ウクライナ情勢で再び重要な存在となった「中東諸国」 岸田総理が中東歴訪終え帰国へ
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年7月19日 17時35分
ジャーナリストの佐々木俊尚が7月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理の中東歴訪について解説した。
カタールとLNG安定供給で協力確認 ~岸田総理が中東歴訪終え帰国へ
中東を歴訪中の岸田総理大臣は7月18日、3ヵ国目となるカタールの首都ドーハでタミム首長と会談した。カタールは世界有数のガス産出国で、日本も液化天然ガス(LNG)を輸入しているが、ロシアによるウクライナ侵略で重要性が増しているエネルギー市場の安定化のため協力し合うことで合意した。岸田総理はすべての日程を終え、帰国の途についた。
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中東への原油依存度は全体の95%と過去最高 ~日本にとって再び重要になってきた中東のポジション
佐々木)中東への石油依存度がまた高まってきており、日本にとって中東のポジションは大切なものになっています。
飯田)中東への依存度が。
佐々木)戦後の高度経済成長で中東から石油を輸入するようになり、石油ショックの前までは91%ぐらいを中東に頼っていました。しかし、石油ショックが起きて値上がりし、当時はイスラエルとの間で湾岸戦争もありましたから、中東だけに頼るのは危険だとされ、分散して中国やインドネシアからも輸入するようになっていったわけです。80年代のバブルのころには68%と、中東への依存度をかなり下げました。
飯田)80年代には。
佐々木)ところが、そのあとインドネシアと中国が経済成長を始めたので、彼らは自国で石油を使うようになり、輸入国になってしまった。輸出してくれなくなったので、また中東への依存度が8割ぐらいまで上がったのです。
飯田)再び。
佐々木)それでもまだ石油ショック前、91%まではいかなかったのだけれど、ウクライナ侵攻でロシアからのエネルギーをシャットダウンされた結果、原油については95%ぐらいになってしまいました。
飯田)中東依存度95%。過去最高の記録なのですね。
佐々木)石油ショック以前のレベルどころではない状況まで、中東依存が高まっている。これで中東に何かあったら、日本は首根っこを締められてしまうから、とにかく関係性をきちんと保っておかなければいけません。
アメリカとサウジアラビアの関係が悪い一方で、イランとサウジアラビアの関係修復を仲介した中国
佐々木)一方でよく言われていますが、アメリカとサウジアラビアの関係性にひびが入っている。中東のイスラム国家は人権抑圧のような面がありますから。
飯田)イスラム国家は。
佐々木)それに対してアメリカの民主党政権は、いわゆるアメリカ的なリベラルの考え方から「許せない」と、微妙に亀裂が走っている。
飯田)特に、記者のジャマル・カショギ氏の殺害に指導者自らが関わったのではないかという話が燻ぶっていますよね。
佐々木)ロシアによるウクライナ侵攻で原油の値段が上がりそうなので、バイデン大統領がOPECに「もっとたくさん放出してくれ」と頼みに行ったのだけれど、微妙に対応してくれなかった。
飯田)そうでしたね。
佐々木)去年(2022年)の12月に習近平氏が突然、サウジアラビアを訪問しました。そして今年(2023年)の3月、中国が仲介する形でイランとサウジアラビアの関係を修復させた。着々と中国がサウジアラビアに忍び寄っています。サウジと中国が仲よくなってしまい、中国の意向を汲んで日本に石油をあまり輸出しないような状況になったら大変です。
飯田)確かにそうですよね。一方で中国も現在、サウジアラビアなどが原油の輸入国になっているのですよね。
佐々木)そうなのです。日本との取り合いになっている感じもあります。
岸田総理の中東訪問は安倍総理の訪問以来
佐々木)日本の首脳はここ数年、中東へは行っていませんでした。安倍さんが行ったのが3~4年ぐらい前かな。
飯田)2020年1月です。以降はありません。
佐々木)そんななかで、もう1回行き、関係修復も含めて進める。サウジアラビアは脱炭素を含め、資金を使って脱原油ビジネスを行いたいのです。お金は莫大にありますから。世界的に見ると脱炭素の流れで、石油を使わない方向に向かっているため、そこに乗りたいのです。
飯田)サウジアラビアとしても。
佐々木)そのため技術力が必要なので、日本の技術を導入したい。日本としては「原油を安定化させたいから」と一方的にサウジアラビアへ頭を下げるだけではなく、ある程度Win-Winの関係がつくれるのではないかという目論見もあるでしょう。
飯田)お願いするだけではなく。
佐々木)カタールも大事です。カタールは天然ガスの最大輸出国の1つなので、ここできちんと押さえ、天然ガスをロシアに頼らず、カタールから輸入できるようにしておきたい。再び中東が日本にとって重要な、戦略的な相手国になってきたのだと思います。
カタールもイランもかつては関係性が強かった ~改めて大切にしなければならない中東諸国
飯田)カタールの天然ガスの権益に関しても、かつて日本はしっかりとしたものを持っていたけれど、ロシアシフトなどもあるなかで一旦、離れた時期がありました。
佐々木)中東依存度を下げなければいけないという意識があったので、20世紀後半には、戦略的に重視しなくなってしまった時期があると思います。その揺り戻しがきているのです。かつて日本はイランにも肩入れし、一緒に油田開発もしていたわけですから。
飯田)かつてのイスラム革命前、パフラヴィー王朝時代などに。
佐々木)それがイスラム革命とイラン・イラク戦争で、すべて台無しになってしまった。そうは言っても、日本とイランの関係性は細く長くつながっています。旧ペルシャやアラブも含めて、日本が大事にしなければいけない国々です。
飯田)エネルギー安全保障の問題は、そのままリアルな安全保障につながっていく。
佐々木)そうなのですよ。とは言っても中東は遠く、ペルシャ湾やホルムズ海峡も通らなければいけない。しかもそれが中国の九段線……。
飯田)南シナ海の。
佐々木)あそこと接触しているので、どう守るかという問題もあり、なかなか大変だと思います。
日本にとって石油の輸入ルートであるシーレーンは最大の命脈
飯田)ツイッターで“ガレオン”さんから中東の大事さについて、「中東の話はシーレーンの確保と密接していますよね」とご意見をいただきました。ここについては安全保障法制のときも言われていましたね。
佐々木)80年代の中曽根内閣のころから、常に言われています。日本がいかにシーレーンを確保し、石油の輸入ルートを保っていくかは、日本にとって最大の命脈であると。それがウクライナ侵攻でさらに高まっています。
火力発電だけに頼るのは危険 ~原発の再稼働を進めるべき
佐々木)そうは言っても、中東に95%ほど原油依存しており、しかも原発をあまり動かさない状態で、ますます火力に頼るというのは健全ではない状況です。
飯田)原子力にも頼れず。
佐々木)原子力には原子力の心配もたくさんあるのですが、一方で安全保障とのバランスを考えれば、やはり原発の再稼働をきちんと進めるべきです。原子力のテクノロジーも進んでいますから、岸田さんが言っているように新設も行うなど、バランスを考えることが大事ではないでしょうか。
原子力と石油と再生可能エネルギーの3つでどうバランスを取るかは重要な論点
佐々木)石油はダメだとか、原子力はダメなどと言っていると、何も残らなくなってしまう。原子力と石油と再生可能エネルギーの3つで、どうバランスを取っていくかは、とても重要な論点ではないでしょうか。
飯田)どれも一本足打法で進めるわけにはいかないですよね。
佐々木)常に同じ量の電力を発生させることはできませんから、再生可能エネルギーだけでは、ベースロード電源にはならない。
飯田)コンスタントに一定量の発電を続けることはできない。
佐々木)同時同量の概念があるため、たくさんつくり過ぎても電力が不安定になってしまうので、つくり過ぎた電力は捨てなければいけません。将来、それを貯めておく高性能な蓄電池ができれば、また別の話ですが。
飯田)余った電力を貯めておけるような。
佐々木)現状ではそれがない以上、とにかく電力を一定量つくり続ける。そして原子力か火力を使うしかない。火力だけでは危ないので、やはり原子力が必要なのですが、日本はこういうバランス議論が苦手です。
飯田)どちらかに振った方がクリアカットに見えるのですよね。
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