モヤモヤと反省……衆議院選挙終わる
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年11月8日 17時20分
当選確実の候補者名に花を付ける岸田文雄首相(中央)=31日夜、東京都千代田区
「報道部畑中デスクの独り言」(第269回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、10月31日に投開票を終えた衆議院選挙の結果について—
衆議院選挙が終わりました。結果は自民党261、立憲民主党96、公明党32、共産党10、日本維新の会41、国民民主党11、れいわ新選組3、社民党1、無所属10でした。「自民、絶対安定多数確保」「立民不振、維新躍進」……これが大まかな今回の評価でしょう。
「引き続き自公政権の安定した政治のもとで、この国の未来をつくり上げて行って欲しいという民意が示された」(自民党・岸田文雄総裁)
「ひとえに私の力不足。新しい代表のもと、新しい体制を構えて向かって行かなくてはならないと決断した」(立憲民主党・枝野幸男代表)
両党は明暗を分け、立憲民主党の枝野代表は辞任を表明しました。一方、自民・公明に維新を含めたいわゆる「改憲勢力」は334議席と、衆議院の3分の2にあたる310を超え、結果的には憲法改正に前向きな民意が示されたことになります。
投開票当日、私は自民党の開票センターにいました。開票センターは、これまで党本部の4階の記者会見場を使って行われるのが通例でしたが、今回はコロナ対策として9階の901号室に移されました。隣接する食堂のスペースも今回は開放され、面積にしておよそ2倍の広さ。党幹部の席も距離がとられて、ラジオのスタッフもマスク着用で臨みました。
私どもメディアも世論調査、遊説取材などで、ある程度の議席予測をします。岸田総裁は「与党で過半数(233議席)」の目標を掲げていましたが、これはあくまでも責任回避のための「予防線」。実際は「節目は自民単独過半数233、与党の絶対安定多数261」というのが、自民党にとって勝敗のポイントになると踏んでいました。
ところが直前になって、「与党過半数割れ」の可能性という情報も入り乱れます。午後8時、投票締め切り後から始まる政党幹部の出演では、そうした情報を基に話を聞いて行くわけですから、開票センターは自ずと厳しい雰囲気になります。
私が特別番組のなかで行ったレポートも、当初は「各幹部、伏し目がちで沈んだ表情」というものになりました。特に小選挙区で苦戦が伝えられていた甘利明幹事長はニッポン放送のインタビューにも応じ、目の前でその様子を見ていましたが、表情は穏やかながら、声に覇気は感じられませんでした。
午後9時40分、岸田総裁が現れ、幹部席の背後にある立候補者のボードに当選のバラをつける「バラ付け」が始まりましたが、バラを付ける総裁の表情は実に淡々としたもの。実は安倍政権のときも、「気を引き締める」という“演出”のもと、簡単には笑顔を見せなかったのですが、今回は総裁の口角も下がり、少なくとも安倍政権下のような高揚感はなかったというのが正直なところです。
深夜0時過ぎに行われた2回目のバラ付けは、1回目から格段に増えたバラの花のなかで、大阪の部分だけは真っ白。また、甘利幹事長の小選挙区での敗北、石原派会長の石原伸晃氏の落選が決まりました。
自民党は15議席の減少にとどめ、単独での絶対安定多数261を確保。岸田総裁はニッポン放送などのインタビューで、「貴重な信任をいただいた」と自己評価しました。確かに自民党の勝利と言えますが、何ともすっきりしないモヤモヤしたものが残る結果になりました。
そのモヤモヤを感じたのは投開票日当日だけではありません。遊説先は相当な動員をかけた「見せかけの盛り上がり」というスポットが目立ちました。総裁の演説については「理路整然」「わかりやすい」という評価もある一方で、「能吏」=国家公務員の上級職員のようで、盛り上がりに欠けるという声も聞かれました。
最後の演説の場所は、安倍政権では「聖地」と言われた秋葉原ではありませんでした。「安倍政権と一線を画す」という意図があったようですが、幹部勢ぞろいではなく、いわば「一候補の応援演説」。それだけ幹部が各地に散らざるを得ない、大接戦であったわけですが、総裁の遊説会場にしては、やや寂しさを感じたのも偽らざるところです。自民党東京都連からは「岸田効果ゼロ」という厳しい声も聞かれました。
そして神奈川県内で開かれた演説、そこには岸田総裁と河野太郎広報本部長の垂れ幕がかかっていましたが、両者は時間差の演説で「ツーショットはなし」。選挙区の陣営では「スケジュールの都合と、いろいろあって」と口をもごもごさせていました。総裁選のしこりがまだ残っていることをうかがわせました。
そして、終盤になって麻生副総裁の「温暖化容認発言」、山崎拓元副総裁の立憲民主党候補の応援……身内からも後ろから鉄砲が飛んで来ました。さらに党ナンバー2の甘利幹事長は金銭疑惑が蒸し返されて、遊説先では「デス応援」という声も上がり、自民党のサイトに掲載されていた幹部の遊説日程から甘利氏の部分が消えるという事態となりました。
選挙には勝利したものの、党のガバナンスという面では課題を残したのが、今回の自民党の選挙戦だったと言えます。
一方、立憲民主党、こちらは明らかでしょう。小選挙区の得票率が29.96%だったのに対し、比例区は20.00%。比例代表の不振が最大の敗因と言えます。自民党の候補は小選挙区で敗北しても、比例代表で“救済”されるケースが多かったのに対し、立憲民主党は比例代表が伸びなかったため、小選挙区の善戦も及ばずという候補が相次ぎました。黒岩宇洋氏、辻元清美氏、川内博史氏といった「論客」も相次いで落選しました。
比例代表で伸び悩み……共産党との連携に対する反発が大きかったことは明白です。「市民連合」というオブラートに包んだ形での「限定的な閣外からの協力」は、有権者にとってわかりにくかっただけでなく、支持団体の連合からは「組合票が行き場を失った」と、反発を招きました。
ハレーションを恐れてか、立憲民主党の遊説では「共産党」との連携について触れないケースが目立ちましたが、有権者は見抜いていたのです。
また、公約にあった「コロナが落ち着いたあとの消費税の時限的減税」。いまから9年前、3党合意とやらで、当時野党の自民・公明両党を巻き込んで消費税増税の道筋をつけたのはどこでしたっけ?……そうしたことの説明がありません。遊説は街宣=宣伝になることしか言わないとしても、情報公開を訴える党はどこへ行ったのでしょうか? 新体制でどうなるかが注目されます。
ただ、連携を組んだ共産党からみるとどうでしょうか。野党共闘で自前の候補者を大幅に絞りました。いわば「参加することに意義のある党」からの脱皮、企業経営で言えば「経営資源の集中」です。
志位和夫委員長は「最初のチャレンジとして大きな歴史的意義があった」と総括しました。そのポテンシャルは侮れないものがあると思います。
今回ほど情勢分析が割れた選挙はなく、改めて票読みの難しさを感じましたが、それはメディアだけでなく、政党も同様であったと思います。しかし、小選挙区の動きに関心が集まる一方で、比例区については目が行き届かなかったことが今回の情勢分析の甘さにつながったのではないかと思います。
私どもメディアも大反省となった今回の選挙でしたが、選挙後の焦点は……? これについては次回に譲ることといたします。(了)
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