どうなる? 日本車伝統のビッグネーム(後編)
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年8月5日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第299回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日産自動車の「新型エクストレイル」について—
2022年7月15日、トヨタ自動車から発表された「新型クラウン」は、定番のセダンの他、「クロスオーバー」「スポーツ」「エステート」の計4車種で展開されることになりました。一段とSUV色を強めた印象があります。
一方、7月20日には日産自動車から「新型エクストレイル」の発表がありました。これまた世界的に流行するSUVです。全車、エンジンで発電した電気で駆動する「e-POWER」仕様となりました。
日産はここへきて、電気自動車のSUV「アリア」、スポーツカーの「フェアレディZ」、電気自動車の軽自動車「サクラ」、そして今回のSUV……新型エクストレイルと新車を発表していますが、このなかにセダンはありません。いま、国内で展開されている日産のセダンはシーマ、フーガ、スカイラインの3車種。関係者によりますと、このうち、シーマ、フーガについてはまもなく廃止されるもようです。
シーマはバブルの時代に「シーマ現象」という流行語を生むほど、高級車市場をけん引しました。一方、フーガはかつてのセドリック、グロリアを前身に持ちます。ともに伝統ある高級セダンです。残るスカイラインも去年(2021年)、「開発中止」という報道がありました。
「日産はスカイラインをあきらめません」
日産の星野朝子副社長は、昨年6月の新型車「ノートオーラ」の発表会で異例の否定コメントを出していました。スカイラインも65年の歴史を誇ります。クラウンに並ぶビッグネーム。こうした日産のセダンがどうなるのか、今回の新型車発表会で星野副社長に聞いたところ、こんな答えが返ってきました。
「これぞ日産のセダンというものがつくれたときには、皆さんの前に日産のおもしろいセダンが登場するかも知れない。期待していいと思う。日本ではセダンのマーケットが5%を切ったぐらいになっている。世界中でどんどん(マーケットが)小さくなっている。それでも、“日産はこうきたか”というような日産の技術が、セダンだからこそできる日産のセダンができるようになったときに、新しいセダンの世界が展開できると思う」
星野副社長の言うセダンのなかには、スカイラインは含まれているでしょうか。セダン不振の状況で、苦しい胸の内が感じられます。昨年、星野副社長は「スカイラインをあきらめない」とは言っていますが、「セダンをあきらめない」とは言っていません。この辺り、気になるところです。
スカイラインもかつてはハードトップ、クーペ、クロスオーバーがあった時期もありました。いまはセダンだけ。かつて「スポーツセダン」がかっこよかった時代がありました。カーマニアの間では、「羊の皮をかぶった狼」という言葉がかつてありました。
普段はおとなしいスタイルですが、いざ走らせてみると高性能という、そんなクルマに憧れたものです。いまも、大人4人が乗れる実用性を備え、冠婚葬祭にも使え、かつ運転して楽しい……それがセダンの魅力だと私は思います。
国内事情というもう1つの視点で考えると、日本を代表する2つのビッグネームに陰りが出始めるきっかけとなったのは、物品税の廃止と自動車税の改正だと私は思います。この2つの改正は普通車の3ナンバーと、小型車の5ナンバーの境目を事実上なくすものでした。
改正される前は自動車税、物品税の金額は3ナンバーと5ナンバーで大きな開きがあり、3ナンバーは贅沢品とされました。ユーザーも3ナンバー車の購入には二の足を踏む人が多く、その販売台数は極めて少なかったと記憶しています。
しかし、この税制改正により、3ナンバー車のハードルはぐっと低くなりました。当時のバブル景気も相まって、3ナンバー専用車も登場。その代表的な存在は、先の「シーマ現象」なる言葉を生み出した日産自動車の「シーマ」でした。
そうしたなかで、クラウンとスカイラインは5ナンバーの星と言ってもいい存在でした。特に排気量の上限である2000ccは、私が少年だった1970~80年代、「いやあ、2000かあ」と言われるぐらい、小型車のなかでも羨望の存在でした。
スカイラインは小型車枠のなかで最高の性能を目指し、2000ccにこだわり続けました。クラウンは2000ccを超える3ナンバー車もありましたが、基本は5ナンバー。3ナンバー車は小型車規格いっぱいの寸法にバンパーやサイドモールなどで寸法を稼ぎ、差別化していたものの、前出の税制の関係で3ナンバー車は希少な存在でした。
両車には5ナンバーというくびきにあえぎながらも、その枠内で最高の性能を目指すという気概があったと思います。軽自動車の項でも述べた通り、そこには限られた制約のなかで最高のものを追求する日本人の国民性が宿っていたと言えます。
しかし、5ナンバーのくびきから外れると、クラウンもスカイラインも3ナンバーの枠を飛び越えます。スカイラインは1989年発表のR32型で復活したGT-Rで初めて3ナンバー車の世界に足を踏み入れ、1993年に発表された次のR33型では全車3ナンバー車になりました。
しかし、5ナンバーのくびきから外れるということは、競争激しい国際市場の土俵に上がることでもあります。両車に国際競争力がないとは言えませんが、少なくとも日本に目を向けるべきか、海外に目を向けるべきか、両車はそのジレンマに悩まされた30年間だったのではないでしょうか。
ルノーとの提携の道を選んだ日産は「グローバル戦略」として、日本向けに「スカイライン」の車名を冠し、北米向けはインフィニティブランドの1つとして展開しました。海外に通用するプレミアムセダンになった一方、日本にとってジャストサイズの高性能車だった「スカイラインらしさ」は失われ、セダン市場の縮小もあって、国内販売台数は減少の一途をたどります。
クラウンも販売台数がピーク時の約10分の1に落ち込んだとはいえ、セダン不振のなかで、月販平均1700台余りという数字はむしろ立派なものであり、「孤軍奮闘」と言っていい状況だったと思います。16代目の新型では海外展開、4車種への拡大と大きく舵を切りました。
多分にノスタルジックではありますが、このような見方も見逃せないと思います。伝統的なボディであるセダンは、もはや国内では「絶滅危惧種」と言っていい存在です。そして、それをメインとしてきたクラウンとスカイラインという、日本車伝統のビッグネームがどうなるのか。
電動化や自動運転など「100年に一度の大変革」と言われて久しい自動車業界ですが、その荒波のなかにのみこまれていくのか、しぶとく生き残っていくのか……今後も注目していきたいと思います。(了)
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