「ゼロコロナ政策緩和」せざるを得なくなった習近平政権の「危うい現状」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年12月22日 17時30分
![「ゼロコロナ政策緩和」せざるを得なくなった習近平政権の「危うい現状」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_406829_0-small.jpg)
青山学院大学客員教授でジャーナリストの峯村健司が12月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ゼロコロナ政策を緩和せざるを得なくなった習近平政権の現状について解説した。
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「烈士記念日」の式典に臨む中国の習近平国家主席 2022年9月30日(共同)
「大丈夫か?」と中国をやや心配するシンガポール
飯田)峯村さんのツイッターを見ていると、いろいろなところに向かわれていますが、先日はシンガポールに行かれていましたよね?
峯村)そうなのです。弾丸で、「機中泊2泊」というような。
飯田)そうですか。
峯村)「この歳になってやるものではないな」と後悔しながら帰ってきました。話題は中国1本でしたね。
飯田)この時期で中国と言うと?
峯村)10月に行われた党大会で3期目になった習近平政権についてです。4年ぶりにの訪問です。前回まではシンガポールは、アメリカと中国の間で「どううまくバランスを取ればいいのか」という話をしていました。
飯田)これまでは。
峯村)中国に対して強硬というわけでもないのですけれど、どちらかと言うと中国を警戒していました。ところが今回は「中国は大丈夫か?」という論調が目立っていました。習政権は本当にこのまま持つのか、とい悲観的な見方もありました。
抗議運動が起き、習近平政権を心配するシンガポール ~中国に大きく依存
飯田)「持つのか?」というのは、習近平氏の3期目が始まった途端にいろいろなことが起きているからですか?
峯村)起きています。シンガポールは中華系が約7割を占めますが、実はそれほど中国にべったりなわけでもなく、共産主義が嫌だとか、文化大革命の時代が嫌で逃げてきた人が多いのです。そのため、共産主義に対するアレルギーが強い。
飯田)共産主義に対するアレルギーが。
峯村)ところが習近平国家主席はこの間の党大会の政治報告でも「マルクス! マルクス! マルクス! マルクス!」と連呼していたわけです。となると、「またかつての共産主義に戻ってしまうのではないか」という懸念を抱いてしまうのです。
飯田)かつての共産主義に。
峯村)もう1つは、習近平氏が完全に1強体制になったのだけれども、白紙革命と呼ばれる中国政府の「ゼロコロナ政策」に対する抗議運動が起きました。その影響は大きく、習政権は看板政策を事実上撤回に追い込まれます。3期目に踏み出した早々、躓いたわけです。シンガポールは中国に相当依存しているので、このまま中国が倒れると、それこそくしゃみをして風邪を引くどころではなく、吹き飛んでしまわないか心配しているのです。
「ゼロコロナ政策の緩和」は習近平政権が意図して行ったことではない ~抗議デモをコントロールできない
飯田)もともとゼロコロナで経済が厳しくなってきている。その上、ロックダウンなども含めてかなり不満が高まったのではないかとも言われています。一方で白紙革命と言われる抗議活動があり、それを受けるような形で「ゼロコロナ政策の緩和」が勢いよく決まっていったではないですか。
峯村)そうですね。
飯田)この流れは「共産党政権の意図から行っているのではないか」と言う人もいます。
峯村)私はそこまで予定調和ではないと思います。デモ中も私はずっと中国の様子を中国用のスマホで見ていました。中国のSNS上で、デモに関する写真が拡散し過ぎて、当局の情報統制の能力を超えたようです。一生懸命削除しているのですが、飽和してしまっていて……。
飯田)削除が追いつかない。
峯村)こうした当局との「いたちごっこ」を見てみると、「出来レース」ではなかったとみています。
「習近平退陣」や「共産党打倒」というプラカードを持つ人が出た抗議デモに危機感を覚えた共産党政権
峯村)もう1つ言うと、今回、習近平政権の2期10年は、かなり強権で抑えつけてきました。ところが、今回の市民の抗議運動によって、いちばんの看板政策だったゼロコロナ政策を事実上、撤回したわけです。これはやはりインパクトがあることだと思いますね。
飯田)そうですね。
峯村)共産党政権は「市民の要求を一度受け入れたら、そのあとも受けなくてはいけない」という一種のパラノイアを持っているのです。「一度受けたあとはどうしよう」と思っていたけれど、今回はあっさりと受けてしまった。
飯田)なるほど。
峯村)抗議運動以降の「人民日報」を読むと、毎日、一面に「いかにゼロコロナ政策が正しかったか」という言い訳のような記事を出しているのです。
飯田)人民日報に。
峯村)最後には、「ゼロコロナ政策は合っていたけれども、オミクロン株の毒性が低くなってきたので、そろそろいいかな」と、オミクロン株のせいにし始めています。それらを見ると、予定調和で行ったのではなく、本当に市民の声を受けての政策変更だったということがわかります。
飯田)予定調和ではなく。
峯村)「習近平退陣」や「共産党打倒」というようなプラカードを持っている人もいたという意味では、「相当なショックだった」のでしょう。
14億の民が中国政府に対して怒りの矛先を向けたのは新中国になって初めてのこと
飯田)もし官制でコントロールできていたら、「習近平を下ろせ」という声は絶対に出ない。
峯村)絶対に出ないですね。1989年の天安門事件もそうですし、2012年の反日デモも党内や軍のなかの権力闘争の「代理戦争」のような要素がありました。ところが今回はそういう政権の意向は働いていない。14億の民が中国政府、共産党に対して怒りの矛先を向けたという意味では、新中国が始まって以来、初めての出来事だと言ってもいいですね。
飯田)私も12月の初めにアメリカと日本のシンポジウムのファシリテーターを務めたのですけれども、そのときにアメリカの共和党系の識者の方が、まさに同じようなことをおっしゃっていました。普通のデモだったら「習近平を下ろせ」というような声は絶対に出てこないと。
![](https://news.1242.com/wp-content/uploads/2022/11/2022112711079RS.jpg)
中国上海市中心部で新型コロナウイルス対策に抗議する人たち(共同) 撮影:2022年11月27日 写真提供:共同通信社
昔から「内部の矛盾は外部に転換する」中国
飯田)彼は、中国が追い込まれたタイミングで「外に対して暴発するのではないか。そこが恐ろしい」と指摘していましたが、その辺りはいかがですか?
峯村)そう思います。現在の習近平政権は、「鄧小平氏以降の経済成長」という中国共産党の正統性が揺らいでいる状況です。そのために、何とか次の正統性をつくろうと必死になっていたのですが、まさに足元であのような抗議運動が起きてしまい、ますます正当性が揺らいでいるわけです。
飯田)抗議デモが起きたことで。
峯村)「我々が統治しているのだ」というところを示すためにも、何らかの次の成果を出さなければならない。ところが国内で経済をよくしようと思っても難しい。となると、「どこに向くのですか?」というところです。
飯田)国内ではない。
峯村)これは歴史も証明していますが、「内部の矛盾は外部に転換する」というのは、これまで教科書通りに行ってきています。共和党系の方が指摘された部分は私も同感です。
香港や中国大陸からシンガポールに移住する富裕層が増えている
飯田)シンガポールの方々としては、それが出てきたときのリスクを考えているわけですか?
峯村)考えていますね。香港や大陸にいた中国のビジネスマン、お金持ちの方がかなりシンガポールに移住してきているのです。
飯田)そうなのですか。
峯村)政府の人間に聞いてみると、「このままいくと危ない」ということです。お金持ちに関して言えば、先日、ジャック・マーさんが日本に逃げていたという話がありましたけれども。
飯田)日本にいたという報道がありました。
峯村)そういう流れがすごく強まっています。それによって、シンガポールの家の値段も上がっています。
飯田)なるほど。新築マンションなどの価格が上がって。
峯村)そうです。
「締め付けられる前に」シンガポールへ逃げてしまおうとする中国の富裕層
飯田)中国では、パスポートの期限前でも取り上げてしまうというようなことが報道されていますけれど。
峯村)いまはほぼ全部取り上げています。例えば大学の場合、大学当局が。国有企業であれば、企業の人事部がパスポートを取り上げています。要は勝手に海外へ逃げたり、財産を移したり、愛人に会いに行ったりしないように、という措置です。
飯田)お金持ちはお金持ちで、対応策のようなものがあるから出られるということですか?
峯村)そういうことですね。シンガポールに関しては投資移民などがあるので、その辺りを使っているのでしょうけれども、「締め付けられる前に逃げてしまう」という動きはありましたね。
盤石なときが最も危ない ~裸の王様状態の習近平氏
飯田)そういう意味では、3期目に入って、党大会で胡錦濤氏が連れ出されるのか何なのかという映像が出たり、その直後に江沢民氏が死去したというニュースが出るなど、「盤石だ」と思われていたところが意外と脆弱ですね。
峯村)中国を見ていて思ったのですけれど、盤石なときがいちばん危ないのです。やはり「1強」になってしまうと、周りも怖くて何も言えなくなります。
飯田)習近平氏に対して。
峯村)中国の人はプラグマティックなので、「これは言ったらまずい」と思うと何も言わなくなってしまう。それによって、裸の王様になってしまうところがあります。いま、習氏はまさにその罠にはまっているとみています。
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