「ワグネル」はロシアにとって「鉄砲玉」のようなもの 報道されているほど大きな存在ではない 専門家が解説
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年5月10日 17時35分
ロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員を率いて声明を発表する創設者プリゴジン氏(中央)=5日にプリゴジン氏の関連会社コンコルドが通信アプリ「テレグラム」に投稿した動画より
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が5月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後のウクライナ情勢について解説した。
プーチン大統領が演説、侵略正当化 ~今後も続ける姿勢を強調
ロシアでは5月9日、第二次世界大戦でナチス・ドイツに勝利してから78年の記念日を迎え、首都モスクワの「赤の広場」で記念式典が行われた。プーチン大統領は演説で「我々の祖国に対して再び本当の戦争が行われている」などと述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米側を非難した上で、ロシアによる軍事侵略を正当化し、今後も続ける姿勢を強調した。
飯田)昨日(5月9日)の式典、並びにプーチン大統領の演説について、どうご覧になりましたか?
例年に比べ小規模に開催された戦勝記念日の式典
黒井)式典に関しては、場所を制限するなど規模の縮小は発表されていました。しかし、特にモスクワのパレードが例年に比べて非常に小規模だったものですから、そちらの方は驚きました。
飯田)戦車が1台しか出てこなかったと大きく報じられていますね。
黒井)例年、それなりの戦車や戦闘用の車両が出てきます。装甲車はいくつか出していましたけれども、今年(2023年)は基本的に出さなかったということです。
飯田)今年は。
黒井)今回出した戦車も、第二次世界大戦中に対ドイツ戦で使った「T34」という古いものです。ナチス・ドイツに勝利したことを祝う記念式典なので、毎年、象徴的な意味で出してくるのです。実際にはもう古いので使えませんが、それだけを出し、実戦で使えるものは一切出さなかったということですね。
ウクライナとの戦争を優先して式典には戦車を出さなかった
飯田)「戦車などが出ないのは兵器が足りないからだ」などと思ってしまいますけれど、そういうわけではないのですか?
黒井)兵器はもちろん足りません。戦争が始まってから、戦車を2000両近く失っているのです。そういう意味では足りないのですが、まったくなくなったわけではありません。無理をすれば出せたと思いますが、今年はウクライナとの戦争のさなかであり、作戦の方を優先したという形だと思います。
「祖国防衛、ロシア防衛の正しい戦争だ」と自己正当化するプーチン大統領 ~最後まで戦うということ
飯田)演説の中身についてはいかがでしょうか?
黒井)NATOやドンバス地方に関して、というような話は超えてしまい、「自分たちロシアは悪の西側に攻撃を受けている」と言っている。「祖国防衛、ロシア防衛の正しい戦争だ」とプーチン大統領は自己正当化しています。
飯田)悪の西側に攻撃を受けていると。
黒井)これは急に始まったわけではなく、去年(2022年)の大晦日の演説のなかでも明言しています。また、2月21日の年次教書演説でも強調していましたが、「ロシアは被害者である」という論理です。
飯田)そうでしたね。
黒井)これに関して「戦争を継続する意思を示した」というような報道が多くありますが、それを超えてしまっています。プーチン大統領は勝利するまでやめられないよう、自分を追い込んでいるのです。「ロシアを守るための戦争であり、正当だ」と言っているということは、「最後まで戦う」ということです。形勢が悪いから途中で停戦する、ということを自分ではできないようにしてしまったのです。
飯田)退路を断った形ですか?
黒井)そうですね。自分が戦争を始めて、多くのロシア兵が亡くなっていますから、いまさら「間違っていた」とは言えません。
飯田)日本国内では即時停戦論を言う人たちもいますけれど、この姿勢であるロシアにそれができるのかと言うと、なかなか難しいですよね。
黒井)途中でやめれば、プーチン大統領も自己正当化できなくなってしまいます。彼はメンツを最優先しますので、それは難しいと思います。
「ワグネル」はロシアにとって大きな存在ではなく、あくまで「鉄砲玉」のようなもの
飯田)その先の話ですが、ロシア国内で民間軍事会社の代表と正規軍が揉めているという報道も出ています。どうご覧になっていますか?
黒井)民間軍事会社「ワグネル」は、バフムート戦線の最前線に投入されており、自分たちがロシア軍から正当に扱われていないことに対して文句を言っています。ただ、ワグネルは報道されているほど大きな存在ではなく、あくまでも鉄砲玉のようなものです。確かに戦果を上げているので人気はありますが、ロシア軍としては、何とか彼らを(鉄砲玉として)使っていこうという考えです。
ウクライナの反転攻勢はいつか ~どちらかが圧倒的に駆逐することは想定しづらい局面
飯田)今後の展開ですが、ウクライナ側は「この春、反転攻勢に出る」と言っていますけれども、どうなりそうですか?
黒井)ウクライナ側は温存している兵力をかなり具体化してきています。大量の戦車を西側から受け取り、4万人以上の新しい兵士を準備していますので、反転攻勢はおそらく行われます。
飯田)反転攻勢はある。
黒井)しかし、いつどう行われるかは、ロシア側との駆け引きがありますので、予測するのは難しいです。ただ、ロシア側も実はまだ温存している兵力がありますので、ロシア側が一方的にやられることはないと思います。
飯田)そうすると、戦争そのものが長引く可能性が高いですか?
黒井)作戦によって、どちらかが優勢になることはあり得ますが、どちらかが圧倒的に駆逐するという状況は想定しづらい局面だと思います。
クレムリンへのドローン攻撃はどちらが関与しているのか
飯田)クレムリンへのドローン攻撃は、どちらが関与しているのかを含めて謎ばかりですが、こういう手段がこの先も増えていくのでしょうか?
黒井)大規模なものは難しいですけれど、ウクライナ国防省情報総局もさまざまな工作をする能力があります。しかし、彼らはあまり「自分たちがやった」とは主張しません。
飯田)ウクライナの情報総局。
黒井)それと、正体不明なのですが、「自分たちはロシアのパルチザン(抵抗勢力)である」と名乗るグループによって、ロシア側の好戦派と言われるブロガーを爆破して殺害するというテロ行為も行われています。そういったものはこれからも定期的に起こると思います。
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