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安倍元総理の外交スピーチライターが語る「2015年の米連邦議会上下両院合同会議での演説」

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年12月27日 17時45分

安倍元総理の外交スピーチライターが語る「2015年の米連邦議会上下両院合同会議での演説」

元内閣官房参与で慶應義塾大学大学院教授の谷口智彦氏が12月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2015年に米連邦議会上下両院合同会議で行われた安倍元総理の演説について語った。

官邸に入る安倍晋三首相=2015年5月7日午前、首相官邸 写真提供:産経新聞社

安倍元総理を暗殺した山上容疑者 ~銃刀法・武器等製造法違反でも立件へ

2022年7月、安倍晋三元総理が奈良市で暗殺された事件で、奈良県警は殺人容疑で送検された山上徹也容疑者について、銃刀法違反や武器等製造法違反など複数の容疑でも立件する方針を固めた。山上容疑者は2023年1月10日までの期限で鑑定留置中であり、奈良地検は専門医の精神鑑定などから山上容疑者の刑事責任を問えると判断し、13日の勾留期限までに殺人罪で起訴する見通し。起訴されれば公判で刑事責任能力の有無も問われることから、奈良県警と奈良地検は事件に至る山上容疑者の強固な計画性や殺意を立証する方針。

飯田)谷口さんは安倍元総理のもとで15年間、外交のスピーチライターを務められ、『安倍総理のスピーチ』という本も出版されていらっしゃいます。7月8日の出来事ですが、まず一報をお聞きになったときはどんなご心境でしたか?

谷口)一報を聞いて以来、まったく違う世界にさまよいこんでしまったような気が、未だに拭えずにおります。安倍さんが生きて日本の針路を、揺るがない羅針盤として示してくれている世の中があるはずなのに、自分だけがよく似ているけれども、違うパラレルワールドに入り込んでしまったような感じです。

2015年のアメリカ連邦議会上下両院合同会議での演説 ~外務省は口出しをしなかった

飯田)谷口さんは安倍元総理のスピーチライター、特に外交におけるスピーチライターを担当されていました。2015年のアメリカ連邦議会上下両院合同会議での演説は印象的でした。相当、書き直し等々あったとお聞きしますが。

谷口)あのスピーチの作成は特別で、外務省が放っておいてくれたのです。

飯田)そうなのですか。

谷口)安倍さんが熱情を込めて打ち込んでいたものでしたので、外務省が「余計な口出しはしまい」と思ってくれたようです。

飯田)お任せするしかないという感じだったのですか?

谷口)そのころまでには外務省も、自分が見ているこの総理大臣はおそらく明治以来、日本が生んだ最強最高の外交官なのだということが、ようやく納得できていたのだと思います。

スピーチ1本で日米同盟の存在を未来に向けて変えることができた ~2015年の米上下両院合同会議での演説

ジャーナリスト・有本香)2015年の米議会上下両院でのスピーチは、私も感慨深く聞かせていただきましたが、特にどういうところに腐心されたのでしょうか?

谷口)安倍さんが「希望の同盟」という言葉を使うようにとおっしゃったのです。

飯田)希望の同盟。

谷口)希望の同盟ですから、過去の同盟ではなく、未来に向いた同盟なのですね。あのスピーチが終わった瞬間に、日米同盟といういわば冷戦の雨露をしのぐ傘だったものが、これから先の10年、20年、30年、いや、40年、50年と、日本・アジア・インド太平洋を守っていく大きな屋根をかけるような仕事になったのだと思います。安倍さんはスピーチ1本で、日米同盟の意義や意味を未来に向けて変えることができた。そういうものだったと思います。

飯田)言葉の力が歴史を変えることがあるのですね。

谷口)私はあの瞬間、「この場で悶絶死してもいい」と思った記憶があります。

野茂英雄投手との演出

飯田)野茂英雄さんとのキャッチボールという演出案もあったのですね。

谷口)野茂英雄さんは日米関係が貿易摩擦で最悪だったとき、しかも大リーグがストライキで人心が離れていたときに、たった1人で乗り込み、トルネード投法でバタバタと三振を取ったヒーローです。

飯田)空気を変えました。

谷口)その人にトルネード投法でボールを投げてもらい、安倍さんには演台でそのボールを受けてもらうなどという案を、一瞬考えていたのです。しかし、これは実現しようのないアイデアで、野茂さんも実はアメリカに来ることができない予定だったこともありました。

飯田)なるほど。

谷口)あまりにも奇を衒った演出は所詮失敗しますから、やらないでよかったなと思っています。

演説が終わると安倍元総理にサインを求めた米議員たち

飯田)しかし、言葉の力であそこまで上下両院全体の雰囲気を引っ張っていったというのは……。

谷口)あれは安倍さんの必死のスピーチなのです。

飯田)必死。

谷口)必死に訴えていることが全員にわかりました。英語が上手か下手かなどは関係ないのです。安倍さんが必死にやっていることにみんなが胸を打たれたのです。

飯田)必死に演説されていることに。

谷口)第二次世界大戦における太平洋の激しい戦いに対する真摯な思いを述べ、それがわかった瞬間に多くの議員が泣いてしまったのです。

飯田)泣いたのですね。

谷口)そして終わるやいなや、アメリカの議員たちが配られていたテキストを掴んで安倍さんのところに寄っていき、「サイン! サイン!」と言ってサインをねだるのです。安倍元総理の熱意の力、話しぶりにみんなが感動したのです。

飯田)日本には言霊という言葉がありますけれど、まさに魂が乗ったのですね。

谷口)言葉に本当に魂が乗っていたと思います。

有本)安倍さんが亡くなったあと、昭恵夫人と当時の演説のお話をされたと伺っていますが。

谷口)安倍元総理が昭恵夫人に向かって、「これだけ英語をやっていたら、学生のときにもう少し成績がよかっただろうね」とおっしゃったという話を、お亡くなりになったあとで伺いました。「毎日ベッドルームで(練習を)行うものだから、私まで覚えてしまいそうだった」という話もされていました。

外交でのスピーチの重要性 ~言わなければわかってもらえない

飯田)谷口さんは外交の現場で、数々のスピーチをご覧になっていらっしゃいます。外交における言葉の力をどう感じていますか?

谷口)言わなければわかってくれませんから。

有本)そうですよね。

谷口)「背中を見てくれ」と言っても、わかってくれません。歴史という大きな書物に、1つのチャプターを書きつける行いです。それができるのは学者でも評論家でもジャーナリストでもない、総理大臣の言葉が必要なのです。

街頭演説と外交演説の違い

飯田)谷口さんは「スピーチライターという仕事がもっと注目されていいし、日本としてもっと磨かなければならない」という話もされています。岸田政権も含めて、今後はどうしていくべきだと思いますか?

谷口)総理大臣の言葉はとても大切ですから、総理大臣になろうという人、あるいはなった人は、その点をよく考えて欲しいです。スピーチするにしても練習、練習、また練習、またまた練習、また練習です。

飯田)街頭演説はまた別ですか?

谷口)街頭での演説は、ワンフレーズで人を振り向かせて、それを繰り返し言うものです。

飯田)街頭演説は。

谷口)外交スピーチは、主だった議員や外交当局者、影響力のある人を30分なら30分、人質にしてその耳に音を撃ち込むことです。そこには高邁な理想も必要ですし、志や勇気、浪花節的なところも、国際社会に向けては必要です。

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