なぜ東京パラ閉会式で「What a Wonderful World」を使ったのか 総合演出・小橋賢児
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年3月21日 22時7分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」にクリエイティブディレクターの小橋賢児が出演。東京パラリンピック閉会式の演出を引き受けた理由について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。2月28日(月)~3月4日(金)のゲストはクリエイティブディレクターの小橋賢児。1日目は、自ら演出を手掛けた東京パラリンピック閉会式について—
黒木)小橋さんは8歳から俳優として「ちゅらさん」や「人間失格」など、数々の有名なドラマに出ていらっしゃいます。8歳からやっていらっしゃったのですね。
小橋)8歳から27歳までやっていました。
黒木)私ははじめましてですよね。
小橋)そうなのですよ。
黒木)ご縁がなかったみたいです。
小橋)でも、ようやくいまここでご縁をいただいて感謝しております。
黒木)ありがとうございます。27歳で俳優を一応休業ということなのですね?
小橋)当時は休業というつもりでいたのですけれども、結果、長期休業になっているという状態です。
黒木)現在はクリエイティブディレクターとしてご活躍なさっております。そして2021年は私も拝見させていただきましたけれども、東京パラリンピック閉会式のショーディレクター、総合演出を担当されました。
小橋)そうですね。
黒木)コロナ禍で大変だったとは思うのですけれども、とても華やかで健常者の方々と障害者の方々が同じ土俵で、というコンセプトだったと思います。どういう気持ちでおつくりになったのですか?
小橋)全体のコンセプトは“Harmonious Cacophony”と言いまして、「調和する不協和音」というテーマでした。
黒木)調和する不協和音。逆ですね。
小橋)「何ぞや」という感じではないですか。でもその大きなテーマ以上に私が思っていたのは、「美しい未来」や「素晴らしい世界」というようなユートピアを提示するのではなく、「この世界は見方を変えれば、既に美しいのだ」ということを提案することです。
黒木)見方を変えれば。
小橋)見方の提案という意味で、「ありのままの姿でそれぞれの人たちが、それぞれの身体を持ちながら、生き物としていきいきと輝く姿」を見せたかったのです。
黒木)ありのまま。
小橋)「What a Wonderful World」という曲を使わせてもらったのですけれども、その曲自体がまさにベトナム戦争のときにできた曲で、「空が青くて白い雲があって……」とありのままの日常を歌っているのですけれども、「でもやはり素晴らしいではないか」と言っているのです。そういう世界を見せたかったのです。
黒木)その世界観は小橋さんが歩んで来られた人生の世界観ですよね?
小橋)そうですね。私は8歳から27歳まで俳優をやっていましたけれども、途中で休業して世界中を回ったものの仕事もうまく行かず、死の淵をさまようようなどん底もありました。また身内に障害を持っている人間もいたのですが、ないものを追いかけるより、「いまある現状のなかで自分がどう動けるか」ということの方が大事だと、倒れたあとに改めて気付きました。
黒木)倒られたあとで。
小橋)それぞれにいまの現状や環境があると思うのですけれども、置かれた環境を嘆くのではなく、見方を変えれば既に素晴らしいではないかと。
黒木)ありのままの世界を受け入れるという意味でもあるのですか?
小橋)そうですね。
黒木)そして見方を変えたら美しいのだという。
小橋)そうですね。
黒木)そういうことを世界中のみなさんにということですよね。
小橋)はい。
黒木)高評価で称賛の声が多かったのですよね。
小橋)引き受ける段階では、かなり時間も差し迫っていました。でも、最初に声がかかったときに鳥肌が立ったのです。その鳥肌の感覚というのは、自信というのが自分を信じると書くように、自分の感覚を信じてみようということと、いろいろな状況はあるにせよ……走り出しても途中で中止する可能性もありましたので。
黒木)そうですね。
小橋)そのときに選手のことを考えると、彼らはこういう状況下でも日々もがきながら、悩みながらトレーニングをしているのです。いざ進んで行ったはいいけれども、クリエイターが何も用意していなかったというのは最悪だと思って、自分ができることをこの瞬間にかけてやり切ろうと思って引き受けさせていただきました。
黒木)鳥肌が立ったこの感覚、感性をそのまま演出にぶつけて行く。
小橋)そうですね。
黒木)言葉1つひとつがとても詩的で斬新で、さすがクリエイティブディレクターですね。
小橋)いえいえ、とんでもないです。
小橋賢児(こはし・けんじ) / クリエイティブディレクター
■1979年8月・東京都生まれ。42歳。
■8才で芸能界デビュー。以後、数々のドラマや映画、舞台に出演。
■2007年、27歳のときに俳優活動を休業。世界中を旅しながら多様な文化に触れながらインスパイアを受け、映画やイベント製作の仕事を開始。
■2012年、アメリカ縦断を描いた長編映画『DON’T STOP』」で映画監督デビュー。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティアワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。
■また『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任。500機のドローンを使用した夜空のスペクタルショー『CONTACT』ではJACEイベントアワードにて最優秀賞の経済産業大臣賞を受賞。
■昨年は東京パラリンピック閉会式のショーディレクター(総合演出)を担当。2025年の「大阪・関西万博」では催事企画プロデューサーに就任。職業という枠にとらわれない、クリエイティブでマルチな活躍をみせている
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