ロシア産の“石油”は止められても“天然ガス”は止められない「EUの事情」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年6月1日 19時20分
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25日、モスクワで開かれた会議で発言するロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ)
ジャーナリストの佐々木俊尚が6月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。首脳会議で合意したEUのロシアへの追加制裁について解説した。
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2022年5月25日、モスクワで開かれた会議で発言するロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信
EU、ロシア産石油禁輸で合意 ~パイプラインでの輸入は当面除外
ヨーロッパ連合(EU)は5月30日の首脳会議で、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの追加制裁として、ロシア産石油の輸入禁止で合意した。ただし、パイプラインでロシアから石油を調達しているハンガリーが、自国のエネルギー確保が脅かされるとして強く反対していたが、協議の結果、パイプラインによる輸入は当面除外し、船で輸送される石油に限ることで合意した。
飯田)とはいえ、2022年末までに9割近くは減るという見通しを、フォン・デア・ライエン委員長は言っています。
天然ガスのロシアへの依存度は5割近くあるEU
佐々木)着々と進んでいる感じはありますが、あまりエネルギーを禁輸してしまうとEU側、ヨーロッパ側にも痛みが伴うので進めにくいという問題があります。原油に関しては、EUのロシアへの依存度は約25%と少ないのですが、天然ガスは5割近くあるので、実は天然ガスの方が本命だという話もあります。
船で石油を運ぶ場合、積み替えができてしまい、抜け道が多い
佐々木)エネルギー安全保障の専門家である大場紀章さんが、5月31日にツイートされていて「なるほどな」と思ったのですが、パイプラインと違って石油はタンカーで運ぶではないですか。そうすると積み替えができてしまうのです。ロシアからEU域以外のどこかへ輸出し、そこで積み替えてEUに戻すこともできる。そういうやり方をしている国もあるらしく、抜け道が多いという問題があります。
EUだけが結託すれば実効性が上がるわけではない
佐々木)東大の安全保障の専門家である鈴木一人さんも書いていたのですが、EUが今後、ロシア以外の中東などから原油を買うとなると、中東からの輸出がEU中心になる。そのために、中東から買っていたお客さんが買えなくなるので、その人たちは今度はロシアから買うのではないかと言われています。顧客がシフトするだけで終わってしまうのではないかという指摘もされています。
飯田)その可能性もあります。
佐々木)実際にいまのウクライナ侵攻をめぐる情勢を見ていると、G7は西側諸国、日米欧と結託しているイメージがありますが、その外側のアジアやアフリカ、中東などを見ていると、それほど反ロシアではなく、意外とロシア寄りの国が多いという現状があります。
飯田)その外側の国々は。
佐々木)あれだけシリアなどが酷い目に遭っていたのに見捨てておいて、「なぜ急にウクライナだけみんなが協力するのだ」という反発もあるのだと思います。そのような国がロシアからエネルギーを輸入するという方向性にもなり得るので、必ずしもEUだけが結託すれば実効性が上がるわけではないと思います。
LNGを扱う施設がなく、LNGを船で運べないEU ~天然ガスはすべてパイプラインからの輸入
飯田)インドなどはロシアからかなり買っているという話もあります。
佐々木)インドはロシアから武器も買っていますからね。EUも天然ガスをロシアから5割ほど買っていますが、この天然ガスにも問題があって、天然ガスが産出する国というのは少ないのです。
飯田)天然ガスが産出する国は。
佐々木)アメリカ、ロシア、中国くらいです。あとはカタールやインドネシアなどです。しかし、中国とロシアしかパイプラインでは持って来ることができません。中国は国内需要が大きいので、欧州には売らないだろうと考えられます。そのため、パイプラインではない方法で買うとなると、日本のように液化天然ガス(LNG)にして船で持ってくるという方法があるのですが、そもそも大陸のEUの天然ガスはすべてパイプラインなので、液化天然ガスを扱う施設が何もないのです。
飯田)陸揚げをしてからの施設がないと言いますよね。
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2022年4月25日、モスクワでの会議に出席するロシアのプーチン大統領(タス=共同) 写真提供:共同通信社
ロシアからの輸入を止めると天然ガスが半分なくなってしまうEU
佐々木)そのようなものをいまさらつくれないので、結局、パイプラインで買うしかない。そうなると現状、ロシアからしか買えません。しかし、ロシアからの輸入を止めてしまうと天然ガスが半分なくなってしまうのです。
飯田)ドイツが船に浮かべる形でLNG基地をつくろうという話をしていますが、いったいいつになるのかという話ですよね。
佐々木)1年や2年ですべてできるというような話でもなさそうです。去年(2021年)もヨーロッパでは風が吹かず、太陽光も足りなくなってエネルギー危機に陥り、悲惨な状況だったと報じられていましたが、それよりも深刻な事態になるでしょう。
飯田)昨年よりも深刻な状況に。
佐々木)そう考えると、ロシアからの天然ガスを止めるというのは、相当難しいのではないでしょうか。エネルギー高騰で金額も上がり、コストも高くなっています。ロシアではそこから入ってくる莫大なお金がすべて軍事費に回っているのです。EUはお金をロシアに払い、ロシアはそのお金で武器をつくってウクライナに侵攻し、そのウクライナへの侵攻をEUが協力してやめさせようとしている。自分たちで蛇の尻尾を食べているような、グルグル回っている状況になっています。ここから抜け出す道は難しいですね。
ロシアとウクライナの戦いは当分終わらない
飯田)他方、ウクライナ侵略はこのままいくと、年末まで伸びるのではないかという話も出てきています。
佐々木)状況としては、キーウなどは守られ、ハルキウも奪還したようですが、東部ルハンスク州や南部マリウポリの辺りはロシアが制圧しつつあります。しかし、その領土がロシアに占領されたままで、ウクライナが戦争をやめることは決してない。ロシアはその領土を占領し続けるという膠着状態が今後、何年も続くのではないかと指摘している軍事専門家は多いです。
軍事専門家は「ロシアが勝つ」と言い、歴史家は「ロシアが負ける」と言う
佐々木)とは言っても、ロシアの国力が削がれていることも事実です。軍事専門家は「ロシアが勝つ」と言っていますが、歴史家は「ロシアが負ける」と言っています。10~20年の長さで考えると、ロシアが中国の属国になってしまうというようなことも考えられますが、短期的に見れば軍事力で勝り、東部の支配は続くので戦争は終わらない。「どこまで我慢比べが続くのか」という状況だと思います。
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