新型コロナワクチンの開発に貢献したカタリン・カリコ氏との思い出 iPS細胞研究所名誉所長・山中伸弥
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月23日 11時20分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(10月16日放送)にiPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥が出演。mRNAワクチンを開発したカタリン・カリコ氏との思い出について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。10月16日(月)~10月20日(金)のゲストはiPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥。1日目は、mRNAワクチンの開発でノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコ氏について—
黒木)山中さんは2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞なさいました。もう11年前になりますね。
山中)そうですね。あっという間に11年が経ちました。
黒木)ノーベル賞の発表のときは、研究支援者の方々と喜びを分かち合ったという感じだったのですか?
山中)通常は10月の第1月曜日に発表されるのですが、実際に受賞をいただいた年は、たまたまその日が体育の日で休日だったのです。私は家にいて、昼間は休日なのでジョギングしたりしていました。そこに電話が掛かってきて、よく聞いたらノーベル賞の受賞が決まったと。
黒木)お休みの日に。
山中)驚きました。さらに驚いたのは、最後に「受けられますか?」と聞かれたのです。「断る人はいるのかな?」と思いました。
黒木)そうですよね。
山中)実際に歴史を見ると、平和賞などで断られた方もいるようですが、生理学や医学など科学の分野では、まず断る方はいないだろうなと思いました。
黒木)ものすごく名誉なことですし、なかなかいただけるようなものでもないですからね。それから11年経ちましたが、いまはまた別の研究をなさっているのですよね?
山中)iPS細胞の研究開発はもちろん続けていますが、それ以外にiPS細胞の前からやっていたもので、生命の根幹に関わるような現象の研究です。
黒木)研究者のカタリン・カリコさんとドリュー・ワイスマンさんが新型コロナウイルスのmRNAワクチンの開発で受賞されましたが、カリコさんとも親交があると伺ったのですが。
山中)研究所でつながりがありました。彼女たちの研究は遺伝子を導入する新しい方法です。当時、彼女たちの研究はあまり注目されなかったのですが、そのときに私たちがちょうどiPS細胞の報告をしたのです。彼女たちの技術を使って、彼女たちの方法で私たちの見つけた因子を遺伝子導入すると、もともと私たちがやっていた方法よりも、はるかに効率よくiPS細胞ができるという論文を出されて、それがすごく注目されました。
黒木)そうなのですね。
山名)それが「RNA技術はとても有用なのだ」と世に知られるきっかけになったらしいのです。私たちは何もしていませんが、カリコ先生はiPS研究に感謝していただいているそうです。
黒木)iPS細胞があったからこそ、なのですね。
山中)きっかけになったというか、「RNA技術はすごい技術なのだ」ということがわかりやすく伝わったので、ずっとiPS細胞に感謝してくださっていたらしいのです。
黒木)iPS細胞に。
山中)お会いしたのはワクチンで世界的に注目されてからで、対談させていただき、いろいろとお話をいたしました。本当に素晴らしい方だなと思います。あれだけの偉業なのに、とても謙虚でした。
黒木)素晴らしい方ですね。
山中)ハンガリーでは研究が十分にできなくなり、ご家族でアメリカに移住されています。ハンガリーからはドル(外貨)をあまり持ち出せなかったので、お嬢さまのテディ・ベアのなかにドルを隠してアメリカに渡り、最初はそのお金で暮らしていたそうです。
黒木)隠して持って行ったお金で。
山中)そのあともなかなか苦労されました。そのお嬢さまがボートを始められて、オリンピックでゴールドメダリストになったのです。それも1度ではなく、何度も世界チャンピオンになっています。
黒木)すごい才能のご家族でいらっしゃるのですよね。
山中)対談したときにカリコ先生は、これまでは「ゴールドメダリストのお母さん」とみんなに認識されていたのですが、お嬢さまはいま製薬業界で働いているそうで、立場が逆転して「カリコ先生のお嬢さん」と言われるようになったのが嬉しいとおっしゃっていました。
山中伸弥(やまなか・しんや)/iPS細胞研究所名誉所長
■1962年、大阪府東大阪市出身。
■1987年に神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て、1993年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了(大阪市立大学博士(医学))。
■その後、米国グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。
■2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功し、新しい研究領域を拓く。
■2010年、京都大学iPS細胞研究所・所長に就任。
■2010年に文化功労者として顕彰されたことに続き、2012年には文化勲章を受章。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
■現在は京都大学iPS細胞研究所・名誉所長・教授を務め、研究室を主宰し若い研究者たちと研究に取り組んでいる。また、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の理事長も務めている。
■アメリカ・グラッドストーン研究所でも研究室を持ち、毎月1回は渡米し、研究活動を行っている。
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