「世界のシブコ」復活! 全英女子OP3位、渋野日向子が再び優勝争いを演じられた「いくつかの理由」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年8月10日 17時20分
![「世界のシブコ」復活! 全英女子OP3位、渋野日向子が再び優勝争いを演じられた「いくつかの理由」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_378878_0-small.jpg)
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は8月7日のAIG全英女子オープンで、最終日最終ホールまで優勝を争った渋野日向子選手にまつわるエピソードを紹介する。
![](https://news.1242.com/wp-content/uploads/2022/08/jpp042602558RS.jpg)
最終ラウンドでティーショットを打つ渋野日向子=2022年8月7日、イギリス・ガレーン 写真提供:時事通信
『この4日間いろんなことを学べたと思いますし、忘れていたものを思い出せたという部分もありますし、また新しいことを覚えられたということもありますし…ここ最近にしてはなんでこんなに良かったのかなと思います』
~『サンケイスポーツ』2022年8月8日配信記事 より(渋野のコメント)
3年ぶりに、未明まで中継に見入った人も多かったのではないでしょうか。8月7日に英国・スコットランドの名門クラブ・ミュアフィールドで最終日が行われたメジャー・AIG全英女子オープン。
3年前にこの大会を制し、一躍世界に名が知られる存在となった渋野日向子は、首位と5打差の2位で最終日を迎えました。逆転で2度目の女王を狙う絶好のチャンスがめぐってきたのです。
渋野は今季(2022年)から、主戦場を米国女子ツアーに移しました。4月のメジャー・シェブロン選手権では2日目に単独首位に立ち、優勝は逃したものの4位に入るなど前半は好調でした。しかし後半は一転、ここ最近は予選落ちを繰り返す極度の不振に陥り「どうした、シブコ?」と心配されていたのです。
そんななか迎えた、全英女子オープン。渋野は舞台が大きくなればなるほど、力を発揮するゴルファーです。しかもこの大会は3年前に制した大会。まるであのときを思い出したかのように渋野は復調を遂げます。初日にいきなり65をマークして、日本人選手の大会ベストスコアを更新。首位に立つと、2・3日目も大崩れすることなく上位をキープ。9アンダーの2位で最終日を迎えました。
渋野と5打差の14アンダーで首位を走るのは、アシュリー・ブハイ(南アフリカ)。最終日はブハイと渋野が最終組で回ることになりましたが、実はこの2人、渋野が優勝した2019年の全英女子オープンでも最終日・最終組で一緒に回っていたのです。このことも、渋野に好調時を思い出させる要因になったのかも知れません。この2人を、米メジャー4勝目が懸かった韓国のチョン・インジが追う形で、優勝の行方は三つ巴に。
渋野は3番・4番で連続ボギーを叩きましたが、パー5の5番で、第2打をピン右5mにつけてイーグルを奪います。前2ホールで後退した分をすぐに取り戻してみせるあたりが、さすが渋野。この時点で首位・ブハイとの差は3打差に縮まりました。
しかし、パー4の14番で1打を左バンカーに入れてしまい、痛恨のダブルボギー。ここでの2歩後退は痛すぎましたが、勝負は何が起こるかわかりません。難関の15番ホールで、思いがけないことが起こります。
首位のブハイが厄介なバンカーに入れてしまい、とりあえず出すだけのショットが、今度は深いラフまで行ってしまい、そこから脱出しようと放ったショットが、草に絡まって再びラフへ……。
中継を観ていて「こんなことってあるんだ」と驚きましたが、これもメジャー初制覇へのプレッシャーだったのか、ブハイはこのホール、トリプルボギーを叩いて渋野と1打差に。信じられないような悪夢が、よりによってこんな大事なところで起こるのがゴルフの怖いところです。
結局渋野は、ブハイ、チョンと3すくみのまま、1打差で最終18番(パー4)を迎えました。ここでバーディーを奪うのが逆転Vの絶対条件でしたが、渋野は1打目を右のラフに入れ、2打目はグリーン奧のラフへ。さすがにそこからのカップインはならず、渋野はわずか1打差でプレーオフ進出を逃しました。
最終日は1イーグル、3バーディー、3ボギー、1ダブルボギーと出入りの激しいゴルフでしたが、最終的に首位と1打差の9アンダー、3位でホールアウト。試合直後のTVインタビューで、渋野はこう答えています。
『やり切ったかなとは思うんですけど、やっぱりすごく悔しいです』
~『サンケイスポーツ』2022年8月9日配信記事 より
表情を見ていると、本当に悔しそうで、ちょっと涙を浮かべているようにも見えましたが、注目したいのはこのコメントです。
『最近の私のゴルフの調子とか、自分の考えていることとかとは本当に全く違うゴルフがこの4日間すごくできたと思いますし、この結果に対してはすごく成長したと思いたいかなと思う結果ではあるんですけど、内容を振り返ると3パットも3回しましたし、もったいないものも多かったので、自分のミスが目立ってしまったかなと思います』
~『サンケイスポーツ』2022年8月8日配信記事 より
渋野は、3年前に全英女子オープンを制したあと、フォームの改造に乗り出しました。「メジャーで勝ったフォームを、何で変える必要があるの?」という声もたくさん届いたそうですが、さらに上を目指すために、信念を持って新しいスタイルを模索していったのです。
また渋野は、3年前に優勝したこの大会で、再び好結果を残せたことについて聞かれ、こう答えました。
『私自身が作られた試合でもあると思いますし、いいコースでやらせていただけるということで、初心に戻ってプレーできたのがすごく良かったと思いますし、でも攻めるプレー、耐えるプレーのメリハリをつけてできたのが良かったのかなと思います』
~『サンケイスポーツ』2022年8月8日配信記事 より
今回、会場となったミュアフィールドは、1744年に開場した3世紀近い歴史を持つ伝統のコースです。過去16回も男子の全英オープンの会場になっていますが、ここはずっと“女人禁制”で、数年前まで男性メンバーしか受け入れてきませんでした。そのコースで、初めて女子プロゴルフの大会が行われたことは、歴史的にも大きな出来事。そういう歴史的な舞台になると、渋野は“スイッチが入る”のです。
ラウンド中「攻めるプレー」「耐えるプレー」のメリハリがつけられた、という上記のコメントからも、トンネルを抜けて、何かをつかんだ感がある渋野。ここ数年模索してきた新しいゴルフスタイルが、ようやく固まってきたのかも知れません。
そして、ホールアウト後の渋野の行動にも、世界から賞賛が寄せられました。優勝の行方は、ブハイとチョンの2人によるプレーオフに持ち込まれ、4ホールの激闘の末、ブハイが勝利。ブハイは33歳。米ツアー221試合目にして初めてつかんだメジャーの栄冠でした。
ホールアウト後、そのプレーオフの模様を見守っていた渋野。愛妻の応援に来ていたブハイの夫を見付けると、こんな行動に出ます。
『その最中だった。ブハイの夫を見つけて駆け寄り、抱き合った。背中を何度もポンポンと叩き、ハグが解かれると、今度は満面の笑みを浮かべて両手でサムアップポーズを何度も送った。自らが1打差でプレーオフに進めず、悔しさもあったはずだが、優勝を争ったライバルへのエールを表現した。ブハイの好ショットに拍手を送るシーンもあった』
~『THE ANSWER』2022年8月8日配信記事 より
3年前、渋野が優勝を決めたときに、同組で回ったブハイは万歳して祝福してくれました。あのときと立場を変え、ブハイの初メジャー制覇をわがことのように喜んだ渋野。プレーオフ進出は逃したけれど、それはもう済んだこと。サッと気持ちを切り替えて、好勝負を演じたライバルを祝福する。なかなかできないことだと思いますし、ここにも渋野の成長を感じます。
渋野がブハイの戦いを見守り、勝利を喜ぶ映像を大会公式ツイッターが発信し、世界中のゴルフファンが、称賛のリプライを送りました。その人柄と笑顔でも人々を魅了する「世界のシブコ」。これからもメジャー大会を沸かせてくれそうです。
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