5回目の宇宙滞在から帰国 若田光一宇宙飛行士インタビュー(前編)
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年6月1日 17時20分
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「報道部畑中デスクの独り言」(第327回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、若田光一宇宙飛行士へのインタビューについて—
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若田光一さん ヘルメットを通して見た宇宙は「臨場感が格段に大きい」と話す(JAXA提供)
JAXA宇宙飛行士の若田光一さんが、5ヵ月余りの国際宇宙ステーションの長期滞在から無事に帰還し、このほど日本に一時帰国しました。
久しぶりの日本について、若田さんは「日本は食べ物もおいしく、ふろにもゆっくり入れた」と話しました。何でもアメリカではアパートに住んでいて、シャワーしかないそうです。宇宙から帰還して最初に食べたものはせんべいと寿司、日本に帰ってからはそばを食べたことも明かしました。
若田さんについては、先月の小欄でアメリカ・ヒューストンを結んだオンラインの記者会見のもようをお伝えしました。話を聞けば聞くほど、知りたいところが増えてくるとも申し上げました。
若田さんは帰国してから総理表敬や記者会見、帰国報告会など精力的にスケジュールをこなしていますが、そんななかで5月29日にニッポン放送のインタビューに応じました。場所は東京・御茶ノ水にありますJAXA=宇宙航空研究開発機構の東京事務所。さまざまなトラブル、自身として初めての船外活動について……より掘り下げました。インタビューの詳細を採録します。
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(畑中)今回の宇宙滞在、改めて印象に残ったことは?
(若田)今回、かなり多くの軌道上でのトラブルがありましたけれど、国際協力のチームの力で乗り越えることができたのは特に印象的でした。これまで5回の宇宙飛行を経験させていただきましたが、最も多くのかなり難しい課題に直面したミッションだったと思います。
(畑中)トラブルは具体的には?
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若田光一宇宙飛行士(5月29日 JAXA東京事務所で撮影)
(若田)今回はすごくたくさんあって、忘れないようにここにリストを持ってきました(笑)。いろいろな課題という観点ではたくさんあって、例えば打ち上げ2ヵ月ぐらいまでクルーが決まっていなかったこともあります。スペースX・ファルコン9というロケットで打ち上げる予定でしたが、打ち上げの準備の段階でトラブルが発生して、打ち上げが1ヵ月ぐらい遅れてしまったとか、打ち上げ直前にフロリダにハリケーンが来て、打ち上げが延期されました。
打ち上がったあとは、日本のコウノトリのような貨物機が宇宙ステーションに来ますが、そのうちのシグナスという宇宙機が、打ち上げのときにロケットからの損傷でシグナス宇宙船に2つある太陽電池のうち1つが完全に失われてしまうという……だから電力供給が基本的に半分という状態で宇宙ステーションにランデブーして、ロボットアームでつかむという作業が必要になってきて。
12月には宇宙ステーションのデブリ(宇宙ゴミ)が接近して、われわれ、クルードラゴンとソユーズ宇宙船に緊急避難するという、すべてハッチを閉じて宇宙船に乗り込んで、デブリの通過を待つとか。その次の日にはソユーズの宇宙船から冷却するシステムの冷媒が漏れて……これまで私が経験した宇宙ステーションの滞在のなかで、最も技術的に難しい課題、トラブルだったと思います。
ソユーズで3人の宇宙飛行士が上がってきているわけですが、万が一、宇宙ステーションに緊急事態が発生して火災とか急減圧が発生したときに、どのようにして彼らが安全に帰還するかといったことを解決するためのいろいろな会議とか、実際にはソユーズ宇宙船の座席をクルードラゴンに移すとか、さまざまな課題がありました。こういったものは大きな問題だったと思います。
その上で、例えば私が船外活動しているときに取り付けなければいけない構造体が、構造的な干渉があって、うまく取り付けられないとか、そんないろいろなトラブルがありました。そういったこと1つ1つを世界各国の運用管制チームの皆さんがタイムリーにブレーンストーミングをして、的確な指示を出して、安全に運用しながらいろいろな実験の成果を出すことができたと思います。
(畑中)生と死の隣りあわせというか、ああ、命にかかわるなというトラブル……。
(若田)例えば、ソユーズ宇宙船の冷却システムの冷媒が漏れるというのは、安全に帰還できないクルーが出てくるということ、これは本当に安全上の大きな問題。それを克服するために、きちんと安全の対策を講じて乗り切ることができましたので、危険だと思ったことはないですけれども、危険な状態になりつつあるところを、うまく乗り越えることができたことのチームのすばらしさ、それを感じました。
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JAXA東京事務所の前には、宇宙開発の足跡を示す年表が
(畑中)特に若田さんご自身は、冷や汗をかいたりとか……。
(若田)それはないですね。すべてのミッションでロケットに乗って打ち上がっているときは、無力感がありますけれども、冷や汗はかかないで、ワクワク感でいっぱいだったと思います。
(畑中)「何かあったらコウイチに聞け」というのが、宇宙飛行士の間で合言葉だったと聞いていますが……。
(若田)いえいえ(笑)。そこまではないですが、やはり、今回ルーキーの宇宙飛行士も多かったので、彼らに、私たちが経験させてもらったことを伝えながらミッションを乗り切ることができたと思っています。
(畑中)いま、船外活動の話もありましたが、漆黒の闇の世界は「死の世界」と言う人もいますけれど、若田さんはどう感じましたか?
(若田)今回、国際宇宙ステーションのいちばん端の「S6」というトラスの、実はこれは2009年に私たちがロボットアームで取り付けた構造体ですが、本当に宇宙ステーションのいちばん端のところで作業することもありましたし、ここが本当に宇宙ステーションの人類のフロンティアのいちばん先端なんだなと思いながら仕事したことを覚えていますけれども。その先に広がっている星々とか月を見ながら、生と死というよりも、宇宙が、月が、われわれを探査にと導いてくれているような明るい星とか光、月のようなものが、本当に宇宙が私を呼んでくれているような、そういう印象を持ったのを覚えています。
(畑中)月は見えたのですか?
(若田)月も見えましたし、いちばん印象的だったのは国際宇宙ステーション自体の輝きですね。宇宙船のなかから見るよりも、やはり自分のヘルメットのバイザーだけを通してみる世界というのは、臨場感が格段に大きいなと感じました。
(畑中)まさに“生宇宙”ですね。
(若田)そうですね、おっしゃる通りだと思います。
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船外活動中の若田光一さん(JAXA提供)
同じ漆黒の宇宙でも「死の世界」と感じる人もいれば、「宇宙が私を呼んでいる」と思う人もいる……だからこそ、宇宙に人間が向かうことは面白く、尊いのかも知れません。
トラブル解決、船外活動、数々の実験……宇宙飛行士はまさに命がけの仕事だと改めて実感します。ただ、そのなかでも若田さんはスタッフや関係者に感謝の気持ちを忘れない……若田さんが謳う「和」の精神が凝縮されていると感じました。
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