仙台の駅弁屋さんは、東日本大震災の際、なぜ震災翌日から弁当を作ることができたのか?
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年8月30日 11時55分
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
大正12(1923)年9月1日の関東大震災から100年。駅弁には138年の歴史があり、多くの老舗駅弁業者は、関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災と、さまざまな震災を経験しています。仙台駅弁の「こばやし」は、東日本大震災のとき、震災の翌日から弁当作りを再開し、復興に当たるさまざまな人たちを食の面から支えました。大きな揺れに見舞われた仙台のまちで、「こばやし」はなぜ、スグに立ち上がることができたのでしょうか。
関東大震災100年・駅弁は「食のライフライン」(東日本大震災編・第2回/全3回)
平成23(2011)年3月11日の東日本大震災は、まだ記憶に新しい方も多いと思います。大きな被害を受けた東北地方の鉄道のなかで、復興と合わせ、新たに始まった東北本線と仙石線の直通サービスが「仙石東北ライン」です。いまでは、特別快速が仙台~石巻間を最速49分で結びます。今回は、仙台駅弁「こばやし」の小林蒼生(こばやし・しげお)代表取締役(当時、現・取締役会長)に、東日本大震災のお話を伺いました。
●宮城県沖地震、阪神・淡路大震災を通じて、取り組みを強化していた「地震への備え」
―東日本大震災のときは、大変なご苦労をされましたね?
小林:宮城県には昔、宮城県沖地震という地震がありました。その後、阪神・淡路大震災があり、新潟でも地震があって、そのなかで各メディアでも、宮城県では今後マグニチュード7以上の地震が起こる確率が非常に高いと報じられてきました。ですので、事前にイロイロと準備をしていましたから、グラッと来たときは「俺の出番だ」と思っていましたので、別に怖さはありませんでした。
―本格的な災害対策を取られたきっかけは?
小林:平成7(1995)年の阪神・淡路大震災がきっかけです。神戸の駅弁屋さん「淡路屋」を訪問し、アドバイスをいただきました。30年以内の宮城県沖地震の発生確率が99%と報じられたこともあり、取り組みを強化しました。(1)駅弁の生産に必要な飲料水を自前の地下水でまかなうこと。(2)調理に使う「熱源」は電気を優先、ガスは備蓄可能なLPガスを使うこと。(3)仮設トイレを3基準備すること。(4)連絡手段としてNTTの衛星電話を準備しておくこと。この4つはもちろん、従業員全員による定期的な訓練も行っていました。
●震災翌日から再開した「弁当作り」
―震災後、休むことなく、スグに弁当作りを再開されたそうですね?
小林:幸い、電気が3月12日の昼に点きました。冷凍・冷蔵庫も気温の低い時期でしたので、(冷蔵庫を開けないことを徹底し、)食材があまり使えなくなることがなく弁当の製造を再開することができました。アイテムを1つに絞り込み、いまある材料でできる400円の幕の内弁当を提供しました。もちろん新幹線は停まり、仙台駅も封鎖されていましたので、電力関係や自衛隊などの緊急時に活動される皆さんに向けて作りました。
―どうして、すぐに弁当作りを再開できたんですか?
小林:無洗米を600kg、そして調理不要の食材の備蓄もしていました。貯水槽の60トンの水も無事でした。また、従業員の採用も震災対策を念頭に計画的に行っていました。災害時は交通が渋滞し、トラブルが起こると見込んで、徒歩・自転車通勤者が最優先。次いで、公共交通機関の利用者を優先して採用し、震災翌日に従業員を確保することができました。
●教訓から、一層強化された「震災対策」
―3.11の教訓を踏まえて、新たに取り組んだことはありますか?
小林:この教訓を踏まえて「こばやし」では震災対策を強化しました。保冷車を増備して、3台体制で緊急時の保冷庫にした他、蓄電池や発電機による停電対策にも取り組みました。また、停電時も使える電話を事務所に設置して、衛星電話と併用して緊急時の通信網の要とし、社内廊下の全電源に充電式非常用LEDライトを導入して避難経路確保に努めています。そして、社用車を常時ガソリン満タンにしておくことを徹底しています。
(「ライター望月の駅弁膝栗毛」2018年11月6日公開分を再構成したものです)
仙台駅弁・こばやしでは、震災直後から、仙台や宮城、ときには東北の名産を詰め込んだ復興支援企画駅弁を販売してきました。その系譜を受け継いでいると言ってもいいのが、今年(2023年)6月1日から販売している「みやぎまるごと弁当」(1500円)です。“食材王国みやぎ”と称される宮城県の豊富な海の幸、山の幸のなかから、駅弁に合った食材をセレクトし、宮城県の魅力を改めて発見できるよう弁当に仕上げたと言います。
【おしながき】
・亘理名物はらこ飯
・白飯 梅干し
・くるみおこわ (米は宮城県産環境保全米ひとめぼれ使用)
・仙台名物牛たん焼き 味噌南蛮漬け こごみ胡麻和え、
・三陸産銀鮭の柚香焼き 仙台名物笹かまぼこ
・A5ランク仙台牛煮 登米名産あぶら麩煮 絹さや 花人参煮
・鶏肉の仙台味噌漬焼き 宮城県産卵の厚焼き玉子 岩出山名産しそ巻き
・香の物(蔵王大根の味噌漬け、仙台長茄子漬け、紅大根)
・ずんだ餅
ふたを開けると、9つのマスに仙台・宮城のさまざまな味が詰まっています。ご飯は、白飯をはじめ、亘理名物・はらこ飯とくるみおこわの3種類が楽しめる他、おかずも牛たん焼きや仙台牛の牛肉煮、三陸産銀鮭の柚香焼きに笹かまぼこなど、肉と魚が両方味わえるようになっています。〆のデザートはもちろん「ずんだ餅」。宮城県の味覚をみんな味わいたいという、欲張りなニーズをしっかりと満たしてくれます。
東日本大震災では、JRグループの協力によって震災から50日目に当たる4月29日に運転を再開することができた東北新幹線。いまの東北新幹線の主力列車「はやぶさ」も、当時は運行が始まったばかり。徐行中は、東京~新青森間で4時間5分を要しました。その後10年以上、(広い意味の)余震にも見舞われながら、その都度、復旧を果たして、首都圏と東北を結び、震災からの復興を支え続けています。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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