iPS細胞研究所名誉所長・山中伸弥 なぜ、ホモサピエンスが唯一の人類になったのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月27日 11時20分
本庶教授、山中教授が講演 「先端医学が拓く未来」をテーマにパネルディスカッションを行う京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授 =8日午後、京都市左京区のロームシアター京都
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(10月20日放送)にiPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥が出演。iPS細胞の研究について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。10月16日(月)~10月20日(金)のゲストはiPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥。5日目は、「京都大学iPS細胞研究財団」をつくった経緯について—
黒木)私の愛読書に、『ケーブ・ベアの一族』という小説があります。お話は、3万5000年前にエイラというクロマニヨン人の少女がネアンデルタール人の一族に拾われるところから始まるのですが、先ほど雑談しているときに、もしかすると、ネアンデルタール人の遺伝子が現代人に入っているかも知れないと。
山中)そうですね。間違いなく入っていると思います。
黒木)ということは、このクロマニヨン人は……。
山中)昔、交流はあったと思います。遺伝子はよく似ているのですが、微妙な違いがあります。ネアンデルタール人から受け継いでいる遺伝子の、ちょっとした差で、病気のなりやすさが変わってきます。
黒木)遺伝子の差で。
山中)例えばコロナウイルスが「重症になるか、重症にならないか」というところにまで影響しているのではないかという研究が、この1~2年で出てきて、さらに注目を浴びるようになっています。ネアンデルタール人は私たちより体格がよかったのです。
黒木)毛がたくさんあって。
山中)脳も大きかったのです。でも、生き残ったのは、ネアンデルタール人ではなく私たちでした。なぜそうなったのかについては、いろいろな論争がありますが、大きさだけではなく、「脳の機能に差があるのではないか」と言われています。もうネアンデルタール人の脳は手に入らないのですが、人間の脳細胞はiPS細胞からつくれるので、ネアンデルタール人の遺伝子は解読されているのです。
黒木)そうなのですね。
山中)去年(2022年)、ノーベル賞を受賞されたペーボ先生たちのお仕事ですが、脳に関わる遺伝子で私たち人間と違うところがわかってきたのです。個人的には、この「なぜネアンデルタール人ではなく、私たちホモサピエンスが唯一の人類になったか」というような研究の方が好きです。
黒木)私は研究者ではありませんが、山中先生のお話を伺って、「ああ、あの小説だ」と思ってお持ちしました。
山中)私も拝読します。
黒木)研究には、長い年月と莫大な資金が必要です。そのために山中さんは「京都大学iPS細胞研究財団」をつくられました。
山中)10~20年研究を続け、企業にバトンタッチするのですが、資金が続かず、バトンタッチに失敗することが日本は多いのです。
黒木)だから海外に行ってしまう。
山中)海外のベンチャー企業は、投資額や投資に関わるような人材が、日本と比べて1桁どころか2桁ぐらい違います。結局、海外で成功して、海外の大手企業が薬にし、そのあと日本に逆輸入されるのです。そのときには、1人当たりの治療費が数千万円、場合によっては数億円という高額になるのです。
黒木)もったいないですね。
山中)iPS細胞は日本でできた技術ですから、日本企業にバトンタッチして、それによって企業も最終価格をできるだけ良心的なところに抑えてもらう。これまで、特に大学では国からの研究費に頼ってやってきたのですが、それだけでは不十分なところもあります。
黒木)国からの研究費だけでは。
山中)寄付という形で国民の方々から応援していただき、国の支援と寄付の両方で支えていただけると助かります。国のお金だけではできないこともたくさんあります。例えば、国のお金で研究を支援していただいている人たちを、10~20年雇用することは難しいのです。でも寄付であればできます。ぜひ、そういう形でまた応援していただけたらありがたいと思っています。
山中伸弥(やまなか・しんや)/iPS細胞研究所名誉所長
■1962年、大阪府東大阪市出身。
■1987年に神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て、1993年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了(大阪市立大学博士(医学))。
■その後、米国グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。
■2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功し、新しい研究領域を拓く。
■2010年、京都大学iPS細胞研究所・所長に就任。
■2010年に文化功労者として顕彰されたことに続き、2012年には文化勲章を受章。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
■現在は京都大学iPS細胞研究所・名誉所長・教授を務め、研究室を主宰し若い研究者たちと研究に取り組んでいる。また、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の理事長も務めている。
■アメリカ・グラッドストーン研究所でも研究室を持ち、毎月1回は渡米し、研究活動を行っている。
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