「とんかつ店」経営から「合宿所の寮長」に 早稲田大と過ごす83歳「次の夢」は
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年4月12日 17時20分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
東京・新宿区、早稲田大学・西早稲田キャンパスの西門へ続く商店街に、かつて1軒のとんかつ屋さんがありました。お店の名前は「フクちゃん」。いま40歳以上の早稲田大学出身の方なら、まず知らない人はいないお店です。
店主を務めていたのは金刺正巳さん。1940年、東京・羽田に生まれますが、戦争のために静岡県芝川町……現在の富士宮市に疎開。青春時代を過ごして上京します。その後は会社員を経て独立し、1970年、30歳のときに「フクちゃん」を開きました。
「フクちゃん」の名物と言えば「チョコとんかつ」。なかなかご飯を食べてくれない金刺さんのお子さんに、何とかとんかつを食べさせようと、豚肉とチョコレートを一緒に揚げてみたそうです。これが意外に学生たちにも好評を博し、変わり種の定番メニューとなっていきました。
お店の常連の1人に、競走部に所属していた瀬古利彦さんがいました。金刺さんは、1980年のモスクワオリンピックにおいて日本のボイコットが決まった直後、お店にやって来た瀬古さんのことが、いまも忘れられないと言います。
「いつもと変わらない瀬古さんだったけれど、どこかオリンピックに出られない悔しさを押し殺していてね。その姿が切なかったなぁ……」
30年あまりにわたって早稲田の学生たちに愛されてきた「フクちゃん」ですが、いまから20年前の2003年、金刺さんはお店を閉めることを決意します。理由はお子さんが自立して、お店を継がないと決まったことでした。閉店のウワサが広まると、全国から閉店を惜しむ電話が鳴りやみませんでした。
そんな金刺さんに、閉店の話を聞いたあるところから声がかかります。
「金刺さん、合宿所の寮長をやっていただけませんか?」
声をかけてきたのは早稲田大学の漕艇部でした。話を訊けば、1902年の創立から100年を迎えて、埼玉・戸田の合宿所が建て替えられ、その新しい合宿所の寮長に金刺さんを迎えたいと言います。
すでに63歳になっていた金刺さんは悩みました。でも、何か新しいことに挑戦しないと、人生はジリ貧になってしまうとも感じていました。
「33年間、早稲田の街で店をやってきた経験があれば、学生たちのためにまだ何かできるかも知れない……。人生は一度きり。やってみよう!」
金刺さんは本気で取り組むことを決心しました。さっそく東京の家を引き払い、埼玉・戸田へ引っ越します。でも寮長に就任すると、新居には家族を住まわせ、自らは合宿所で漕艇部の学生と24時間、寝食をともにすることにしました。
さらに合宿所を「禁煙」とし、学生たちが部屋に戻る時間も夜8時に設定して、規律ある“学びの場”へと変えていきます。その代わり、食事は金刺さんが自ら包丁を握って、愛情をいっぱい込めてつくりました。都内にある大学の学食も食べ歩き、バランスのいい食事も研究しました。
ときに優しく、ときに厳しい金刺さんの姿勢は、次第に学生やOBたちにも受け入れられ、まるで学生の父親代わりのような存在となっていきます。その様子に、上京してきた学生の親御さんは安心して合宿所に預けるようになり、地元の皆さんも部活動に理解を示してくれるようになりました。
2011年まで寮長を務めた金刺さんは、その後も近くの戸田市学校給食センターでこの春まで仕事を続けました。行き帰りには合宿所に顔を出し、学生たちに声をかけてきたこともあって、いまも漕艇部の現役学生たちから親しまれる存在となっています。
83歳になった金刺さんは現在、1年で最も気持ちが高まる1週間を過ごしています。隅田川で漕艇部の早慶戦「早慶レガッタ」が開催されるからです。
「早稲田も慶応も全力を尽くして、とにかく1艇も沈まないで欲しい」
そう願う金刺さん自身にも、今年(2023年)は叶えたい夢があります。それは、趣味の自転車で琵琶湖を半周すること。合宿所でトレーニングに励む学生たちと同じように、金刺さんも体づくりを怠りません。
「週に3回、荒川の土手を7キロ歩いています。自転車なら荒川の河口まで、往復30キロ近くを走ることもありますよ」
春の光に水面が輝く戸田の漕艇場を前に、金刺さんの瞳もキラキラ輝いています。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「MARCH卒にコンサルされたくない」早慶未満はお断りだった外資コンサルの「MARCH大量採用」に見る嫌な既視感
プレジデントオンライン / 2024年7月11日 17時15分
-
新紙幣めぐる「早慶戦」 大学公式Xの関係性アピール合戦に「バトってるの草」「絶対に負けられない戦い」
J-CASTニュース / 2024年7月4日 15時10分
-
突如閉店「メルシー」店主に聞いた本当の"真相" タモリも愛した早稲田の老舗ラーメン店に一体何が
東洋経済オンライン / 2024年7月1日 20時10分
-
タモリに小百合…早大著名人も愛した老舗ラーメン屋「メルシー」が閉店 店主が常連客に手紙
東スポWEB / 2024年6月29日 21時38分
-
なぜ「早稲田=マスコミ」のイメージができたのか…給与が東大生の3分の1だった明治時代の早大生の進路
プレジデントオンライン / 2024年6月22日 9時15分
ランキング
-
1大谷翔平&真美子さんのレッドカーペット中継に… 人気アイドルが「思いっきり映ってる」と話題
Sirabee / 2024年7月18日 15時40分
-
2Q. スイカの皮は食べられますか? 【管理栄養士が回答】
オールアバウト / 2024年7月18日 20時45分
-
3「持ち運び用の最適解...」無印の"990円"充電器、価格以上の優秀さだった。
東京バーゲンマニア / 2024年7月18日 20時8分
-
4がんや早死にのリスクを高めるだけ…和田秀樹が「女性は絶対に飲んではいけない」と話す危険な薬の名前
プレジデントオンライン / 2024年7月19日 10時15分
-
5義母と元夫は減塩生活中!? 嫁に去られた親子の今…【お義母さん! 味が濃すぎです Vol.48】
Woman.excite / 2024年7月15日 21時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください