世界各地のごみ処理場を巡った『珍道中! ごみ紀行』 なぜ「ごみ処理場」に注目したのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年1月18日 17時20分
![世界各地のごみ処理場を巡った『珍道中! ごみ紀行』 なぜ「ごみ処理場」に注目したのか](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_412560_0-small.jpg)
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
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ネパールのごみ中継基地のスカベンジャー(ゴミを集めて生活する人々)
「不景気になると公務員人気が高まる」と言われていますが、2021年度は、心の不調で1ヵ月以上の病気休暇を取ったか、休職した地方公務員が全国で3万8000人にのぼったことが、総務省の調査でわかりました。その理由の多くが「職場の対人関係」だったそうです。
五味泰平さんも、去年(2022年)の春に市役所を早期退職。そして、ずっと念願だった本をこのほど出版しました。タイトルは『珍道中! ごみ紀行』。本の帯には「全国、そして世界各地のごみ処理場を巡った世にも珍妙な旅行記!」とあります。
「五味」さんが「ごみ処理場」を巡る旅……少しできすぎのように思えたところ、「五味泰平」という名前はペンネームだそうです。いろいろと大人の事情があり、実名は公表されていません。
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東京都清掃局中央防波堤外側埋立処分場(平成3年当時)
昭和40年、青森県八戸市に生まれた五味泰平さんは、現在57歳。子どものころから鉄道旅行が大好きで、いわゆる「乗り鉄」です。鉄道会社へ就職したいと考えていましたが、応募した全ての会社の面接で落ち、大学卒業後は唯一内定をもらえた某市役所に入庁します。研修を終えて配属となった先が、何と「ごみ焼却工場」でした。
「そのときは正直な気持ち、『何でごみ焼却工場なの?』とがっかりしましたね。3年ほど経てば他の部署へ異動になるから、我慢して働こうと思いました」
電車とバスを乗り継ぎ、1時間半かけて郊外のごみ焼却工場へ通勤する日々。そこでは100人ほどの職員が働き、そのうち事務職は5人。大卒の新人は五味さんだけでした。ある日、工場内を見て歩いていると、気付かぬうちに立ち入り禁止エリアに入り込んでしまいます。
「こらぁ! お前、どこを歩いているんだぁ!」
工場には「ヌシ」のようなベテランの職員がいて、「そこは歩くところではない!」と怒鳴りつけられました。その声に縮み上がってしまった五味さん。
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韓国の京畿道金浦埋立処分場
「こんな怖い人がいる職場では、長く続かない……」
暗く冴えない表情で働いていたため、職場では変わり者扱いされてしまいます。でも、捨てる神あれば拾う神あり。そんな五味さんに優しく声をかけてくれる職員もいて、「これから埋立処分場へ行くけれど、君も一緒に行くか?」とか、「帰りに軽く飲もう」と誘ってくれたり、悩みを聞いてくれたりしました。
「なかでも面白かったのが、『煙突の上に登ってみないか?』と誘われて、100メートル以上もあるごみ焼却工場の煙突の上に登ったときでしたね。そういう経験は誰にでもできるわけではないですし、『ごみ処理場って何だか面白そうだぞ』と思うようになったんです」
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札幌の旧篠路清掃工場と余熱団地(平成6年当時)
一旦、好奇心に火がつくと、研究熱心な五味さんはとことん勉強します。レポートを書いたり、研修会で発表したりして、人脈も増えていきました。休暇を利用して国内、さらには海外に足を伸ばし、プライベートでもごみ処理場を見て回るようになります。
「ごみ処理施設は、ただ燃やすだけではなく、粉砕したり埋め立てたり、リサイクルもするし、排熱利用もします。知れば知るほど奥が深いんですよ。ごみを見ただけで、その国の文化や経済もわかります。日本は、ごみの量がバブル当時より減っているんです。リサイクル文化が高まっているのもありますが、残念ながらごみの量が大きく減っている最大の理由は、日本の経済力が落ちているからなんです」
5年間ごみ処理工場で働いた五味さんは、その後、土木部門の総務課や、税金を扱う部署へ異動します。しかし、ライフワークの「ごみ処理場を巡る旅」は続けていました。
そんな五味さんが『ごみ紀行』を自費出版しようと思ったのは、去年の春。職場の上司からパワハラを受け続けた上に、親の病気が重くなり、介護の負担が大きくなったため、定年まであと4年を残して早期退職しました。
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那覇エコアイランド(焼却灰を投入する埋立エリア)
公務員時代は、職場の人間関係で悩むことが多かったそうです。そんなとき、気持ちを癒してくれたのが「旅行」でした。
五味さんはこだわりの旅を続け、JRの全線をすべて乗る「JR全線完乗」や、国内の人が住む離島およそ400島に上陸。全都道府県の最も低い山に登頂したり、海外65ヵ国を訪問したり……。「生きる意味は旅をすること」だと言います。
「椎名誠さんや沢木耕太郎さん、宮脇俊三さんに憧れて、旅行の本を書くのが夢でした。いろいろ応募しても賞が取れず、こうなったら退職金をもとに本を出そうと思ったんです。なぜこの本にしたのかと言うと、33年の公務員生活を振り返ったときに、ずっとごみ問題のことを思い続けてきたからです」
『珍道中! ごみ紀行』は、ごみ処理場を巡る旅だけではなく、ネパール、パラオ、ラオスなど、なかなか行くことができない地域の旅行記でもあります。そして、五味泰平さんの泣き笑い人生も綴られています。
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『珍道中! ごみ紀行』
■『珍道中! ごみ紀行』(東京図書出版)
ネパール編/パラオ編/韓国編/ラオス編/ドイツ編/アメリカ合衆国編/香川豊島編/沖縄本島編/石垣編/札幌編/岡山水島編/東京23区編/千葉編/埼玉編/八丈島編
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■五味泰平(著者)
昭和40(1965)年、青森県八戸市生まれ。小学生時代以降、神奈川県で育つ。大学卒業後、某市役所に就職。仕事の傍ら、人生最大の趣味である旅行に励む。その結果JR線全線完乗、国内有人離島約400島上陸、全都道府県の最低標高山訪問、海外65ヵ国訪問などを達成。今回の作品は、就職して最初の職場がごみ焼却工場だったことがきっかけで、ライフワークになった、ごみ・リサイクル問題探求と自己満足の集大成だと思っている。
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