです。当然、それは怖い、でも、それを乗り越えて行かなくてはいけない。
黒木)死の恐怖を。
山田)それをどうするかと。それはただ蓋をしてしまうだけではダメなのではないかと。真正面から見つめて行った方が、乗り越えられるのではないかということです。そのようなことが絵にも表れているのではないでしょうか。例えばこの髑髏の絵は、西洋絵画の用語で、「メメントモリ」と言われます。ラテン語で「死を思え」という、「死を忘れるな」という意味なのです。日本にも髑髏を描いた絵は多くあります。「野ざらし」と言います。
黒木)野ざらしですか。
山田)「形あるものは皆滅びるのだ」という教えだと思われているのです。なぜ、そのように「死んでしまうのだよ」ということを見つめて生きて行かないといけないのかという話なのですけれども、もう1つのラテン語の成句で「カルペディエム」というのがあります。
黒木)カルペディエム。
山田)よくお店の名前などにもなっているのですけれども、「きょうの花を摘め」という意味なのです。つまり「いまを生きよう」ということです。死を忘れるなということは、いまを生きようということと対なのです。だから死を見つめるということは、同時にいまを一生懸命生きようと。いまを精一杯生きようという、そういう励みというか教えなのです。だからそれを飾るわけです。「いまを正しく生きようではないか」と。
黒木)ということでスポットを当てようと思われたということですね。
山田)そういうことです。これが第1期で『黒の闇』です。いま第2期の『白の闇』の原稿を書いて、えらく困っているのですよ。
黒木)困ってらっしゃる。
山田)言葉の遊びで、黒の闇、白の闇とつくったはいいけれども。
黒木)白の闇は天使。
山田)そう、悪魔に対して天使、魔性の女に対して美少年、怪物に対して聖獣、それで黒の方が横死に対して、白の方は殉教。
黒木)なるほど、それが白の闇。これが来年(2022年)の1月以降に刊行予定ということですね。
山田)なのにもう締め切りなのですよ。
山田五郎 / 評論家
■1958年12月5日 東京都渋谷区生まれ。大阪府豊中市で育つ。
■上智大学文学部在学中にオーストラリア・ザルツブルク大学に1年間遊学。西洋美術史を学ぶ。
■卒業後、講談社に入社。「Hot-Dog PRESS」編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。
■これまで 西洋美術、まちづくり、時計、ファッションなど幅広い分野で 講演、執筆活動を続けているほか、テレビ・ラジオなどメディアでも活躍。
■主な著書に『知識ゼロからの西洋絵画入門』『知識ゼロからの西洋絵画史入門』『知識ゼロからの西洋絵画 困った巨匠対決』『知識ゼロからの近代絵画入門』など。
■2021年3月に 創元社から、アルケミスト双書『闇の西洋絵画史』シリーズを刊行。西洋絵画の「王道の裏面」、「闇」の側面をテーマにした著書となっている。これまで第1期として「黒の闇」篇5巻、来年1月以降に「白の闇」篇5巻を刊行予定。
■2021年8月には講談社から『機械式時計大全』という本も出版。機械式時計に関する山田五郎さんの教養を総動員した1冊。
■2021年1月からは公式ユーチューブ「山田五郎 オトナの教養講座」を開設。登録者数25.4万人。絵画の解説・疑問・裏話などを中心に話をされています。
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