大きく変化するアメリカの対中政策 ~日本が選挙の最中に
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年11月6日 22時23分
1日、中国・北京の天安門広場で開かれた中国共産党創立100年を記念する式典で演説し、拳を突き上げる習近平党総書記(国家主席)[中国政府のニュースサイト「中国網」の中継動画より]
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月5日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。外交安全保障について解説した。
なぜ外交安保は衆院選の争点にならなかったのか
10月31日に投開票が行われた衆議院議員選挙では、外交安全保障という面があまり争点にならなかった印象がある。ここでは、外交安保に関する興味関心を高めるにはどうしたらいいのか—
飯田)産経新聞に「宮家邦彦のWorld Watch」というコラムが載っております。隔週で宮家さんが書いているものですが、ここで今回の衆院選について、海外の反応も含めてお書きになっていらっしゃいます。
選挙では外交安保に関心は集まらない
宮家)「オール・ポリティックス・イズ・ローカル(すべての政治はローカルだ)」という言葉がアメリカにもありますけれども、選挙で関心があるのは身近な問題ですよね。ですから、外交安保の問題が大きな争点になることは、まずありません。アメリカですらないのです。ですから今回、日本の場合は「経済とコロナ、生活」が大きな問題だったので、各党いろいろな政策を出されていましたが、外交安保に関心が集まらなかったのは事実だと思います。
日本で選挙をやっている最中に世界では大きな動きが ~台湾をめぐる米中の動き
宮家)ただ、この10月、日本で選挙をやっているときにかなり大きな動きがあった。10月1日から5日間、中国の戦闘機が台湾の防空識別圏に入って行き、その間にアメリカ海軍を中心としたいろいろな合同訓練があって、台湾の国防大臣になる人が「2025年には、中国が単独で台湾を制圧する力を持つ」と言っています。
タウンミーティングでのバイデン大統領の発言
宮家)更にバイデンさんは、10月21日にCNNが企画したタウンミーティングで、「台湾がもし中国によって攻撃されたらアメリカは守るのか」と聞かれ、「我々は台湾を守るコミットメントがある」と言ったのです。コミットメントについて、ある新聞は「責任」と訳し、他の新聞は「約束」と訳した。他には「義務」と訳したところもあります。でも、どれでも正しいようで、実は正しくないのです。コミットメントはコミットメントなのですが。
大きく変化するアメリカの対中政策 ~中国が台湾を攻めるなら、アメリカが介入して守るべき
宮家)これまでの対中政策の基本は、1972年の国交正常化と、1978年の平和条約です。このとき日本とアメリカが考えたのは、台湾に関しては「現状維持」でした。そして、アメリカが台湾を守るかどうかについては曖昧にしておく。それによって中国が台湾に攻撃することを抑止し、同時に台湾に対しても、勝手に独立を宣言することを抑止する。このダブル抑止で「台湾を中心とする東アジア地域の安定を守る」というのが、1970年代に作られた抑止メカニズムの基本的な考え方です。これを50年やったわけです。
飯田)50年間。
宮家)ところがその前提として、中国の軍事力はそれほど強くなかった。だからアメリカがやるかも知れないということなら、中国は手が出せなかった。これが抑止です。ところが最近は中国軍が強くなった。「アメリカが手を出さないなら、やってやるぞ」となったら大変ですから、曖昧な戦略は止めて、「中国が台湾を攻めるなら、アメリカが介入して守るべきだ」という議論がアメリカで出て来たわけです。それが一部で大きな話題になっているのです。
抑止のメカニズムが風化する可能性 ~新しい抑止のメカニズムはできていない
宮家)これをなぜ私が心配しているかというと、1970年代につくり上げた抑止のメカニズムが風化を始める可能性があるからです。風化し始めるなら、新しい抑止のメカニズムをつくらなければならない。でも、それはまだできていません。できていないのに前の抑止のメカニズムが風化してしまえば、不安定になる。これは日本にとっても大きな問題なのですが、なかなかこの問題に焦点が当たりません。
飯田)日本にとっても大きな問題です。
宮家)アメリカの人たちも、今回の選挙はマスコミが「自民党が危ないのではないか」と言っていたけれど、結果的にそうではなかったということで、あまり心配はしていないようです。
飯田)「この結果なら」という感じで。
核を多く保有する中国の大きな戦略的変化
飯田)曖昧戦略がどうなるかという点はニュースとして大きいと私も思ったのですが、蔡英文総統が「アメリカ軍の部隊が台湾にいて、台湾軍を訓練している」と言いました。これは「曖昧ではないぞ」と見せる形ですよね。
宮家)徐々に変えて行くのならいいのだけれど、このようにあからさまに変えて行けば、「では代わりは何ですか?」となる。中国がその気になったら困るわけですから、「その気にさせないために、どうするのですか?」というところがまだできていないのです。
飯田)昨日(11月4日)のニュースにもありましたが、アメリカの国防総省が中国の核戦力に関して、「2030年には核弾頭の保有量が1000発を超えるだろう」と言っています。中距離核戦力に関して、アメリカはロシアとの取り決めがあるので、なかなか持つことができない。この不安定さのなかで、いまのメカニズムが風化して行くことに危機感があるということですね。
宮家)通常兵器に関しても抑止をしなくてはいけないけれども、核の分野でも中国が、米露のように2000~3000発持っているところと肩を並べようとしているのは、大きな戦略的変化です。これも我々はフォローしなければならないと思います。
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