物価の動きだけで金融政策を見直すことはナンセンス
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年11月21日 17時35分
【10月消費者物価】スーパーで販売されているサラダ油など=18日午後、東京都墨田区のスーパーイズミ業平店
ジャーナリストの須田慎一郎が11月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。40年ぶりに前年同月比で3.6%上昇した10月の消費者物価指数について解説した。
10月の全国消費者物価指数が前年同月比3.6%上昇
総務省が11月18日に発表した10月の全国消費者物価指数は、価格変動の大きい生鮮食品を除いた指数が前年同月比で3.6%上昇となった。3.6%の上昇率は40年8ヵ月ぶりの水準となる。
飯田)第2次オイルショック以来などとも言われます。
須田)生鮮食品とエネルギー価格を除いた、いわゆるコアコア物価指数と言われているものは、日銀は2.0%を超えるところを目指していたわけです。ところが、これが2.5%になったというところで、いよいよ日銀の利上げというか、「金融緩和政策の見直しが行われるのではないか」という観測が上がっています。しかし、「物価の動きだけで金融政策を動かす、動かさない」というのは極めてナンセンスです。そういうことを主張する人たちは、経済のいろはの「い」をわかっていないと思います。
アメリカやイギリスは供給よりも需要が大きい「ディマンドプルインフレ」 ~物価上昇を抑えるために需要を抑えるための利上げ
須田)よくアメリカやヨーロッパと比較して日本のことを言うのですが、アメリカやイギリスで現在なぜ物価上昇が起こっているのかと言うと、「ディマンドプルインフレ」なのです。供給よりも需要が大きいのです。
飯田)供給よりも需要が大きい。
須田)需要が旺盛だからこそ物価が上がってしまう。言ってみれば景気がいいのでしょうね。そうすると、物価上昇を抑えるためには需要を抑えなくてはならない。そのための利上げなのです。
日本は需要よりも供給が大きい「コストプッシュインフレ」 ~ここで金融引き締めをしたらさらに需要が減って経済が沈没してしまう
須田)日本はコストプッシュインフレです。つまり輸入している原材料価格やエネルギー価格が上がっているために、物価が上がっているのです。一方では、総需要よりも総供給の方がはるかに大きい。これが需給ギャップであり、一時は20兆円弱と言われています。供給が多くて需要が少ない。需要が少ないのに、ここで金融引き締めをやったらどうなるのか……。また需要が減ってしまうではないですか。
飯田)さらに需要が減る。
須田)そして日本経済は沈没していくことになる。いまコストプッシュ型のインフレが起こっているなかで利上げするのは、ナンセンスの極みであり、やってはいけないことなのです。
引き締めたがる人=財政出動させたくない人
飯田)少し考えれば、利上げすることになると、住宅ローンを抱えている人は変動の金利が上がってしまう。あるいは企業を経営されている方だと、運転資金がこの先借りられなくなる、利払いが大変になるというのは、景気にとっていいことがないですよね。
須田)利払いに回るお金で消費が減退したり、企業による投資が減退することで、さらに経済を冷やしてしまうのです。やってはいけないことだと思います。
飯田)ここで利上げを行うのは。
須田)なぜ、それを世の中のメディアが理解しないのか、私は不思議で仕方がありません。一部の国会議員も理解していませんけれどね。「これ以上、財政出動すると日本もイギリスのようになってしまう」などと言う人もいるではないですか。その人は何もわかっていないなと思います。
飯田)とにかく引き締めたがる政治家がいる。
須田)「引き締めたがる人間=財政出動させたくない人間」ということです。
飯田)企業の資金繰りが厳しくなると、「ゾンビ企業は市場から退出すべきだ」などと言う人もいます。そこで働いている人の人生は、いったいどうなってしまうのかと思います。
コストプッシュインフレによって中小零細企業は利益率が低下 ~大企業が部品単価や手間賃、工費を上げない
須田)コストプッシュインフレによって、中小零細企業、小規模事業者は利益率が下がり、人件費にも苦しんでいます。
飯田)利益率が下がって。
須田)そのなかで利上げしたら、利払いのコストが掛かるわけですから、一生懸命やっている小規模事業者や中小企業の首を絞めることになるのです。それは別にゾンビ企業でも何でもない、真面目にやっている企業です。では、なぜ利益が上がっていかないのかと言うと、大企業が部品単価や手間賃、工賃を上げないからです。一生懸命やっている企業の足を引っ張ってどうするのかという話です。
大手企業に「適正価格に戻す」圧力を掛けるべき
飯田)企業の利益や税収は、過去最高を記録するのではないかということです。一部、景気のいいところはあるのだから、再分配できれば回っていくのではないかと思うのですが、どうなのでしょうか?
須田)とは言っても、仕事量が増えているわけではありません。特に輸出関連企業は、円安によって大きく利益が上がってきているけれども、仕事量が増えているわけではない。先ほど申し上げた部品単価や手間賃、工賃が上がる理由にはならないのです。
飯田)うまくいかないものですね。
須田)しかし、いままでが低すぎたのでしょう。「適正価格に戻しなさい」という圧力は加えるべきではないかと思います。ここ20年ほど大手メーカーは部品単価や手間賃、工賃を叩いて安くし、「ジャストインタイム」などという生産管理システムを導入してきたわけですから。
飯田)そのために外で列をなして待っているトラックドライバーさんがいるなど、いろいろなところに実はしわ寄せが行っていたのだけれども、あまりそこが注目されていなかったことも大きい。
須田)在庫コストを下請けや取引先の企業に押し付けていただけではないですか。
飯田)自分たちで部品を持たない形というのは、誰かが部品を持ってくれるか、すぐつくってもらわなくてはいけない。
須田)「この時間に必要数量をすぐ届けろ」というのは、在庫がない状態でつくっていたのでは間に合いません。それができなければ取引が切られてしまうという。何を考えているのでしょうか。
飯田)そういう歪みのようなものも、デフレのなかで大きくなってきたということですか?
須田)そうですね。そういったところが大きく利益を上げているのであれば、「適正な単価をつけなさい」という動きこそやるべきです。
飯田)適性単価をつけて、それが賃金に回れば、その人たちが消費者となって日本の内需が上がってくる。そこでようやく好循環が生まれるということですね。
須田)そうですね。
飯田)確かにそこは官製春闘だと批判を浴びても、安倍政権のときは一生懸命やっていました。
須田)大企業がやろうとしないのですから。
補正予算が2021年の30兆円から減ったのはなぜか
飯田)また国会の話になりますが、補正予算で少しあたためられるかと思いきや、審議も止まってしまうわけですからね。
須田)29兆1000億円は大きいと言われますし、やらないよりはやった方がいいのだけれども、2021年の補正予算は30兆円ですからね。それを減らしてどうするのかということです。ウクライナ侵攻など、さまざまな問題が発生しているのに、なぜ減ったのか不思議で仕方がありません。
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