米中間選挙 共和党が強い州で多くの女性が民主党に投票する理由
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年10月27日 19時15分
![米中間選挙 共和党が強い州で多くの女性が民主党に投票する理由](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_395323_0-small.jpg)
人工妊娠中絶の権利を訴えるデモ(アメリカ・テキサス州オースティン)
東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が10月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。11月8日に投開票されるアメリカ中間選挙について解説した。
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人工妊娠中絶の権利を訴えるデモ(アメリカ・テキサス州オースティン) AFP=時事 写真提供:時事通信
アメリカ中間選挙まで2週間 ~今後のアメリカ政治はどうなるのか
アメリカでは、4年ごとに実施される大統領選挙の中間の年に行われる中間選挙まで、あと2週間を切った。選挙戦は最終盤に入り、両党の激しい攻防が続いている。今回の選挙によって、バイデン政権はどうなっていくのか。それにより国際社会にどう影響が及ぶのか。
飯田)11月8日に投開票となります。与党であるバイデン政権は苦しいのではないかと、前々から言われていましたけれど、現状はどうなっていますか?
鈴木)情勢はバイデン大統領にとってはかなり厳しいです。特に下院は、おそらく共和党が優位になるだろうと言われています。しかし、上院は思っていたほどではないということです。
第二次世界大戦以降、1期目の中間選挙で勝った大統領は3人しかいない ~ほとんどが負ける
鈴木)通常、特に1期目の中間選挙は、だいたい現職が負けるのです。
飯田)そうなのですね。
鈴木)第二次大戦以降、1期目の中間選挙で勝った大統領は3人しかいません。最近だとブッシュ元大統領……ブッシュジュニアですね。そのときは9.11があったのです。
飯田)同時多発テロ。
鈴木)2003年に中間選挙があり、愛国心ブーストがかかって勝ったという例がありますが、それ以降はオバマさんも、トランプさんもみんな負けています。1期目の中間選挙で負けるのはお約束のようなところがあります。
中絶論争で共和党が強い州でも女性が民主党に投票する可能性が出ている
鈴木)ただ、いま大きく流れが変わっていて、共和党の時代に保守系の判事が最高裁で任命され、人工中絶に関する判決が覆されました。その結果、州ごとに人工中絶に関する州法を決めていいことになり、人工中絶を禁止する州が増えてきているのです。
飯田)人工中絶を禁止する州が増えている。
鈴木)それに対して、共和党の人たちも反対している。特に女性が反発しています。これがいま大きなファクターになっていて、共和党が強い州でも女性が民主党に投票する可能性がある、もしくは投票に行かない可能性が出てきているのです。
飯田)共和党のなかでも。
鈴木)全体で見ると、共和党支持者のなかでも人工中絶禁止についての支持者はそれほど多くありません。過半数は超えるのですが、大多数ではない。
飯田)拮抗してしまうと。
鈴木)結局、共和党支持者の半分くらいになりますから、全体で見るとサイズとしては4分の1くらいになってしまうわけです。女性票を失うことによって、郊外の共和党が強かったところで票を失ってきているという情勢です。
人工中絶反対に異を唱える有権者がどう影響するか
飯田)トランプさんが出てくる時期に、「隠れトランプ」と言われた支持層がありましたが、今回はある意味、「隠れ民主党」のような表面だけの支持者もいるかも知れない。
鈴木)共和党に対する「ここだけは譲れない」というシングルイシューですね。最近はシングルイシューと呼ばれる、「この点で賛成できるかどうか」という1つの論点での議論が多くなっています。例えば、財政政策や外交安全保障、対中国です。1つのポイントで賛成・反対を決める有権者が増えてきているのです。
飯田)なるほど。
鈴木)トランプさんは嫌いだけれども、人工中絶には反対だからトランプさんを支持するという人もいたわけです。いまは逆のパターンがかなり出てきていると言えるのではないでしょうか。
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2022年5月3日、米西部ワシントン州シアトルで、中絶の権利擁護を求めて行われたデモの参加者ら(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社
バラマキ政策よりも「自分たちの価値観を実現するための政治」が重要視されるアメリカ
飯田)日本ではなかなか理解しづらいところではあると思いますが、アメリカでは宗教の問題に絡む人工中絶は大きな問題なのですよね。
鈴木)日本では選挙になると、インフレをどうするか、税率をどうするかなど、お金の話がメインになるのですが、アメリカの場合は、お金の話というよりも「自分たちの価値観を実現するための政治」が重視されるのです。
飯田)価値観を実現させるための政治。
鈴木)民主党はこれまでLGBTQなど、「個人のプライバシーや個人の権利をどう守るのか」という方向にウェイトを置いていて、批判されることもありました。
飯田)民主党に対して。
鈴木)逆に、共和党の方でも人工中絶の問題など、価値観をめぐる問題が重視されていて、いずれもお金の話ではないのです。インフレをどうするか、補助金をどうするか、いくら手当が出るのかという問題よりも、そちらが重視される。バイデン大統領はコロナ禍の最中にも、1人あたり最大1400ドルの小切手を配るというバラマキ政策を行いました。
飯田)そうですよね。
鈴木)インフラ投資法などの法律もつくり、地元にお金を流すようなこともしているのだけれど、人気は出ません。バラマキ政策が効かなくなってきているのです。ここは重要なアメリカの政治のポイントになっています。バラマキよりもアイデンティティが重要になりつつある。
神様を重視するのか、ライフプランを重視するのか ~価値観の問題にもなってきている
飯田)キリスト教の教義で言えば、人工妊娠中絶は神から賜った命を途中で絶っていいのかという話になり、侃々諤々やるという。
鈴木)同時にそれは、女性にとっての権利の問題でもあって、自分たちの生活や人生プランに関わる問題です。キリスト教的な価値は信じているけれど、望まない妊娠をした人が中絶できないとなると、その人の人生を狂わせてしまうこともあり得るのです。
飯田)そうですね。
鈴木)そういうときに、自分たちがどうやって生活していくのか。ライフプランをどうやって立てるのか考えたときに、神様を重視するのか、ライフプランを重視するのか。そういう価値観の問題にもなってきているのです。
飯田)自己決定権の問題だと。
鈴木)まさにそうです。
飯田)最高裁判事がそういう陣容になっていて、しかも最高裁判事は終身制ですから、一足飛びの解決策はない問題ですよね。
鈴木)ですから政権に対する不満が大きいのです。最高裁の判決はそうであっても、中絶したい人たちを支援するような法律など、連邦レベルで副次的なものはつくれるのです。「そういうものをつくってくれ」という希望で議員を選ぶこともあり得ます。
注目の接戦州であるジョージアとペンシルベニア
飯田)あと2週間で、その辺りがどう煮詰まっていくのか。どうなるか読めない州が多いですか?
鈴木)私が接戦州として注目しているのは、ジョージアです。ジョージアは2020年の大統領選挙のときに、トランプさんが「1万4000票を見つけてこい」と言った州でもあります。
飯田)本当に接戦でしたよね。
鈴木)ジョージアの上院選は、トランプさんが支持しているハーシェル・ウォーカーさんという、もともとはフットボール選手だった方がいます。極端な政策を取るトランプ主義者のような人です。
飯田)ジョージア州では。
鈴木)他に注目されているのは、ペンシルベニア州の上院選です。テレビで医学解説をしている、少し怪しげなドクター・オズ(メフメト・オズ)氏というお医者さんと、心臓に不安を抱えるジョン・フェッターマン氏の対決なのです。どちらもネガティブキャンペーンを行っていて、この間の競り合いもどちらに転ぶかわかりません。
飯田)テレビ討論会でもかなり……。
鈴木)注目する点はいろいろあるのですが。
飯田)ジョージアにしろ、ペンシルベニアにしろ、先の大統領選でもいわゆるスイングステートと言われましたが、どちらに転ぶかわからない州ですよね。
鈴木)2024年に向けての方向性を決めることにもなります。あともう1つ、知事選なのですが、アリゾナ州で「トランプ元大統領よりトランプ主義者」と言われているキャリー・レイク氏が出ています。テレビアナウンサーだった女性なのですが、移民排斥をはっきり主張していて、しかも人気がある。もしかしたら、トランプ元大統領の系譜を継ぐ人になるのではないかと言われています。こちらも注目かなと思います。
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