「企業減税が柱」ということは「それ以外はやらない」ということ 政府の「新たな経済対策」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年9月29日 18時55分
元経産省官僚で政策アナリストの石川和男が9月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田政権の経済対策について解説した。
新たな経済対策、税制措置は企業への減税が柱
政府の新しい資本主義実現会議は9月27日、物価高を受けた新たな経済対策について議論した。税制措置では企業への減税を柱とし、企業の賃上げや国内投資を促す減税措置などを重点事項に位置付け、関係府省庁で具体的な制度設計を進めていく方針。
企業減税ということは「それ以外はやらない」ということ
石川)「企業減税」というのは、「それ以外はやらない」ということです。
飯田)それ以外はやらない。
石川)ガソリンについて、トリガー条項などが言われているではないですか。いまは補助金を入れていますが、そもそもガソリンは、54円ぐらいがガソリン税として乗っています。それを「半分ぐらい減税する」というのがトリガー条項です。私はそれをやるべきだと思いますが、結局やらずに、補助金を入れる形になりました。
飯田)トリガー条項は発動しませんでした。
石川)ガソリン減税も個人減税のようなものですから、「そういうことはやらない」と早々に示しているのですが、この瞬間にインパクトが消えてしまうのです。
企業減税も方向性としては悪くないが、インパクトはない
飯田)最初、総理が「増収分を還元する」と言ったとき、減税になるかも知れないと思った人もいたでしょうね。
石川)でも、還元先を企業にしてしまった。減税という方向性は悪くないと思います。財務省からすれば、税収が減るような感じになるので嫌かも知れませんが、日本経済を考えたとき、いま負担を増やしたら大変です。ですので、企業減税もNOではないけれど、インパクトはありません。
補助金を出す、あるいは減税するというお金の話か、規制改革や規制緩和などのルールの話しかない
石川)例えば報道でも出ていますが、中小企業への税優遇策、あるいは賃上げした企業に対する減税は、方向としては結構な話だと思うし、否定する気はありません。
飯田)否定はしない。
石川)ただ、小規模企業について「生産性を向上するために設備投資をしたらいい」と言うのだけれど、「生産性を上げるべきなのは小規模企業だけなのか?」と思います。大企業も下請けや孫請けとして、小規模企業を使っているではないですか。であれば、企業全体に対して減税してもいいと思うのですが、こうやって範囲を限定させますよね。
飯田)細かく限定する。
石川)「集中的な政策の配分」という考えはあると思いますが、使い古された手法です。お金の面において、手法はそれほど多くありません。補助金を出すか、減税するくらいしかない。もう1つは、規制を変えることです。俗に言う規制改革や規制緩和など、一部規制強化という方法もあります。お金の話か、ルールの話しかないのです。
蓄電池や半導体、電気自動車(EV)などを国内で生産して国内で使うべき
石川)また、蓄電池や半導体をはじめとした、戦略物資の国内投資を促すと言っています。そういう減税措置も結構ですが、蓄電池や半導体、電気自動車(EV)などに関しては、私は多少コストがあっても、国内でつくったものを国内で使う方針にするべきだと思います。
飯田)国内でつくって国内で消費する。
石川)世界貿易機関(WTO)の「内外無差別の原則」に反するかも知れませんが、どの国も内外無差別などやっていません。後生大事に守っているのは日本ぐらいだと思います。
飯田)各国が自国メーカーを優遇していますよね。
国内でお金を回せば自ずと最低賃金は上がる
石川)日本も堂々とやればいいのです。WTOの原則には抵触するかも知れませんが、「あなた方もやっているだろう」と言えばいいのです。
飯田)日本だけではないと。
石川)それを言わず、日本は内外無差別などと言いながら対応していますが、外国から輸入することはリスクがあるので、多少なりとも日本でつくって日本人の雇用を生み出す。多少、人件費や費用が上がってもいいのです。
飯田)人件費が上がっても。
石川)そうすれば、補助金など必要なくなります。国内でお金を回せば、最低賃金は自ずと上がっていくと思います。
自由化を見直すことが1つの異次元対策に
石川)内外無差別とは逆行するけれど、逆行していい時代だと思います。
飯田)各国が、ある意味で少しずつ内向きになっている時代だから。
石川)日本も内向きになればいい。自由化と言いますが、自由化で上手くいった分野もあるけれど、電力自由化のように失敗した分野もあります。自由化して料金が上がるということは、政策の失敗を意味します。
飯田)電力自由化は。
石川)自由化を見直し、元に戻してもいいのではないでしょうか。トライ・アンド・エラーでやってみるべきです。それがもう1つの異次元対策ではないでしょうか。
原子力を使えば電気料金も安くなり、電力も安定する
飯田)「蓄電池や半導体の国内投資を促す」などと言いますが、投資したいけれど「電力が不安定では難しい」という会社もあると思います。
石川)電力にしても、原子力は莫大な輸入化石燃料の量を減らしてくれるわけです。当然、原子力によって電気料金も安くなります。化石燃料が減るから安くなるのです。しかも安定電源ですから、安定供給できる電気でいろいろな工場を誘致する。
飯田)電力の安定供給で。
原点回帰するのもいいのでは
石川)自由経済は大事です。資本主義も大事ですが、少しくらい計画経済に戻してもいいのではないでしょうか。全部が全部、資本主義ではなく、言い方はよくないけれど、非資本主義……社会主義ということですが。
飯田)昔は「修正資本主義」というような言葉がありましたね。
石川)ありました。あれも社会主義のことです。戦後、ある意味で日本は、世界で上手くいった最大の社会主義国だと思います。非資本主義でも新しい資本主義でも何でもいいのですが、いままでと少し違う、自由化や内外無差別とは違う、逆行したことをやってもいいのではないでしょうか。なぜなら、それをやってきてダメだったからです。
飯田)いままで、過度な自由化になり過ぎてしまった。
石川)行き過ぎてしまったから、振り子を戻すということで、原点回帰してはどうでしょうか。日本は経済敗戦したのだから、経済終戦だと思って、もう1回やり直す。そして、昔に戻って原点回帰する。
飯田)確かに。
石川)すべてではありませんが、「昔はよかった」という部分はかなりあると思います。
経済については自国優先に
石川)「資本主義、グローバル経済が行き過ぎた」ということで、外国では戻しているところもあります。アメリカもそうです。「自国でつくったEVを優遇する」と思い切り示しています。「自由化の旗手」などと言われているアメリカですら。
飯田)「二酸化炭素(CO2)削減」の流れがあり、もちろんそれも大事ですが、ウクライナ情勢の影響もあって、ドイツも化石燃料どころか石炭を動かしている。
石川)思想・信条は自由がいいと思いますが、経済については自国優先で動く。それが、我々国民が政治家に最も望むことではないでしょうか。自分の生活をよくしてくれる政治家を選ぶというのが、いい選挙制度だと思います。
飯田)原点回帰し、経済が回っていったあかつきに、3%~4%の利率がつくようになればいいですよね。
石川)100万円を預けておけば、翌年のいまごろには3万円の小遣いになり、「それで何かやろう」となるかも知れない。1000万円預けていれば30万円になり、30万円あれば家族旅行ぐらい行けるではないですか。
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