中国「習近平一強」体制はピークを迎え、スローダウンが始まっている
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年9月14日 11時40分
中国の習近平国家主席(中国・北京)
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が9月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。G20における中国・李強首相とバイデン大統領の会談について解説した。
G20で中国の李強首相とアメリカのバイデン大統領が会談
中国外務省の毛寧報道官は9月11日の記者会見で、インドで行われた20ヵ国・地域(G20)首脳会議に出席した李強首相が、アメリカのバイデン大統領と短い会話を交わしたと明らかにした。毛寧報道官は、李強首相がバイデン大統領から「アメリカは中国経済が成長し続けることを望んでおり、経済発展を妨げることはない」と伝えられたと述べた。また、バイデン大統領も会見で、李強首相と米中関係の安定について話したことを明らかにした。
飯田)9月9日~10日にかけてG20首脳会議が行われましたが、習近平氏は来ませんでした。バイデンさんと李強さんは話したようです。
峯村)軽い立ち話でしょうか。しないよりはいいですけれど。特に習近平一強体制だと、「李強氏と話したところで何の意味があるのだ?」とは思いますね。
飯田)習近平氏ではなく。
峯村)習近平氏が出なかったことについて、いろいろな関係者に話を聞きましたが、巷で言われているような健康問題や、国内の政情が危ないという状況などはありません。
飯田)ないですか。
峯村)ありません。
習近平氏がG20に出席しなかった2つの要因 ~新型コロナが発生した2020年、ミャンマー訪問で対応できなかったことの反省も
峯村)習近平氏が出席しなかったことには、2つ要因があると思っています。習近平一強体制と言いましたが、あの方は忙しいのです。
飯田)忙しい。
峯村)経済から軍事から、すべての決裁に目を通さなくてはいけない。G20へ行くだけで、2日~3日ほど離れることになりますので、帰って来たら山のように決裁書類がたまっているわけです。そうなると、なかなか気軽には国を離れられません。
飯田)すべてを見なければならないので。
峯村)習近平氏に1つトラウマがあるとすると、2020年1月、ちょうど新型コロナが発生したとき、中国では初動が遅れましたよね。
飯田)そうでしたね。
峯村)あのとき、習近平氏はミャンマーを訪問していたのです。親分がいない間、部下たちは何も決められないという状況があり、感染が拡大してしまった。その反省があるのだと思います。
G20にはアメリカをはじめ邪魔者がたくさんいる ~アメリカのいないBRICSの拡大の方が優先順位が高い
峯村)だからこそ、できるだけ優先順位をつけて「出なくてはいけないものにだけ出よう」というのが、いまの習近平体制の外交政策だと思います。G20に関しては、もともと中国も力を入れていたのですが、数が多いので邪魔者がたくさんいるわけです。中国にとって、いちばんの邪魔者はアメリカです。
飯田)いちばんの邪魔者は。
峯村)最近はインドとも関係が悪くなってきています。それもあって、習近平氏や中国にとってみると、それほど気持ちのいい舞台ではないのです。
飯田)G20は。
峯村)あまり優先順位が高くない。それよりもBRICSを拡大する方が大事です。BRICSには、いちばん邪魔なアメリカはいません。そのため、「G20には出なくてもいいのではないか」という考え方が、いまの習近平体制にはあるようです。
APECでの米中首脳会談の可能性はある ~アメリカとの完全なデカップリングを目指す中国
飯田)一方で、11月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議があります。ここで米中首脳会談を行うのではないかと言われていますが、どうお考えになりますか?
峯村)十分にあり得ると思います。両国政府の担当者はAPECでの首脳会談をやる方向で水面下で調整をしているようです。
飯田)APECなら、アメリカは入っているけれど、他にも東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々が入っているので、与しやすいところもあるのでしょうか?
峯村)どちらにせよ、いまの習近平外交は、アメリカと別のスキームをつくり、完全に分断する方向で動いています。そこが重要なポイントだと思います。
飯田)アメリカとのデカップリングを目指している。
峯村)「アメリカとは別の仲間をつくろう」というのが、いまの中国外交の特徴ですね。
長期的にはいろいろな国が集まる会合で「中国チーム」をつくろうと考えている中国 ~グローバルサウスへ力を入れる
飯田)いままではサプライチェーンの存在もあり、経済的にはつながっていました。一部、半導体に関しては切り離す形になるけれど、全体的にはリスクをみながら進めていく。デリスキングという言葉がありますが、そういう方向にはならないのでしょうか?
峯村)アメリカとの対立を深めているところがありますので、デカップリングしていく部分はあるのでしょう。もちろん、完全な切り離しはできないとしても、いろいろな国が集まる会合については、長期的に「中国チーム」をつくろうと考えているのだと思います。だからアフリカなど、「グローバルサウス」の取り込みに力を入れているのでしょう。
ロケット軍をはじめ、習近平氏に最も近い人たちが解任されたり動静不明になっている
飯田)外交についても習近平氏が当然、1つひとつを決めていくのだと思いますが、外交を担当していた秦剛外務大臣もいなくなってしまいました。国防省があまり表に出てきていないと話題になっていますよね。
峯村)この件は、私が最も関心のある事項です。まず1つ目に、秦剛氏は習近平氏のいちばんの右腕となる人物で、ロケット出世をしました。
飯田)そうでしたよね。
峯村)2つ目に、習近平氏が軍改革をして肝いりでつくった戦略ミサイル部隊「ロケット軍」で、いま7~8人が取り調べを受けているらしいのですが、トップからすべて挿げ替えました。
飯田)7~8人が取り調べ。
峯村)3つ目に、もともとロケット部隊の人間だった李尚福国防大臣が、2週間ほど動静不明なのです。つまりロケット軍、李尚福国防大臣、秦剛外務大臣などの習近平氏に最も近い人が現在、いなくなったり取り調べを受けていたりする状況です。
一強のピークを迎え、スローダウンが始まっている
飯田)一強体制とおっしゃいましたが、内部が揺らいでいるのでしょうか?
峯村)少なくとも習近平氏にとってみれば、気持ちのいいことではないですよね。一強だからと言って、必ずしも盤石なわけではありません。一強になったときがいちばん危ないのです。
飯田)一強になったときが。
峯村)その時こそがピークだということです。いろいろな齟齬も生まれてくる。外交や経済のすべてを見るとなると、政策決定のスピードが遅れたり、みんな恐れてトップに報告しなくなるなど、いろいろな問題が起こってきます。
飯田)なるほど。
峯村)そう考えると、一強のピークを迎え、スローダウンが始まっているのがいまの状況です。
秦剛氏をはじめとする一連の事件のうしろにはアメリカの存在がある
峯村)エマニュエル駐日大使がSNSで、妙に意味深な発言をしました。「習近平氏の周りでどんどん人が消えている。アガサ・クリスティの小説『そして誰もいなくなった』の登場人物のようだ」と嘲笑して書いていましたが、私は以前から申し上げている通り、一連の事件のうしろにはアメリカ、もしくはアメリカの情報機関がうごめいているのではないかとみています。エマニュエル駐日大使の書き込みをみて、それを確信しました。
飯田)その辺りのことがあるのか、国家安全省が、5月にスパイ罪で無期懲役となった米国籍の中国の方について、「30年以上アメリカのスパイだった」という情報を出してきました。「君たちが何をしているのかわかっているぞ」という話なのでしょうか?
峯村)完全に報復です。これだけではなく、最近は中国の国家安全省が「中央情報局(CIA)のスパイをこれだけ捕まえた」と、異常なまでに発表しています。
飯田)CIAのスパイを。
峯村)はい、「CIAの調査員に金を貰って国を売った」というような情報を次々と発表しています。これまで、諜報の話が外に出ることはないのですが、この1ヵ月くらいでこのような発表を増やしていることを考えると、まさにCIAに対する報復として見ることができると思います。
飯田)なるほど。
峯村)巷では秦剛氏の事件が、外務省内の権力闘争だなどと言われていますが、そんなことはないという証左ですよね。もっと大きな、米中関係などの枠組みで捉えないといけません。でなければ、ロケット軍の話などは説明できません。。
飯田)国家安全省は、「米中首脳会談をやりたいのならアメリカ側が誠意をみせろ」というようなことをSNSで書いています。この先はある意味、習近平氏の御庭番的に国家安全省が動くことになるのでしょうか?
峯村)国家安全省自体というよりも、トップにいる陳文清氏は習近平氏の右腕中の右腕です。おそらく彼辺りが主導して動いているのだろうと思います。
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