国内自動車業界この1年……決算会見から見えてくるもの
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年12月15日 17時20分
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「報道部畑中デスクの独り言」(第308回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、国内自動車業界の1年について—
2022年もあと半月ほどで暮れようとしています。私が取材分野の1つとして担当している自動車業界でも、激動の1年だったと言っていいと思います。「100年に一度の大変革」と言われている業界ですが、今回は11月に行われた各社の決算会見などを基に、振り返っていきます。
11月の決算は2022年度半期の“通信簿”ということになりますが、一言で言いますと、各社生産は減ったものの、円安の影響で利益は確保ということになります。営業利益については、トヨタ自動車を除く国内6社は増益となりました。しかし、原材料価格の高騰、半導体不足という逆風により、各社は異口同音に今後の見通しの厳しさをアピールしています。
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「この決算はこの半年だけでなく、リーマンショック以降の長い取り組みの結果が映し出されたもの。トヨタ全体の競争力を映すもの」(トヨタ・近健太副社長)
「新型コロナウイルスに端を発した半導体不足、サプライチェーン(供給網)の混乱、エネルギー価格や原材料価格の高騰といった世界的な問題は、私たちの当初の想定を超えて事業に大きな影響を与えている」(日産自動車・内田誠社長)
「世界経済はインフレ、値上げ、ウクライナ問題、国際情勢などにより、リセッション(景気後退)に陥るリスクが高まることが予測されている」(三菱自動車・加藤隆雄社長)
「数字は確かによくなったというところがあるが、下期にかけてまだ問題が解決されたわけではない。まだまだ気を緩めるわけにはいかない」(スズキ・鈴木俊宏社長)
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特に半導体不足の影響は、これからも続くという見通しが相次ぎました。三菱自動車の加藤社長は「再来年の少なくとも前半まで」、ホンダの竹内弘平副社長は「完全に(不足期が)過ぎたという状態ではない」という認識を示しました。
このような円安と原材料価格の高騰で、さまざまなものの値上げが相次いでいます。自動車業界にもその波は押し寄せていますが、上級車種、量販車種によって値上げ額を調整する、装備などの見直しによって価格を抑える……決算発表では多様な考え方が示されていました。下請け企業への取引価格の適正化を含め、模索が続いています。
続いては電動化の動きです。特にEV=電気自動車の流れは海外を中心に強まってきました。IEA=国際エネルギー機関によりますと、2021年末までに世界の道路を走る電気自動車の台数はおよそ1650万台、2018年の3倍に達しました。さらに、2021年に販売された電気自動車の販売台数は中国が330万台、ヨーロッパは230万台、アメリカは63万台に上ります。
EV化への流れは予想以上に加速しています。一方で日本は2万台あまり。日本はEV化が遅れているのではないか……こういう指摘も出てくるわけです。
日本自動車工業会では「敵は内燃機関ではなく、炭素である」として、カーボンニュートラルに向けて、EVだけでない多様な選択肢への理解を求め続けていますが、EV化についての意識そのものは日本でも徐々に芽生えつつあるようです。
今年(2022年)5月には日産自動車と三菱自動車が共同開発した軽自動車EVが発表されました。「日産サクラ」「三菱ekクロスEV」は今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。こうしたことから2022年は日本の「EV元年」とされています。
EV化への動きについて、各社は今年どのような動きを見せたのでしょうか。トヨタはスバルと共同開発したEV「bz4X」(スバルは「ソルテラ」)のリース販売を開始。リースとしたのはトヨタの1つの戦略があるようです。
トヨタのEV(トヨタでは「バッテリーEV」と称する)の方針については、昨年(2021年)暮れ、豊田章男社長が2030年までに30車種のEVを展開し、2030年には世界販売で年間350万台を目指すと明らかにしましたが、その基本ラインは変わっていないとしています。
ホンダはソニーとEVの販売に向けた合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立した他、決算会見でもアメリカでEV用バッテリー生産合弁会社の設立など、電動化への投資をアピールしていました。
そして、内燃機関=エンジンにこだわりを持っているとされているマツダも11月の記者会見で、2030年までに電動化に向けて1兆5000億円の投資。同じく2030年に世界販売に占めるEVの割合を、これまでの計画の25%から40%に引き上げることを明らかにしました。
「決して内燃機関をないがしろにしているわけではない。EVの規制の動向と客のニーズ、社会インフラの開発状況などを見ながら、フレキシブルに対応していくのが取るべき道だ」……丸本明社長はこのように語ります。
さらに、マツダはローム、今仙電機製作所、オンド、中央化成品など7社と、モーター、インバーターなどで構成される電動駆動装置の開発・生産で協業することも明らかにしました。7社にはマツダの地元、中国地方に拠点を置く企業もあります。
廣瀬一郎専務は説明会で「電動化の進展とともに、地域経済が持続的に発展していくためには、マツダを含めたサプライチェーン全体でこれに対応していく必要がある。電動駆動ユニットについても“一気通貫”でモノがつくれるような能力を備えないといけない」と述べました。
モノづくりにおいて、海外への投資、水平分業という流れがあるなかで、地域経済を守りながら「一気通貫」という姿勢は1つの見識だと思います。EV化について日本はまだ「踊り場」という感がありますが、産業構造の転換を含め、その変化はよく言えば「丁寧」、悪く言えば「鈍い」ということになりそうです。評価が分かれるところでしょう。
各社の決算発表などから見えてくるものを振り返りましたが、一方で、指摘しておきたいことが1つあります。それは決算ではあまり語られない利益剰余金の存在です。
利益剰余金、いわゆる「内部留保」ですが、今回の決算では例えばトヨタは27兆円あまり、ホンダが10兆円近く、日産も4兆円近くを計上しています。いずれも前期よりも増加しています。
決算発表で気になるのは、好調な業績で日本経済の立て直しや、来年の春闘に向けての賃上げの流れが強まるなかで、各社が今後の見通しの厳しさをアピールすることで「予防線」を張っているように見えることです。
日本経済を回復させるためには、国内の設備投資は1つの方策です。もちろん、いったん海外に移した拠点を戻すのは難しい……そんな事情も理解はできますが、日本におカネが落ちなければ、日本人は豊かになりません。円安はむしろ、そうした国内投資を促すためには追い風であるとも思います。
自動車業界は「100年に一度の大変革」、これから多額の投資が必要という状況ではありますが、増え続ける内部留保=貯めこんでいるお金を今後各社がどのように扱っていくのか……注目に値すると思います。(了)
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