アメリカが次に目指す「二国間」でも「多国間」でもない「枠組み」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年11月11日 17時35分
![アメリカが次に目指す「二国間」でも「多国間」でもない「枠組み」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_398587_0-small.jpg)
東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が11月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。13日に開催される予定の日米韓首脳会談と日米首脳会談について解説した。
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2022年5月23日、IPEF(インド太平洋経済枠組み)関連行事~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/23usa.html)
日米韓首脳会談と日米首脳会談、13日に開催へ
岸田総理大臣の東南アジア3ヵ国歴訪に合わせ、日米韓3ヵ国の首脳会談と日米首脳会談を行うことが発表された。最初に訪問するカンボジアの首都プノンペンでの11月13日の開催を調整している。
飯田)13日に東アジア首脳会議(EAS)が開かれ、岸田さん、バイデンさん、尹錫悦(ユン・ソンニョル)さんも出席するため、いい機会ではないかということになったようです。3ヵ国首脳が会うとなると、北朝鮮も含めての話になりますか?
井形)北朝鮮にこれだけミサイルを撃たれると、やはり3ヵ国が仲よくしなければダメだろうということです。素晴らしい前向きな話ではないでしょうか。
北朝鮮の監獄で行われている人権侵害を脱北者のインタビューからデータベース化 ~それについてのセミナーを東大と英シンクタンクで共催
飯田)井形さんは人権や外交に関して、従前からさまざま提言されていらっしゃいます。北朝鮮の人権についても、国会でシンポジウム的なものを行っていました。
井形)東大と、「北朝鮮国内における北朝鮮の人々に対する人権侵害について、何とか対処すべきではないか」と行動しているイギリスのシンクタンクと一緒に、セミナーを共催しました。内容は北朝鮮の監獄についてです。
飯田)北朝鮮の監獄。
井形)監獄に入れられてしまった北朝鮮の方々が、酷い仕打ちを受けているのです。そこから逃げてきた脱北者の方々にひたすらインタビューし、どんなことをされたのか、いつされたのか、誰がやっていたのか、どういう名前の看守が幾つぐらいで、どんなことをしていたのかなど、細かくデータベース化しています。
飯田)データベース化。
井形)そこでは、国際弁護士の方と相談した上で情報を取っています。国際司法裁判所に持って行けば、証拠として使えるようなレベルのものをデータベース化していて、それについてのセミナーなどを行っています。
飯田)イギリスは、ウイグルの人権問題に関しても、同じように緻密なデータを取っていませんでしたか?
井形)欧米は本気で人権問題が重要だと思っています。きちんとお金をつけて、大学やシンクタンクが「地味な作業を行うことは必要だ」と調査しているのです。
飯田)日本でも拉致されている同朋がいるにも関わらず、「そこまでやるのか」と驚いてしまうのですが。
井形)欧米の人たちにすれば、日本の人たちの拉致も間違いなく問題であると。ただ、それ以外にも「北朝鮮政府によって、北朝鮮の人々も苦しんでいるのだ」という、新たな論点を提示したいようです。
「日本版マグニツキー法」の整備
飯田)我々にも人権面からできることがたくさんあるのですね。
井形)まずは他国で人権侵害が行われているときに、経済制裁できるような法律を日本は持っていないのです。
飯田)他国で行われている人権侵害に対して。
井形)G7のなかでそういう法律を持っていないのは、日本だけです。そこで、(人権侵害に関与した外国当局者らに制裁を科せる)「日本版マグニツキー法」を整備すべきではないかと考えられています。
飯田)日本版マグニツキー法を。
人権問題に対する取り組みに遅れる日本 ~「人権後進国」と見られてしまう懸念も
井形)もう1つは、人権デューデリジェンス(人権DD)というものです。
飯田)人権DD。
井形)簡単に言いますと、日本企業がサプライチェーンにおいて、強制労働や児童労働が行われていないかどうかを監査し、「このような状況になっていました」と開示するような法律を通すべきではないかということです。
飯田)日本企業が監査する。
井形)G7の国々では、既に人権DDの法律を通している、あるいは通そうとしているようなところが多いなかで、日本だけが残念ながら「一応のガイドラインをつくります」という話が最近出たような状況です。ガイドラインなので、従わなくても何も問題ないのです。
飯田)業界団体などがつくるようなイメージですか?
井形)経産省などが業界団体と一緒に議論しながら、「こういう形でガイドラインをつくりました」というものが最近、発表されました。
飯田)ガイドラインを。
井形)他国でもガイドラインから始めたのですが、ガイドラインだけでは強制力がなく、企業行動も変わらなかったので、「では法律にしよう」という方向に動いているのです。日本としても、最初から法整備するべきではないかと考えられます。
飯田)最初から法整備してしまう。
井形)「輸出管理と人権」のこともあります。監視社会に寄与してしまうような技術やソフトウェアを、中国やロシアなどの「権威主義国に輸出できないようにしよう」と欧米が動いているのですが、日本はその動きには残念ながら入っていません。
飯田)監視社会に寄与してしまう技術やソフトウェアの輸出を。
井形)「強制労働でつくられたものは輸入しません」という流れで、欧米も動き始めているのですが、日本では残念ながらそういう議論はされていません。日本も何かしなければ、「人権後進国」として見られてしまうのではないかと懸念しています。
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新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験に立ち会い、笑顔を見せる金正恩朝鮮労働党総書記(中央)=2022年3月24日、平壌(朝鮮中央通信=共同) 写真提供:共同通信社
日米間での論点の行方 ~軍事と経済の話が中心に
飯田)日米韓、並びに日米首脳会談が行われる予定です。論点として、日米韓については北朝鮮の話が出ましたけれども、日米ではどうなりそうですか?
井形)ロシアによるウクライナ侵攻があり、中国は台湾に向けて積極的に動き始めている状況です。そして北朝鮮もミサイルを撃ってきている。
飯田)そうですね。
井形)日米間で協力すべきことがあまりにもあり過ぎて、何にフォーカスすべきかは難しいのですが、防衛面でも経済面でも協力する。また、アメリカ側から日本側に対しては、先ほど話したような人権や民主主義の価値観の面でもプレッシャーがあります。
飯田)日本に対して。
井形)日本側としては、「そこを表立って言わないで欲しい」ということで、軍事と経済の話が前に出て、価値観の話が出ないような最終文書になるのではないでしょうか。
もはやアメリカ一国では限界にきている ~国連のような多国間の枠組みも機能しない
井形)今回アメリカに行って感じたのは、アメリカはもはや「アメリカ一国だけではどうにもならない」という限界に気付いている感じがあります。
飯田)アメリカだけでは限界であると。
井形)バイデン政権のなかで、かなり上の方のポジションで政策をつくっている方々と話したのですけれども、「自分たちだけではもうできない。だから日米で協力していろいろやっていこう」ということでした。
飯田)アメリカだけではできないから。
井形)また、「2ヵ国だけでも無理だ」という認識になっているのです。ただし、国連など40ヵ国~50ヵ国が入っているような「多国間の枠組み」だと物事が動かない。
飯田)国連のような。
井形)中国やロシアなどの権威主義国が入ってしまっているので、2ヵ国のどちらかが拒否権を使ってしまうと、何も決められない。G20でもこれが問題になって、最近は共同声明が全然出ていません。
「Chip 4」や「T14(テック14)」という枠組みをつくる動き
井形)2ヵ国もダメだし、多国間もダメなら、4ヵ国や5ヵ国など「本当にその問題に対して関連のある国々が新たに集まって、問題ごとに議論しよう」という流れに移ってきています。
飯田)全体会議では決まらないから、「ワーキンググループをつくろうか」というような。
井形)ただし、「そのワーキンググループが本会議だ」という方向です。
飯田)ここで決めてしまおうという。
井形)ですので日米韓も、日韓の2ヵ国では問題があってうまくいかないし、そもそも2ヵ国だけで解決できる問題はないのだから、日米韓3ヵ国で対応する。あるいは日米韓に台湾を入れた「チップ4(Chip 4)」と言われる、半導体の協力枠組みをつくろうという話もあります。
飯田)日米韓プラス台湾。
井形)他にも最近出てきたのが「T14(テック14)」というもので、技術力が高い14ヵ国が集まってAIや量子、バイオなどの「先端技術に関しては、この14ヵ国で決めてしまう」というような枠組みをつくる動きが、アメリカで出始めています。
飯田)グローバルスタンダードをつくってしまおうという考えもありますか?
井形)そうです。
中国のグローバル標準に技術を持つ国々で対抗していく
飯田)規格を持った国は強いですものね。
井形)そうなのです。残念ながら過去10年を見ると、それを中国にやられてしまっているのです。取り返さなければいけないということで、インド太平洋諸国で言うと、クアッド諸国の日米豪印や、ヨーロッパのなかでも先端技術が優れているような国々。場合によっては台湾やシンガポールも入れた上で、本当の意味で「世界で技術を持っている国々が、中国のグローバル標準に対抗していこう」というような動きが出始めています。
もう「競争」ではない米中環境を他の言葉でどう表すのか
飯田)米中のぶつかり合いは、いろいろな分野にも広がっていくのでしょうか?
井形)今回の会議でも特徴的だったのは、いままでは皆さん、米中競争で「コンペティション」という言葉を使っていたのですけれども、競争というのはお互いに守るルールがあって、「そのルールのなかで競争しているのだ」というニュアンスがあるのです。
飯田)ルールのなかで競争する。
井形)「新たなルールをつくってしまえ」という形で中国がしかけてきている以上、「それはもう競争ではない」という話で、「では他の言葉で米中環境をどう表せばいいのだ」というようなことを激論していました。
飯田)言葉の定義から入るというのは、欧米的ですよね。
井形)それによって印象が変わってくるのです。
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