特急「わかしお」は50年前、房総の旅をどのように変えたのか?
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年8月17日 11時50分
![特急「わかしお」は50年前、房総の旅をどのように変えたのか?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_379756_0-small.jpg)
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
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うにとさざえめし
いまから50年前の昭和47(1972)年7月、鉄道100年の節目にできた東京地下駅の開業に合わせて運行を開始した房総東線改め「外房線」の特急「わかしお」号。それまで長距離を走る重厚な存在だった国鉄特急に、短距離を走るカジュアルな特急列車という、新たな概念を持ち込むことに成功しました。内房線の「さざなみ」と外房線の「わかしお」は、房総の旅をどのように変えていったのでしょうか。
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E257系電車・特急「わかしお」(50周年記念ラッピング車両)、外房線・本納~永田間
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第36弾・南総軒編(第3回/全5回)
昭和47(1972)年7月15日、東京~安房鴨川間で運行を開始した特急「わかしお」号。現在1編成(5両)に来年(2023年)3月ごろまでの予定で50周年記念ラッピングが施されています。運転日時や運転区間はシークレットなので、出逢えるかどうかは運次第。この車内には、懐かしのヘッドマークや写真が展示されている他、記念ロゴが入った専用のヘッドレストカバーが付けられたシートで運行する列車もあるということです。
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南総軒・越後貫薫夫会長
房総東線(外房線)の電化、そして特急「わかしお」の運行開始に伴って、昭和4(1929)年から、勝浦駅の構内営業者として駅弁を製造・販売してきた「南総軒」は、勝浦に拠点を置いたまま、安房鴨川駅へと進出しました。この鴨川進出の背景には何があったのか。合資会社南総軒の4代目・越後貫薫夫会長に、特急「わかしお」運行開始前夜、昭和40年代前半の、房総東線の構内営業からお話いただきました。
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旧大網駅跡
●駅弁が売れた大網駅のスイッチバック!
―昔の文献を見ると、勝浦駅には昭和44(1969)年8月まで蒸気機関車牽引の列車がやって来ていて、両国や新宿からの気動車急行も、鴨川まで約3時間かかっていますね。
越後貫:大網駅にスイッチバックがあったんです。いまの大網駅は、カーブ上にホームがありますが、昔の大網駅はいまの東金線のほうへ進んだところにホームと駅舎がありました。千葉から勝浦へ来る列車は、大網で列車の進行方向が変わるため時間がかかりました。大網では列車の停車時間も長くて、駅弁は本当によく売れたと言います。最盛期には、富田屋さんと青木屋さん(後年は駅そばを製造・販売)の2社があったほどです。
(取材協力:大網白里市商工会)
―ほんの少し前までSLが走っていた房総東線は、昭和47(1972)年の夏を前に一気に変わっていったんですね。
越後貫:(昭和30年代の千葉駅のスイッチバック解消に続き)、この年に大網のスイッチバックが解消され、房総東線は電化されて「外房線」となりました。そして、(いまの総武快速線が作られて)東京地下駅が開業し、東京駅から直通する特急列車「わかしお」が走り始めたわけです。このとき、(ひと足早く電化していた)房総西線は「内房線」となって、特急「さざなみ」が走るようになりました。
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183系電車・特急「わかしお」、外房線・安房鴨川駅(2004年撮影)
●「わかしお」の窓が開かない! 南総軒は鴨川へ
―この年、南総軒は安房鴨川へ進出しました。その背景には、何があったんでしょうか?
越後貫:当時の南総軒は、勝浦駅の停車時間に、いわゆる立ち売りスタイルで、駅弁を販売していました。しかし、新しい特急「わかしお」は、急行列車と違って窓が開きません。途中駅となる勝浦では駅弁を売りにくくなることが予想されました。しかし、「わかしお」の始発駅なら、お客様にも駅弁をお求めいただけるのではないかと考えて、安房鴨川駅で駅弁の販売を始めたんです。
―いまの本社となる「鴨川店」は、翌1973年に建てられたそうですね。
越後貫:「わかしお」が走り始めた昭和47(1972)年の夏は、まだ高度経済成長時代で、本当に海水浴のお客様が多かったんです。当初は勝浦で作った弁当を鴨川まで運んでいましたが、(それでは追いつかないとなって)姉の高校の同級生の伝を辿って、安房鴨川駅の近くで空いている土地を紹介してもらいました。そしてこの場所に翌年2月27日、弁当の製造工場を建てて、勝浦と鴨川の2拠点で製造することになったんです。
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かつての安房鴨川駅・南総軒売店(2004年撮影)
●「わかしお&シーワールド」で大盛況の鴨川!
―そんなに多くのお客さんが、鴨川に押し寄せたんですか?
越後貫:海水浴シーズンは、列車の改札が始まると、乗客がドッとホームに流れ込んで、自由席にズラッと列を作っていました。駅売りより車内販売のほうがよく売れましたので、昼前の最もよく売れる特急列車には、1本に約100個の幕の内を積み込んでいました。夏は増発されて、毎時1本の「わかしお」が発着するので、朝7時から夕方5時ごろまで積み込み駅弁の生産に追われました。
―50年前、鴨川にはもう1つ、大きな出来事があったそうですね?
越後貫:昭和47(1972)年10月、いまも人気の「鴨川シーワールド」がオープンしました。これによって、夏だけ賑わっていた鴨川に、通年でお客様がいらっしゃるようになりました。弊社でも当時、通常の幕の内弁当に「鴨川シーワールド」がデザインしてくれたオープン記念掛け紙を作って販売しました。さらに翌年は、千葉県で「若潮国体」が開催されて、勝浦と鴨川は一緒にラグビーの会場となりました。これで地域は大いに潤ったんです。
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うにとさざえめし
特急「わかしお」の運行開始で、東京方面からの所要時間が、1時間以上も短縮され、鴨川シーワールドのオープンで多くの観光客が訪れるようになった鴨川。鴨川の新鮮な海の幸を気軽に味わえるようになったことも、「わかしお」が生んだ変化かも知れません。そんな房総らしい南総軒の海の幸の駅弁と言えば、「うにとさざえめし」(1200円)です。現在は、原材料の調達が難しくなっているため、前日までの予約制で販売しています。
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うにとさざえめし
【おしながき】
・ひじきの炊き込みご飯
・蒸しうに
・さざえ煮
・ひじき煮
・錦糸玉子
・セロリのピリ辛炒め
・しば漬け
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うにとさざえめし
房総名物・ひじきを使った炊き込みご飯の上に、蒸しうにとさざえ、ひじきと錦糸玉子が、彩りよく盛られていて、小箱のふたを開けた瞬間から漂ってくる磯の香りにワクワクします。ひと手間かけたご飯も特徴で、まず醤油ベースで炊いて、アツアツのうちにひじきを煮汁と一緒に合わせているのだそう。これに加え、南総軒自慢のセロリの佃煮がいいアクセントになっていて、箸がどんどん進みます。
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E257系電車・特急「新宿わかしお」、外房線・安房天津~安房鴨川間
東京地下駅を発着する特急「わかしお」が運行されるまで、房総方面の急行列車などは、両国や新宿を始発駅として運行されていました。その系譜を継ぐのが、土・休日を中心に運行されている特急「新宿わかしお」号です。東京・山手から房総へのアクセスだけでなく、総武本線経由で運行されることから、船橋、津田沼、千葉の各駅にも停まる重宝な存在。割引きっぷも充実しており、お得な指定席で楽しみたいものです。
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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