ドルーリー朱瑛里、新谷仁美 なぜ岡山から続々と「パイオニア・ランナー」が生まれるのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年1月17日 17時20分
![ドルーリー朱瑛里、新谷仁美 なぜ岡山から続々と「パイオニア・ランナー」が生まれるのか](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_412834_0-small.jpg)
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、全国都道府県対抗女子駅伝で快走を見せたドルーリー朱瑛里、ヒューストン・マラソンで優勝した新谷仁美ら、岡山から続々と輩出される「パイオニア・ランナー」と、岡山アスリートにまつわるエピソードを紹介する。
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表彰式後に区間賞などのトロフィーを掲げる岡山のドルーリー朱瑛里=2023年1月15日、京都市体育館 写真提供:時事通信
まさに風のような走り。陸上界に颯爽と登場したニューヒロインの名は、ドルーリー朱瑛里(しぇり)。1月15日、全国都道府県対抗女子駅伝、岡山代表の3区に出場した中学3年生は、38位でタスキを受けると区間3キロを9分2秒で駆け抜け、17人のごぼう抜き。これまでの記録を8秒更新する区間新記録の走りだった。
『自分の感覚を信じて、前を追って走った。一つでも順位を上げて、チームを勢いづけられるような走りをしたいと思っていた。うれしい』
~『zakzak』2023年1月16日配信記事 より(ドルーリー朱瑛里の言葉)
1人別次元だった速さはもちろん、際立っていたのは走り姿の美しさだ。その要因について、シドニー五輪女子マラソン代表で、今大会の岡山チームを率いた山口衛里監督はこんな言葉を述べている。
『体幹がブレない走りをしている。このへん(腰回り)がしっかりしている。足が長いのもありますよね』
~『日刊スポーツ』2023年1月15日配信記事 より
父がカナダ出身で母は日本人。岡山県津山市で生まれ育ち、昨年(2022年)8月の全国中学校体育大会1500mでは2位に5秒以上の差をつけて独走優勝。これまでは知る人ぞ知る存在だったが、一気に時の人となった。
そしてこの快走から半日後、今度はアメリカからも女子ランナーの吉報が届く。奇しくもドルーリーと同じ岡山県出身、女子の1万mとハーフマラソンの日本記録保持者である新谷仁美が快走を見せたのだ。
アメリカ・テキサス州で開催されたヒューストン・マラソンに出場した新谷は、日本歴代2位の2時間19分24秒で優勝。この記録は、アテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずきが2005年のベルリン・マラソンで樹立した日本記録(2時間19分12秒)にあと12秒と迫る好タイムだった。
この2つのニュースで思ったのは「岡山からは女子ランナーの逸材、そしてパイオニアが次々に出てくるな」ということ。古くは、1928年アムステルダム五輪800m走で銀メダルを獲得した人見絹枝がいまの岡山県岡山市出身。日本人女性初の五輪メダリストになった、まさにパイオニアだ。
1992年バルセロナ五輪の女子マラソンで銀メダルを獲得し、人見以来の陸上女子五輪メダリストになった有森裕子も岡山市出身。有森は1996年アトランタ五輪でも女子マラソンで銅メダルを獲得し、その後、プロ宣言。「日本女子マラソン界のパイオニア」であり、「プロランナーのパイオニア」として活躍を続けている。
そして、岡山県総社市出身の新谷もまた、この同郷2人の流れを受け継ぐパイオニアだ。そう感じたのはレース後、自身のSNSでこんなつぶやきをしていたから。
『結果は目標にしていた日本記録更新にはなりませんでした。ゴール後悔しくてお見苦しい姿を見せてしまってすみません。望むような結果ではなかったのですが、9月のベルリンマラソンで再度挑戦しようと思います』
~新谷仁美Twitter(@iam_hitominiiya)2023年1月16日投稿 より
このツイートにある「9月のベルリン・マラソン挑戦」は大きな意味を持つ。それは、10月15日に東京で開催される2024年パリ五輪の代表選考レース「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)」には出場しない、という宣言でもあるからだ。
パリ五輪マラソン代表への道筋は、10月のMGC後に開催される「MGCファイナルチャレンジ」(※日程未定)も残されているが、現段階で新谷は「五輪よりも日本記録」を重視している、と考えられる。
五輪こそ正義、というこれまでのスポーツ界の常識を打ち破り、あくまでも記録と戦い、自分自身と戦う意志を打ち出す新谷の姿は、これからのアスリートの生き方にも大きなヒントを与えそうだ。
こうした「パイオニア」を輩出し続ける岡山の土壌があったからこそ、ドルーリー朱瑛里のような若いランナーが出てきたと言えるのではないか。彼女がこの先、どんな「パイオニア・ランナー」の地位を見出していくのか、楽しみでならない。
そしてもう1つ、ドルーリー朱瑛里と新谷仁美の活躍で感じたのは、岡山に風が吹いている、ということ。この1ヵ月、スポーツ界では岡山出身アスリートの活躍が続いているのだ。
1週間前の全国高校サッカー選手権決勝では、岡山学芸館高校が東山高校を3-1で破り、岡山県勢初の日本一に。
年末に開催された全国高校駅伝・男子では、岡山代表の倉敷高校が2時間1分10秒の大会新記録で優勝。同じく年末のフィギュアスケート全日本選手権アイスダンスで優勝し、史上初めてシングルとアイスダンスの「2冠」を達成した高橋大輔も岡山県倉敷市出身だ。
また、スポーツから外れるかも知れないが、若手漫才日本一を決めるM-1を制したウエストランドの2人、河本太と井口浩之もドルーリー朱瑛里と同じ岡山県津山市出身と、この1ヵ月での岡山勢の活躍ぶりが凄まじい。
過去、同じように1つの都市が立て続けに結果を出した例はいくつかある。代表的なのが「1998年の神奈川」だ。1月2日・3日の箱根駅伝で神奈川大学が総合優勝したのを皮切りに、横浜高校が甲子園で春夏連覇。都市対抗野球では横須賀市・日産自動車が優勝を果たし、秋には横浜ベイスターズが38年ぶりの日本一に。そして年が明けた1月1日、横浜フリューゲルスが天皇杯優勝を果たしてチームが解散、という劇的すぎるフィナーレを飾った伝説の1年だ。
同様に、岡山出身アスリートがこの1年どんな活躍を見せるのか、という視点でスポーツを追いかけていくのも一興ではないだろうか。まずは3月開幕、WBCで岡山県備前市出身の山本由伸の快投に期待したい。
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