「夜こそ本当の自分。昼間の自分のまま死ぬと、自分を知らないまま死んでしまうことになる」 美術家・横尾忠則
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年9月28日 17時25分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(9月21日放送)に美術家の横尾忠則が出演。東京国立博物館 表慶館 『横尾忠則 寒山百得』展について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。9月18日(月)~9月22日(金)の美術家のゲストは横尾忠則。4日目は、1970年から書き続けている日記について—
黒木)運命の無責任さで美術家になったと。「運命に身を任せる」と前回おっしゃっていましたが、日記をずっと書かれているのも……。
横尾)強制されているわけではなく、書きたいから書いているわけです。
黒木)1970年から書かれていますよね?
横尾)70年から書いていますね。
黒木)ずっと書かれているのですよね。ご本がありますが、出されたときに、「84歳にして創作を行って」ということですよね。日記をまとめていらっしゃる本なのですが、生きることがそのままアートになっているという感じのご本ですよね。
横尾)アートになっているかどうかはわかりませんが、生きることとアートというのは別に区別しないで、「それが一体化するのがいちばん生きやすいのではないか」という考えはあります。でも、なかなかそういうことはできませんよね。
黒木)生きることアートが一体化する。
横尾)生活するということは、旅をする、誰かに会ってご飯を食べるなど、いろいろありますよね。以前までは、「生活をする」ということと「絵を描く」ということを2つに切り離していたのですが、いつのまにか、「もう絵を描くしかない」となったのです。
黒木)日記は、写真のように切り取るとおっしゃっていますね。
横尾)そういう1日をメモとして書いているわけです。「それが何の役に立つのか」ということも考えていません。それを目的にしてしまうとつまらない日記になってしまうと思います。「書きたいから書いている」というだけで、書いたものを読むこともほとんどありません。
黒木)この『横尾忠則 創作の秘宝日記』というご本ですが、夢の話や、死についての項目が多いですよね。
横尾)昼と夜をみんな分けて考えるのですが、私は夜の人生と昼の人生は別々のものではなく、1つのものだと思うのです。
黒木)昼の人生と夜の人生がある。
横尾)むしろ、夜に見る夢のなかに現れる自分の方が本体で、昼間の自分はいくらでも演出ができるし嘘もつくし、いい加減ですよね。
黒木)昼の自分の方が。
横尾)夜の自分というのは、本能と一体になっているので、「嘘をつかない自分」を夜に見せつけられるわけです。そこで驚いたりするわけですが、それは「本当の自分」だから、その自分に驚いたり怖がったりするわけです。
黒木)夜の世界というのは、自分の解放とつながっているのでしょうか?
横尾)もともと自分は1つなのだけれども、社会的な便宜さで2つに分けているだけの話なのです。そうなれば、当然、そこには地獄的な世界が現れるのです。
黒木)地獄的な世界ですか?
横尾)昼間の世界は、無意識に天国的な世界を創造しようとしているわけです。夜はそんなことは無関係に恐ろしいシチュエーションに置かれるような自分を見せつけられる。それはまさに地獄でもあるわけです。
黒木)夜の世界は。
横尾)だから、昼間の人生だけを認めると、いいところ取りしかしていないわけです。夜の人生と昼間の人生をミックスすることによって、そこに「本当の自分は何なのだろう」というのが現れるのではないかなと思いました。日記を書きながら、だんだんとそのような気持ちになっていったのです。
黒木)私もこれからは、そのように思うことにします。確かに、どちらも自分ですものね。
横尾)本当の自分は、夜です。
黒木)解放していますものね。
横尾)夜こそ本当の自分です。昼間の自分のまま死ぬと、自分を知らないまま死んでしまうことになりますが、夜の自分をきちんと自分で評価して認めていると、死んだときに楽ですよ。
黒木)なるほど、そのように考えると穏やかな気持ちになります。
横尾)ぜひ、普通の日記と同時に夢の日記も書いてください。
横尾忠則(よこお・ただのり)/ 美術家
■1936年・兵庫県生まれ。
■1956年より神戸新聞社にてグラフィックデザイナーとして活動後、1959年に独立。
■唐十郎、寺山修司、土方巽といった舞台芸術のポスターなどを数多く手がけ、1969年にパリ青年ビエンナーレ版画部門大賞を受賞。1972年にはニューヨーク近代美術館で個展を開催。
■1980年7月にニューヨーク近代美術館で開催されたピカソ展に衝撃を受け、「画家宣言」を発表。以降、画家としてニュー・ペインティングととらえられる具象的な作品を制作。洞窟や滝といった自然風景から、街中の「Y字路」を描いたシリーズ、俳優、ミュージシャンといったスターたちの肖像画まで、多様な作品を手がけることでも知られている。
■東京国立博物館では非常に稀な現代アート展となる「横尾忠則 寒山百得」展を9月12日から12月3日まで開催。寒山拾得をテーマにこの1年で描き上げた102点を一挙に初公開する。
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