中国が、安保理常任理事国と国交のないブータンに近寄る「思惑」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月25日 17時30分
中国の習近平国家主席(ウズベキスタン・サマルカンド)
戦略科学者の中川コージが10月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・王毅外相の訪米について解説した。
中国・王毅外相が訪米へ ~11月の首脳会談に向け調整
アメリカ政府は10月23日、中国の王毅外相が26~28日にかけて首都ワシントンを訪問し、ブリンケン国務長官と会談することを発表した。11月中旬の米中首脳会談への地ならしで、途絶えている両軍の対話再開も話し合う。
李尚福国防大臣を解任
飯田)一方、軍トップである李尚福国防大臣の解任が決定したと報道されています。
中川)李尚福氏に関しては、以前から動静が不明だと言われていました。これまで、汚職によってロケット軍の何名かが解任されていますが、一連の流れで李尚福氏の動静も途絶えており、いつ解任になるかというところでした。秦剛外交部長も動静が途絶えたあとに解任されています。日本に例えると、外務大臣と防衛大臣が両方いない状態であり、異常なことです。
飯田)そうですよね。
中川)しかし、彼らのピラミッドからすると、最上ランクではありません。党が上で国家の方が下だと考えると、第2ランクです。レイヤーが違うので、日本で言う事務次官というところでしょうか。いずれにしても、外から見ると異常な状況ですよね。
王毅氏が政治局員と外相を兼ね、外交リソースが低くなっている中国
飯田)その体制のまま、王毅さんは政治局員兼外相を務めています。
中川)大変ですよね。部長と部長代理を兼任しているようなものです。ニュースをよく見ていくと、これまでは王毅さんはこれに出て、秦剛さんはこれに出て、という感じでした。
飯田)役割分担をしていた。
中川)しかし、いまは全部王毅さんが担当しているので、王毅さんの体が心配ですよね。やはり外交リソースが欠けてしまいます。イスラエルなど中東の問題も出てきて、中国としても外交に向けて動かないといけないときに、外交リソースが低い。リソース分配が大変だろうと思います。
飯田)限られたリソースを割くとなると、やはり「対アメリカ」になるわけですか?
中川)そうですね。対米はいちばん大きい彼らの戦略的な課題です。
中国が国連常任理事国のどことも国交を結んでいないブータンに近寄る思惑は
中川)日本ではあまり報道されていませんが、10月23日に王毅さんがブータンのタンディ・ドルジ外務大臣と会見しています。また、24日には韓正国家副主席もドルジさんと会っています。
飯田)ブータンですか。
中川)ブータンという国は、日本と国交があります。
飯田)ワンチュク国王が奥さんと一緒に訪日しています。
中川)「幸せの王国」と言われて話題になったこともありました。
飯田)国内総生産などではなく、幸福度を測ったランキングですね。
中川)ブータンは国連安保理の常任理事国のどことも国交を結んでいない、かなりレアな国なのです。当然、中国とも結んでいません。中国は「すべてインドが阻害している」と言っていますが。
南アジアの「ジャイアン」であるインドと中国の関係
飯田)ブータンはインドと隣り合っていて、影響力はかなりあると聞きますが。
中川)あの辺りはASEANの国々を含め、インドの横暴による影響を受けているのです。中国の横暴は我々も知っていますが、インドの横暴はあまり知られていません。しかしASEAN周辺の国々は、インドのジャイアニズムにさらされているのです。
飯田)インドもある意味、南アジアのジャイアンなのですか?
中川)決して好かれてはいません。パキスタンは独立したわけですし。謎の自信を持ったジャイアンです。
今後の超大国になりかねない中国とインドに関する情勢は重要 ~そんななか、中国に近寄るブータン
中川)中国はブータン、つまり国交のない国の外務大臣と会ったわけです。我々はそういった情勢、「印中関係」を見ていく必要があります。アメリカは超大国ですが、今後の超大国になりかねない中国・インドに関する情勢は極めて重要です。
飯田)中国とインドに関する情勢。
中川)ウクライナや中東情勢も我々の直近の課題ではありますが、今後の潜在的な超大国であるインドを含め、印中関係の動きは見ていかなければならない。そんななか、ブータンが中国に近付いたのです。
飯田)ブータンが。
中川)習近平氏は「グローバル発展イニシアチブ」「グローバル安全イニシアチブ」「グローバル文明イニシアチブ」の3つを、2021~23年に連続的に発表しています。私は「赤い三連星」と呼んでいます。
飯田)赤い三連星。黒ではなく。
中川)会見でも「この赤い三連星を大きく支持する」というようなことを、ブータンの方が言っているのです。
飯田)かなりすり寄っている感じですね。
中川)「これは入り込んだな」という気がします。仮に国交関係の樹立まで進めば、なかなかエポックメイキングなことになります。
今後、見なければならないのは「米・中・印」3ヵ国の動き
中川)王毅さんなどの動きを見ていると、アメリカとの関係を非常に注視してしまいますが、我々が今後見なければいけないのは米・中・印の3ヵ国の動きです。
飯田)アメリカと中国とインドの。
中川)さらに言えば、ASEAN周辺の小国や地域の国の動きを見ていくと、公開情報分析が何となく見えてくるところがあります。
飯田)「対米が最重視なのだろう」と我々は思うけれど、そうではなく、いわゆるグローバルサウスと呼ばれるような国々に対して、細かく手を打っているのが中国なのですね。
中川)「どちらに寄ってきているのか」は、それぞれの国が何を支持したのか、どういう関係を結んだのかなどを見ないとわかりません。戦略的な見方として、アンテナを広げていく必要があります。
ASEANのなかで核となっていくインドネシア
飯田)確かに「一帯一路サミット」なども中露の話ばかりが取り上げられますが、プーチンさんと習近平さんのうしろには、インドネシアのジョコ大統領がいました。「インドネシアはこちらにもいるのか」ということですよね。
中川)インドネシアはまさに地域大国です。今後、ASEANのなかで核になっていくような国ですし、中国との関係は注視しなければいけません。インドネシアはいろいろな形で1対1の競争入札などをしています。「日本勢と中国勢のどちらが勝つのか」とよく話題になります。
飯田)高速鉄道など。
アメリカ・中国・インドの三元対立
中川)その辺りでどう動いているのかを気にしなければいけません。我々は文脈で言うと「アメリカ陣営か中国陣営か」で見ますが、ブータンの例などはわかりやすくて、そこにインドの例も入ってくるわけです。
飯田)米中に加えて。
中川)「善か悪か」という二元対立ではなく、三元対立になり、さらに複雑になるので、きちんと見なければならない。「一帯一路」も不参加国を見ると面白いですね。インドや日本は入っておらず、イスラエルも、そしてブータンも入っていないのです。ブータンは外交関係がないですから。
飯田)入るに入れない。
中川)入れるのですけれどね。面白いところでは北朝鮮も入っていません。
飯田)北朝鮮は一帯一路に入っていないのですか?
中川)中国とは同盟国ですが、一帯一路には入っていないのです。中国側は「計画経済だから入っていない」とか、「韓国が入っていて、一応は統一が前提だから入っていない」など、いろいろ言いますが、よくわからないですよね。
飯田)そうですね。
中川)中国は、公式には「一帯一路に参加しているのは152ヵ国」と言っていますけれど、実際には一帯一路に入っていない国を見た方がわかりやすいです。アジアではインド、ブータン、イスラエル、日本、ヨルダン、北朝鮮が入っていません。南米はブラジルが入っていないのです。
飯田)ブラジルは入っていないのですね。
中川)BRICSで言うと、インドとブラジルが入っていません。その辺りは経済的に対立していることがわかります。
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