地上戦を行えば、中東でイスラエルが孤立する可能性も 専門家が解説
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月17日 17時40分
共同記者発表するイスラエルのネタニヤフ首相=12日午後、首相官邸
国際政治アナリストの菅原出氏が10月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。パレスチナ情勢について解説した。
国連安保理、ハマス非難の決議案を採決へ
国連安全保障理事会は日本時間10月17日朝、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃を非難する決議案の採決を行った。ハマスが10月7日以降に開始したイスラエルへの攻撃と一般市民を人質にとった行為を「断固として拒絶、非難する」とした上で、「人質の即時かつ無条件での解放」を求めたブラジル案を軸に、継続審議となった。
ハマス解体を目標に掲げるイスラエル ~地上戦に向けて準備
飯田)イスラエルに対してハマスが攻撃を開始したのは10月7日です。既に10日あまりが経ちますが、情勢にはどのような変化がありましたか?
菅原)イスラエルが空爆による報復攻撃を行うようになり、いまは地上戦に向けて準備を進めているところだと思います。
飯田)地上戦は相当な規模で行われることになるのでしょうか?
菅原)「ハマスの解体」を目標に掲げています。ハマスはガザを統治していますから、その統治をやめさせたい。ある意味、ガザの「レジーム・チェンジ」という目標を掲げていると思われるので、かなり大きな作戦になると思います。
飯田)ハマスの指導者は国外にいるとも言われていますが、壊滅できるのでしょうか?
菅原)国外に指導者がたくさんいるのですが、今回の作戦の実行部隊であるハマスの指導層と、そこにある軍事的ネットワークなども含めて解体すると言っていますので、そこに向けて動いているのだと思います。
ハマスを解体したあと、誰がガザ地区を統治するかが見えない
ジャーナリスト・須田慎一郎)ハマスを解体して、新たな統治の形に持っていくという話ですが、どんな形になっていくのでしょうか? イスラエルが直接的に統治するのでしょうか?
菅原)「ハマスを解体する」とは言っているのですが、そこがまったく見えてこないのです。「ハマスの軍事能力を解体する」ということなら、まだわかるのですが、統治機構ですから。それを解体したあと「誰が統治するのか」というところは一切、見えていません。
飯田)そのあとの統治については。
菅原)パレスチナ自治政府に行わせようと思っても、その統治能力がないから、ガザは現在ハマスが統治しているのです。それが見えないまま軍事作戦を行ってしまうと、2003年のイラク戦争でアメリカが「フセイン政権に勝とう」ということだけを考え、そのあとの計画を立てていなかったのと同じような結末になる可能性があります。
イスラエルの報復攻撃に対する批判が大きくなっている中東地域 ~イスラエルが孤立する可能性も
弁護士・野村修也)ガザ地区の人口は約222万人もいるわけですが、そのなかでハマスはごく一部です。掃討作戦が行われたら、多くの民間人犠牲者を出してしまうことになります。ハマスがテロ攻撃を行ったことが前提ですから、イスラエルがハマスを攻撃すること自体に大義はあると思います。ただ、民間人を巻き込んで掃討作戦を行うとなると、今度は国際社会の批判を招くことにはならないでしょうか?
菅原)既にアラブ地域を含め、中東地域ではイスラエルの報復攻撃に対する批判の方が大きくなってきています。当然そのような流れで、イスラエル側が孤立することにもなりかねないと思います。
「ハマスは批判するが、パレスチナは応援する」という微妙な路線を取るしかない日本
野村)日本の立ち位置ですが、日本はいまのところ、両方に対して「顔が利く」というところからスタートしています。今後、どのような立ち位置でこの問題に立ち向かっていけばいいとお考えでしょうか?
菅原)日本は基本的に、「ハマスはパレスチナ全体を代表するものではない」という形で、パレスチナ自治政府の方を支持する立場だと思います。「ハマスは批判するが、パレスチナは支援する」という微妙な路線を取る以外ないかも知れません。
パレスチナを統治することが危ういパレスチナ自治政府 ~今後、無統治の混乱状態になる可能性も
飯田)パレスチナ自治政府は、コロナ禍の影響もあって選挙が延期され、正当性が疑われているとも言われます。ねじれの解消はできるのでしょうか?
菅原)パレスチナ自治政府も、統治の正当性が低くなっており、ガザも含めて「パレスチナ全体を統治できるのか」と考えると、非常に危ういと思います。無統治の混乱状態になってしまうのではないでしょうか。
ハマスの奇襲攻撃を許したイスラエルの過信
須田)今回、イスラエルはハマスの攻撃をほとんど想定していなかったように思えるのですが、なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか? イスラエルはガザ地区に対して、どのように受け止めていたのでしょうか?
菅原)既に「インテリジェンスの失敗」と言われています。おそらく、これまでガザ地区を監視して締め付けてきたため、「自分たちがコントロールしているのだから、テロ行為などできないだろう」という過信があったのだと思います。
須田)ガザ地区の住民は経済的に困窮しており、イスラエルが手を差し伸べて、イスラエル地区の仕事を提供していました。その辺りはイスラエルが行ってきたという経緯があり、まさかハマスが攻撃してくるとは思わなかった。イスラエルはイスラエルで緊張緩和に努めていたのでしょうか?
菅原)仕事が欲しいのであれば、こちら側に来て仕事し、帰って行くという、ある意味でガザの人たちを飼い馴らすような形だった。「結局ハマスもお金が欲しいのだろう」と考え、これ以上楯突くことはないという過信があったのだと思います。
イスラエルを牽制するイラン
野村)一方、この地域での戦況の拡大が気になります。既にレバノンの方からも攻撃が始まっており、陰でイランが武器を提供しているという話もあります。この辺りが中東情勢全体に広がっていく可能性はあるのでしょうか?
菅原)イラン側はイスラエルに向け、「地上作戦を進めていくのであれば、イランが支援するヒズボラなどが黙っていないかも知れない」などと示唆し、地上作戦に対して牽制しています。しかし、実際にヒズボラなどが入ってくるかどうかはわかりません。
飯田)イランが牽制を。
菅原)イランは牽制していますが、既に国際世論はイスラエルが孤立する側にいます。イスラエルがガザを攻撃して泥沼に陥り、パレスチナ市民を殺害して非難を浴びれば、イランにとっては有利な状況になりますので、入ってこない可能性も考えられます。
バイデン大統領から攻撃の承認を得るためにイスラエルへ招待 ~おいそれと動けないバイデン大統領
飯田)アメリカはどう出るのでしょうか?
菅原)いまバイデン大統領がイスラエルに招待されていますが、行くとなると、これからイスラエルが行うことをすべて承認する立場になります。だからイスラエルはバイデン大統領を呼んでいるのです。
飯田)アメリカに承認してもらうために。
菅原)バイデン大統領が来てしまえば、イスラエルが何をしようと、「アメリカが承認したことだ」と国際的には受け止められます。イスラエルは「アメリカの承認を得たので攻撃を行う」という体勢に持っていこうとしているのです。
飯田)そうなると、バイデン大統領は簡単には動けないですよね。
菅原)そういうことですね。
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