停戦交渉は「ロシアの時間稼ぎ」の可能性も ~大規模攻勢のための再編成準備
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年3月30日 21時50分
ロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月30日放送)に米ハドソン研究所研究員の村野将氏が出演。3月29日に行われたロシアとウクライナによる停戦交渉について解説した。
ロシアとウクライナ、停戦交渉 ~キエフなどの攻撃、大幅縮小へ
ウクライナで激しい戦闘が続くなか、トルコのイスタンブールで、ロシアとウクライナによる対面形式の停戦交渉が日本時間3月29日夜に行われ、双方の代表団は一定の進展があったとの認識を示した。ロシアの国防次官は、首都キエフなどでの攻撃を大幅に縮小する考えを明らかにした。
飯田)攻撃を縮小するということですが、ロシア軍の引き揚げ方は限定的であるという報道もあります。ここでは、米ハドソン研究所研究員の村野将さんに電話をつないで話を伺います。よろしくお願いします。
村野)よろしくお願いします。
大規模攻勢をかけるために再編成している可能性も ~「脅威が去った」と楽観視することはできない
飯田)停戦交渉等々について、村野さんはどう評価されていらっしゃいますか?
村野)ロシアは「攻撃を縮小する」と言っていますけれども、本当に縮小するのかどうかということです。米国防総省のカービー報道官が記者会見を行いましたが、国防総省の認識でも、「これはロシア軍の撤退ではなく、再配置だ」ということです。実際に攻撃が減るのかどうかは、今後の情勢をきちんと見て行かなければわかりません。決して安心できる材料ではないと思います。
飯田)安心はできない。
村野)ワシントンでは、「停戦交渉と言っていても、ロシア語では“リロード”、つまり“砲弾や弾薬を再装填するための時間稼ぎ”という意味なのだ」という皮肉も聞かれています。
飯田)再攻撃を準備するための時間稼ぎであると。
村野)ロシア側は、実際にこの時間を使って体制を立て直し、キエフに再攻撃をするわけではないのかも知れませんが、他の地域に大規模攻勢をかけるために再編成している可能性もあります。今回の交渉だけを見て、「脅威が去った」と楽観視することはできないというのが現在の見方だと思います。
飯田)ロシアは東部2州などを完全に掌握して、着々と陸の回廊をクリミア半島に向けてつくるという認識でいいですか?
村野)おそらくそうだと思います。
議題となっている「中立化」が何を意味するのか
飯田)停戦交渉の枠組みのなかで、「ウクライナに対する安全保障をどうするのか」という話がありましたが、どのような枠組みが考えられますか?
村野)停戦協議の議題となっている「中立化」が何を意味するのか。ロシア側としては、ウクライナをNATOに加盟させない、外国軍を駐留させないという要求を主張しています。
飯田)ロシア側は。
村野)一方でウクライナとしては、第三国からウクライナの安全を保障することが必要だと言っています。第三国には、トルコやドイツ、カナダ、イタリア、ポーランド、イスラエルといった国の名前が出て来ているそうですが、ここにあげられた国がウクライナの安全を実際に保障できるのかという、別の実効性の問題があります。
飯田)実際に安全を保障できるのか。
村野)もう一方で、仮に実効性のある安全保障上のギャランティーを提供できるのだとすると、ロシアとしては受け入れられないということになります。どのような折り合いの付け方があるのか、まだよく見えていない印象です。
アメリカは物理的な防衛コミットメントをするのか ~さらに踏み込む判断には至っていない
慶應義塾大学准教授・鶴岡路人)アメリカがどこまで安全を保障できるのかというのが、最終的には問われると思います。「本当に安全を保障できるのならば、NATOに入れていたのでは」というところで、アメリカはどのくらい安全保障にコミットできると見ていますか?
村野)そこもわからないですね。いまおっしゃったように、実際に保障できるものであれば、ウクライナをNATOに入れることとイコールでしょう。もし次にロシアが、さらなる現状変更をウクライナに対して行おうとした場合、「アメリカは物理的な防衛コミットメントをするのですか?」と問われれば、「できるのであれば既にしていたのではないか」と言えてしまいます。ですので、「さらに踏み込む」という判断には至っていないような気がします。
バイデン政権の国家防衛戦略のなかではロシアへの優先順位は2番目 ~最優先事項は中国、インド太平洋地域
飯田)アメリカ国内で、核体制の見直しの議論なども出て来たという話があります。アメリカの本気度が疑われるようになると、世界全体が不安定化するような気がするのですけれども、その辺りを現政権はどう考えているのですか?
村野)バイデン政権は機密版の国家防衛戦略を3月28日、議会に提出しました。それに連なる核体制の見直しや、ミサイル防衛の見直しに関する文書の最終的なプロセスを行っています。公表された概要によると、国家防衛戦略のアウトラインのなかでは、最優先事項は中国、インド太平洋地域であって、欧州やロシアに対する対処はその次だと、改めて書き直しています。ロシアが2番目であり、優先順位がそれほど高くないというのは、その通りだと思うのです。
インド太平洋地域に限られたリソースを投じようというときに起きたロシアのウクライナ侵攻 ~このままではインド太平洋地域への注力は難しくなる
村野)必ずしも十分な国防リソースを割けないというなかで、それぞれの国や地域に対してどのような手当てをするのかというのは、引き続き難しい問題です。20年続いた中東での対テロ戦争からようやく引き揚げて、インド太平洋地域に限られたリソースを投じようというときに起きたのが、今回のウクライナ、ヨーロッパでの危機だったわけです。
飯田)インド太平洋地域に向かおうというときに。
村野)今後、欧州地域が再び安定した環境に戻って行かないと、継続的にインド太平洋地域への注力はできなくなってしまいます。そのバランスの取り方は、バイデン政権から予算教書が出て来ましたけれど、実際に予算化されるのは夏にかけて議会での議論を経てからということになるので、そこでの推移も重要なポイントになるのではないでしょうか。
飯田)日本もまったく他人事ではないということですね。
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