太平洋戦争「最後の空襲」 熊谷空襲の日に生まれた女性が「詩集」出版
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年8月16日 17時20分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
埼玉県熊谷市で行われる「星川とうろう流し」は、熊谷空襲の犠牲者の慰霊と恒久平和の願いを込めて、夕闇の星川に数百もの灯籠が流される行事です。
昭和20年8月14日、深夜11時30分ごろ。数十機のB29が襲った熊谷空襲は太平洋戦争「最後の空襲」と言われています。戦闘機の部品をつくる下請け工場があったという理由で、市街地の3分の2が焼き尽くされ、266人の尊い命が犠牲となりました。
この空襲に遭遇したのが、7月に亡くなった作家の森村誠一さんです。当時12歳だった森村さんは家族とともに桑畑に隠れ、一夜を明かしました。
翌朝、自宅へ戻る途中……熊谷の中心地を流れる星川に、戦火を逃れようとして飛び込んだ人々が折り重なって亡くなっているのを見ました。そのなかには森村さんが好きだった女の子もいて、「真夏の光を浴び、まるで水浴びをしているかのように見えた」と言います。初恋の人でした。
『人間の証明』をはじめ、数々のベストセラーを世に出した森村さんですが、多感な時期の戦争体験がその後、小説家になる原動力になりました。
森村誠一さんや、俳人の金子兜太さんも賛同人になったのが、市民団体「熊谷空襲を忘れない市民の会」です。代表は、元小学校教諭の米田主美さん・78歳。会の発足は8年前、2015年のことでした。
「当時、安全保障関連法(安保法)の成立が強行され、若いお母さんたちの間で『このままだと日本が戦争を始めるのでは?』という不安が広がっていました。どんなことがあっても戦争を始めてはいけない。そんな思いからこの会を発足しました。戦争反対とともに、熊谷空襲の記憶を風化させないため、講演会やイベントの企画、会報の発行などを通じて市民が学び合う場を提供しています」
8月12日にはパネルディスカッションが行われました。熊谷空襲に関する大学生のレポートによると、星川で亡くなった人のほとんどは窒息死だったそうです。空襲体験者からは「焼夷弾が降る音は夕立のような『ザー!』という音だった」など、貴重な証言も報告されました。
「戦争体験者から話を聞いた若い学生が、未来へバトンをつないでくれる。それがとても嬉しいですね」と話す米田主美さんは、元小学校の先生であり、朗らかで明るい人柄です。ところが話をうかがってみると、熊谷空襲とは切っても切れない人生を歩まれていました。
米田さんの父は熊谷陸軍飛行学校の教官でした。戦局が悪化するなか、教え子を特攻隊に送り出すと、自らも特攻で飛び立ち、昭和20年3月19日に戦死しました。
身重だった米田さんの母は熊谷から秩父の知人宅に疎開し、昭和20年8月14日に出産。「熊谷空襲の日」に米田さんは生まれたのです。
父を知らず、働く母の背中を見て育った米田さんは、熊谷女子高から埼玉大学に進学します。しかし、学生時代も教員になってからも、戦争にまつわる自身の体験を積極的に明かすことはありませんでした。
教員を退職後、趣味の1つとして「詩」を書き始めます。すると、浮かんでくるのは娘の顔を見ることなく戦火に命を落とした父や、苦労して自分を育ててくれた母のことばかり……なぜか作品は、戦争や空襲に関する内容が中心になっていきました。
3年前の2020年8月14日。熊谷空襲の日、そして米田さんの誕生日に、初めての詩集を出版しました。最後に、詩集『私が生まれた日』から詩をご紹介します。
—–
『私が生まれた日』米田かずみ
「もう、僕はこれで帰れないから」
父は特攻で出て行った
母のおなかにいた私は
母の涙を知らなかった
生まれた日
街は焼き尽くされ
母は私を産み
私を抱いて
残骸になった自分の家の焼け跡を見た
乳も出ず
泣くばかりのわが子を抱きしめた
三月十九日
父はすでに南の空に散って逝ったことを
母は知らなかった
一九四五年八月十四日
それは熊谷空襲のあった日
私は焦土と化した
瓦礫の中で生まれた
翌日
天皇の玉音放送が流れた
—–
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
水深60mの戦没船から遺骨16柱…太平洋戦争の激戦地トラック諸島で30年ぶり調査
読売新聞 / 2024年6月28日 15時0分
-
「平和は願うものではなく、努力して得られるものだ」 米兵を処刑した元戦犯の息子と処刑された米兵の孫 慰霊祭で共に平和を誓う
RKB毎日放送 / 2024年6月20日 19時59分
-
特集「キャッチ」福岡大空襲から79年 少年から家族を奪った戦争 亡くなった語り部の思いを伝え続ける
FBS福岡放送ニュース / 2024年6月19日 19時45分
-
死者・不明者1100人超「火の雨で焼かれた」福岡大空襲から79年 戦争の記憶どう語り継ぐ
RKB毎日放送 / 2024年6月19日 18時20分
-
福岡大空襲から79年 犠牲者を悼む慰霊祭 福岡市
FBS福岡放送ニュース / 2024年6月17日 8時36分
ランキング
-
1すき家、7月から“大人気商品”の復活が話題に 「この時期が来たか」「年中食いたい」
Sirabee / 2024年6月29日 4時0分
-
2若々しい人・老け込む人「休日の過ごし方」の違い 不安定な社会、「休養」が注目される納得理由
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 9時0分
-
3水分補給は昼コーヒー、夜ビール… 「熱中症になりやすい人」の特徴と対策
ananweb / 2024年6月29日 20時10分
-
4忙しい現代人が“おにぎり”で野菜不足を解消する方法。野菜たっぷりおにぎりレシピ3選
日刊SPA! / 2024年6月30日 15時53分
-
51年切った「大阪・関西万博」現地で感じた温度差 街中では賛否両論の声、産業界の受け止め方
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 14時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください