いまや自由貿易の旗手である日本のアジアでの役割
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年6月9日 17時30分
元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が6月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「骨太の方針」の原案について解説した。
「骨太の方針」の原案がまとまる ~中国の防衛費が3倍になり、2018年から高いプライオリティで防衛が入ってくるようになった
政府は6月7日に経済財政諮問会議を開き、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」の原案を示した。防衛力をめぐっては、「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に対応するため、抜本的に強化すると明記。研究開発、公共インフラ整備、サイバー安全保障、同志国の抑止力向上という4分野の推進を掲げた。
飯田)骨太の方針が示されましたが、安全保障に関してはどうご覧になりますか?
兼原)8月末に各省庁から予算原案を出すので、各省庁に対する指示なのです。総理大臣指示ですから、「ここを真面目にやってくれ」という官邸の指示が骨太方針です。
飯田)なるほど。
兼原)そこに総理のプライオリティが入ります。安全保障が入ってきたのは2018年の防衛大綱からです。それまでは防衛を国の予算編成の中核に持ってくることはありませんでした。しかし、中国の防衛費がいきなり日本の3倍になったので、「何とかしなければならない」と財務省も本気になり、骨太方針に高いプライオリティで防衛が入ってくるようになったのです。その延長だと思います。
中国依存から脱却するためにも内製化が必要 ~重要物資の製造のための資本強化
飯田)今回は経済安全保障やサイバーの部分も盛り込まれていますが、経済安全保障に関しては、兼原さんが官邸にいらっしゃったときに「経済班」ができました。問題意識が高まってきたと思いますが、一連の書きぶりを見ていかがですか?
兼原)例えば「重要物資の製造のための資本強化」と書いてあるのは、いま進めているサプライチェーンの強靭化に関する話です。国民にも影響の大きい物資がたくさんあるわけです。
内製化すると割高になるのでお金が必要 ~中国に切られた場合の対策
兼原)そのなかの多くは、中国からの輸入に依存しているものが多い。仮に中国に切られても対応できるよう、足腰を強くするために内製化を行う。「国内産業でつくれるようにしておかなければならない」という話です。しかし、そのためにはお金が要ります。
飯田)内製化しようとすると。
兼原)企業からすれば中国から買った方が安いので、「なぜ国産なのか?」という話になるのです。最低限は国産にしておかないと、切られたときに困るけれど、「そうなると割高になってしまう」という話になるわけです。
G7でも中国の経済的威圧に対抗する新たな枠組みを創設
兼原)どこかでお金を入れる必要がある。安くつくらせるか、安く買わせるかしなければいけないので、お金を払ってでも強靭化しておかないとなりません。中国が腹を立てて、台湾のパイナップルやフィリピンのバナナ、オーストラリアのワインなどを輸入しなかった時期があったではないですか。リトアニアなどは全貿易がストップされましたからね。
飯田)そうですね。
兼原)日本も2010年にレアアースを止められてしまったことがあります。中国は貿易という感覚があまりなくて、朝貢という感じです。
飯田)朝貢?
兼原)皇帝が怒ると止めてしまう。そういうことを平気でやるので、各国は困るのです。それが世界的な問題になっている。「中国がいきなり貿易を切ってきたらどうするのだ」と懸念され、「サプライチェーンを強靭化しよう」ということで、3月に「日米重要鉱物サプライチェーン強化協定」が署名・発効されました。それをIPEF(インド太平洋経済枠組み)でやろうなどという動きも活発になっています。
飯田)広島で行われたG7サミットのなかでも、中国の経済的威圧に対抗する新たな枠組みがつくられました。
安倍政権のときから自由貿易の旗手になった日本
飯田)日本が果たす役割は大きいのでしょうか?
兼原)大きいです。日本は安倍政権のときから、自由貿易の旗手になっています。「アメリカファースト」などと言われ、産業が空洞化しているときに、日本だけ逆方向を向いて「RCEPだ、CPTPPだ」などと動いたわけです。
飯田)安倍政権のときに。
兼原)「最近の日本は自由貿易の旗手だね」と、20年前からイメージが随分変わりました。「私たちが自由貿易全体の強靭性を上げなければ」と。
飯田)日本が。
兼原)マーケットだけに依存していると、マーケットを悪用する人がいるわけです。相互依存が深まると、それを逆手に取って小国の手を捩じ上げるようなことをする国もある。「それはルール違反だ」と日本は言わなければいけないと思います。アメリカもその気になっているので、日米が引っ張ってくれると思います。
アメリカが主導するIPEFの枠組み
飯田)本来であれば、アメリカがTPPに復帰するのがいちばんいいのでしょうけれど。
兼原)そうですね。産業が空洞化しているので、日本と同じですよ。労賃の安い方へ工場が出て行くと、「ジョブを守れ」という話になるのです。自由貿易はもともと共和党なのですが、最近の共和党はトランプ党になってしまっている。
飯田)トランプ党に。
兼原)民主党はもともと労働組合代表の保護貿易ですから、もはや自由貿易の旗手がいないのですよ。とりあえずCPTPPに関しては、アメリカには「ごめんね」という感じです。マーケットを外して、アメリカとはIPEFという新たな枠組みをつくる。
飯田)インド太平洋経済枠組み。
兼原)貿易協定がないから、経済協定としてIPEFを進める。みんなアメリカというマーケットがあるからアメリカに寄ってくるわけです。関税をしめられてしまうと、「なぜやるのか?」という話になるわけですよ。そこで私たちが「付き合ってあげましょう」と、アジアをまとめているような状況です。
アジアをまとめるのは日本の役割
飯田)日本やアメリカのような国からすると、関税・貿易の部分よりも、ルールづくりの部分を重視します。しかし、ASEANなどの新興国にとってはマーケットの開放度が大事ですか?
兼原)私たちは価値観やルールが先にきてしまうのですけれど、途上国はとりあえず、「まず発展」なのです。食べ盛りの子どものような感じですから、「ご飯はないけれど勉強しましょう」と言っても、「なぜだ」となるのです。
飯田)そこを何とか、と考える。
兼原)そうは言っても、アメリカも真剣にやらないと中国に抜かれてしまいます。だから日本が間に入り、町内会のまとめ役を担っている感じですよね。
飯田)一方で中国は、経済力で「うちにくれば儲かるぞ」と動く。
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