プーチン氏と習近平氏がいま、お互い「持ち上げ合う」しかないわけ
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月24日 17時25分
北京で握手を交わすロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(中国・北京)
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司と東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が10月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アメリカからウクライナに供与された「ATACMS(エイタクムス)」について解説した。
ウクライナがアメリカから供与されたミサイルを定期的に取得へ
ウクライナのクレバ外相は10月19日、アメリカから供与された長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」を今後も定期的に受け取る予定と述べた。供給されたミサイルの数は不明だが、米紙ニューヨーク・タイムズによると、現時点で約20発とされている。
飯田)ATACMSは、戦況を変えるに値するような兵器なのでしょうか?
小泉)この戦争は600日間ぐらい続いていますが、600日間で明らかになったことは、何か新兵器があれば戦況が変わる、いわゆる「ゲームチェンジャー」のようなものはそうそうないということです。
飯田)「ゲームチェンジャー」は。
小泉)ただ、組み合わせによっては大きな効果を発揮することもあるし、使い方によっても効果は変わります。ウクライナ軍はこれまで、アメリカからもらった兵器と旧ソ連製の兵器を、比較的上手く組み合わせて使ってきたのです。
定期的に補充されれば大きな火力となるATACMS
小泉)そこに新しいATACMSというピースが上手くはまるのであれば、大きな効果を発揮すると思います。このミサイルは射程が長いのです。ATACMSもいろいろなバージョンがありますが、最大で射程300キロメートルくらい。今回渡したのは射程160キロメートルぐらいのバージョンではないかと言われています。
飯田)射程160キロ。
小泉)ただ、20発ぐらいなのであれば、数が少ないです。これが本当に定期的に補充されるなら、大きな火力になると思います。
これまで掛けていたATACMSの制限をアメリカが解除したことは大きな一歩
小泉)もう1つ大事なことは、アメリカは当初、ウクライナに渡していた発射機……いろいろなミサイルを撃てる発射機にわざわざ制限を掛けていたのです。ATACMSを撃てないようにしていた。
飯田)制限を掛けていたのですね。
小泉)他のアメリカの同盟国から勝手にもらってきた場合、撃てないようにしていたのです。そのくらいロシアを刺激しないよう気を付けていたのですが、今回は少数ですがATACMSを出し、実際にウクライナ軍は6発の一斉射撃を行っています。
飯田)6発の一斉射撃を。
小泉)つまり、どうも制限を解除したらしい。ここが大きいと思います。「制限を解除する」とアメリカが決断したことも大きいですし、制限が解除された以上はこれから先、弾があれば撃てることになります。0が1になったという意味では、小さいけれど、大きな一歩ではないかと思います。
アメリカの弾薬と武器の枯渇問題 ~アメリカの武器や弾薬を西にシフトすることで、中国や北朝鮮が「力の空白」と見て挑発的な行動に出る可能性も
飯田)アメリカ側としてはいかがですか?
峯村)アメリカの弾薬と武器の枯渇問題を私どもも議論しましたけれど、本当に足りていません。20発しか渡していないのは多分、足りないからです。
飯田)これ以上渡してしまうと、アメリカ自身の抑止力に問題が出たり、運用に問題が出る可能性があるかも知れない。
峯村)しかも、ウクライナ向けのものをイスラエルの方に振り分けてもいるので、さらに足りなくなってきています。在韓米軍の弾薬を回すというような話も出ています。中国なり北朝鮮が、「東アジアにおけるアメリカの弾薬や武器が西にシフトしている」という状況を見てしまうと、「力の空白」と認識する可能性があるので、より挑発的な行動に出ることがないかと危惧しています。
飯田)世界全体のバランスが崩れてくる。
峯村)そうですね。
中露が連携してチャンスを伺っている状況がある
峯村)実は10月18日、中露首脳会談のなかでプーチン大統領が、「まさに習近平同志が言っていた、いまは100年に1度の大変革期にある。あなたがかつて言ったことが現在、その通りになっているのだ」と言ったのです。この発言がとても気になりますね。
飯田)100年に1度の大変革期であると。
峯村)習近平氏が言った「100年に1度の大変革期」というのは、「アメリカの覇権が揺らぎつつあるいまがチャンスだ」ということです。「このチャンスを生かす」という文脈の流れで言うと、まさにいまアメリカが3正面と向き合うような情勢になっている今こそ、中露が連携して、今後さらに圧力を強めていこう。。あの文言からそういう感じを受けました。
飯田)非常に野心的であると。
峯村)野心的でした。それをプーチン氏が一生懸命、持ち上げているのです。
ヨーロッパともアメリカとも関係が悪いロシア ~中国との関係が切れると危ないので下手に出ている
飯田)中露首脳会談の前から、プーチンさんは中国中央テレビのインタビューでも(習近平氏を)ベタ褒めしています。ロシアをご覧になっている小泉さんからすると、プーチン大統領の変化はいかがですか? ずいぶん下手に出るようになっていますが。
小泉)いまロシアは、中国に対して下手に出るしかないのだと思います。ヨーロッパとの関係が悪く、アメリカとの関係も絶望的に悪い。それどころか、国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ているので、物理的に行ける国も少なくなっています。
飯田)そうですね。
小泉)それでも旧ソ連の国々は、ロシアがいないと生きていけないのですが、まずアルメニアが完全にロシアを見限りつつある。モルドバとも対立しており、ウクライナとは戦争状態……というような状況だと、できることの幅は狭まってきます。そのなかで、中国との関係さえ維持できれば、何とかやっていける。逆に言うと、中国との関係が切れてしまうと本当に危ないので、中国に対しては下手に出ているのです。
飯田)中国に対しては。
小泉)プーチンさん自身は習近平さんに対して、それなりに偉そうな態度を取っていますが、国の外交姿勢としては相当、中国に気を遣わざるを得なくなっていることは事実です。
近代史上のなかでのけ者だったロシアが復活する500年に1度のチャンス
小泉)知識人たちの言説のなかで、「中国様」というような雰囲気が出てきつつあります。先ほど峯村さんが、習近平氏の「100年に1度」という発言を紹介されましたが、あるロシア人の学者は、「これは500年に1度だ」と言っています。
飯田)500年に1度。
小泉)「ヨーロッパの覇権が近代史上、初めて揺らぎつつある」というときに、「近代史上のなかでのけ者だったロシアが、いよいよ復活するチャンスだ」という見方もあるのです。「ヨーロッパの覇権を終わらせてくれる中国様」という見方もあります。
飯田)大英帝国から始まる海の覇権が、いよいよ揺らぐということですか?
中露でヨーロッパの覇権を「ひっくり返せるのではないか」という強い期待感
小泉)もう1つ言うと、産業革命の発祥地であったイギリスを始め、さまざまなものが西ヨーロッパから始まり、ヨーロッパのなかでロシアには最後に波及してくるわけです。中国はさら遅れて、「アジアの病人」というような扱いでしたが、いよいよ「中露でひっくり返せるのではないか」ということです。本当にできるかどうかは別として、期待感は強いと思います。
峯村)その両国は、話が合うのですよね。
小泉)そうなのですよ。
ロシアは完全に中国の「弟分扱い」になっている
峯村)今回の会合をみていると、一生懸命、習近平氏はプーチン氏を他の指導者以上に持ち上げていました。
飯田)中国側としても。
峯村)「もてなし」は行っているのですが、中身を見ると、中国側からすれば「ロシアは完全にジュニアパートナーだ」と最近はっきり言っています。「彼らは弟分だ」と言う人も増えている。
飯田)ロシアは弟分だと。
峯村)完全に「利用してやろう」というところがあります。実際に今回、プーチン氏は習近平氏に対し、台湾問題についても当然「一つの中国」を支持するし、「台湾は中国固有の領土である」とわざわざ言っているわけです。「完全に弟分扱いになってしまっている」というのが中国側の見方です。
ロシアが核に手を出さない2つの理由
飯田)アメリカは、いままではロシアに気を遣ってATACMSの制限をしていましたが、それを解除したということは、「ロシアは中国に気を遣って核にまでは手をつけないだろう」と思い始めた面もあるのでしょうか?
小泉)確かに中国はロシアに対して度々、「核を使うな」と言っているようです。習近平氏自身もプーチン氏に直接それを言ったようで、2023年3月の共同声明にも盛り込んでいます。中国からすれば、ロシアがヨーロッパで通常戦争で暴れている分には、アメリカの抑止力がそちらに回ってくれるからいい。しかし、「核戦争だけは始めてくれるな」というのが中国の思惑でしょうし、圧力も掛けていると思います。
飯田)なるほど。
小泉)もう1つは、中国に言われるかどうかに関わらず、いかに少数でも、いかに低出力でも、核を使ったが最後、どこまで転がっていくかわからないわけです。そうである以上、ロシア軍も軽々に核は使わないということは、この600日間でわかっています。アメリカとしては、「ロシアに特定のレッドラインがあるわけではない」という結論を得たのだと思います。
ウクライナ軍がドニプロ川に橋を架けて「重戦力を渡すことができるかどうか」がターニングポイントに
飯田)ウクライナの戦況ですが、ウクライナ軍がドニプロ川を渡り、その先に橋頭堡をつくったのではないかと報道されています。そのまま進み、ロシアの占領地を東西に分断するところまで行くのでしょうか?
小泉)まだわかりません。ウクライナ軍がドニプロ川を渡河して、ロシア軍の背後を突くような動きをしましたが、まだ橋は架けられていないようです。橋が架けられなければ、戦車や榴弾砲などの重戦力を渡せません。現状では、ボートに乗れる程度の軽歩兵部隊が奇襲を掛けたという段階にすぎません。
飯田)そうなのですね。
小泉)ただ、ウクライナ軍はこれまでにないぐらい奥まで進んでいます。橋頭堡が拡大できた場合、橋を架けて重戦力が渡され始める可能性があるので、そこまで行くかどうかに注目しています。
飯田)実はターニングポイントかも知れない。
小泉)そうですね。
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