中国経済が低成長化傾向にある「これだけの要因」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月30日 17時30分
元日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士が10月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。10月27日に死去した中国・李克強前首相について解説した。
中国・李克強前首相が死去 ~中国の経済成長を主導してきた
中国の李克強前首相が10月27日未明、心臓発作のため亡くなったと国営メディアが伝えた。68歳だった。李克強氏は習近平指導部で2013年から首相を2期10年務め、2023年3月に退いたばかりだった。
飯田)特に習近平政権の1期目は、経済政策全般を担ってきました。
片岡)1つの歴史の終わりかなという気もします。李克強さんが首相になられたタイミングは非常に難しい局面でしたが、いろいろな形で中国の経済成長を主導してきた人物だと思います。経済に親和的なスタンスで「経済に優しいことをやっていこう」という流れだったと思います。
飯田)経済に優しいことをやる。
片岡)ただ、足元の中国経済自体は住宅バブルが崩壊してきています。そのなかで内需が停滞し、製造業主体の生産を増やして経済を回していこうという流れが徐々に変わってきている。そういった意味でも、節目を感じるニュースかなと思います。
飯田)ご出身の安徽省などには献花に訪れる人が相当な数にのぼっており、生家などは花で埋め尽くされているような状況だと言われています。ただ、それもあまり中国国内では報じられていないようです。指導部が干渉しているのではないかという報道もあります。
片岡)なるほど。
2023年目標の「5%成長」は達成するも、中長期的には低成長化傾向の中国経済 ~問題は内需の弱さ
飯田)中国の足元の経済が厳しいとも言われていますが、一方で李克強さんや胡錦濤さんの体制の宿題を片付けているのだ、という指摘もあります。不動産バブルなどがそうですが、これは深刻ですか?
片岡)足元の国内総生産(GDP)統計を見ると4.9%成長で、今年(2023年)の目標としている「5%成長は達成できそうかな」という状況です。そういう意味で言うと、それほど悪くないと思います。
飯田)目標は達成できる。
片岡)ただ、中長期的に見ていくと、中国経済は着実に低成長化していて、いろいろな問題点が出てきていると思います。その問題点の最たるものが内需の弱さでしょう。
17~24歳くらいの若年層は4割以上の失業率 ~内需の低迷を予感させる材料
片岡)これまで中国経済は「爆買い」に象徴されるように、ブラックホールのように世界各国の需要を吸い込む感じで、「世界の一大消費地」という位置付けでした。日本企業も現地で経済活動するのが有利だということで、中国に進出していました。しかし、設備投資ないしは対外投資などの動きについても、中国から撤退する企業が増えており、ある意味で中国が孤立してきている状況です。
飯田)撤退するところが多くなって。
片岡)中国国内を見ても、「先行きの所得が上昇する」と見ている人たちが傾向的に減っており、日本的な「所得があまり増えない」という見方が大勢になりつつある。
飯田)将来的な成長が望めなくなっている。
片岡)特に若年層の失業率を見ると20%台です。職に就きたくない、または就くのを諦めてしまった人を含めると、17~24歳くらいの若年層は4割以上の失業率になっている。こういった部分は内需の低迷を予感させる材料ですよね。停滞が長引くのではないでしょうか。
お金を借りてまで消費するという形ではなくなってきている
片岡)さらに言えば、住宅バブルの影響もあって、住宅市場は軟調です。それに加えて、従来だと株式や債券などいろいろな形の投資で資産運用し、そのお金を使って消費するという流れでしたが、その流れが変わってきている。
飯田)消費する流れが。
片岡)現状、普通預金にお金を預けたままの人が増えていることもあり、債務の拡大が逆流してきています。だから、お金を借りてまで消費するという形ではなくなってきている。このようなところが足元の物価の弱さなどにも結びついていると思います。毎期ごとのGDPの拡大・減少については、危険水域へ入らずに踏み留まって、とりあえず計画通りなのだけれど、中長期的に見たときの需要の弱さという課題は長く続くのではないかと思います。
日本の失われた30年間と似ている最近の中国経済
飯田)企業も設備投資を行わないマインドになっており、家計もお金を借りてまで消費しないマインドになってきている。そうすると資源の需要があるところがないから、政府が支出しないと経済が回っていかない……日本のこの30年間と似ているなと思うのですが。
片岡)そうですね。ですから、毎期ごとの状況に一喜一憂するのではなく、そうした経緯を経験している我々の目線から見て、もう少し長い目で中国経済を見ていく必要があるのかなと思います。
減税策や消費振興策を打っても思ったほど効果が出てこない
飯田)中国政府も手をこまねいているわけではなく、1兆元(約20兆円)の国債の追加発行を承認しました。
片岡)とは言え、リーマンショックのときのような大規模な経済対策に比べると、対策そのものの効きが弱くなっているのは事実です。減税策や消費振興策を打っても思ったほど効果が出てこない。
飯田)対策が効かない。
片岡)中国が一定程度の成長を進めたため、中高所得国になりつつあるのも1つの要因だと思います。こうしたやり方がどこまで持続可能なのかも、いま問われているのでしょう。そういう意味でも李克強さんの時代から新しい時代に変わりつつあるのだと思います。
少子高齢化が急速に進み、「所得拡大・内需拡大」という好循環が起こりにくくなる可能性も
飯田)国民平均の所得が「年間1万ドル」を超えてくるかこないかのタイミングで経済が停滞することを「中所得国の罠」と言いますが、中国はそこを脱しているのですか?
片岡)まだ少し遠いでしょうか。
飯田)脱皮するためには内需を拡大し、経済が回る構造にしなければならない。
片岡)そうですね。ただ、中国の先行きについては、私はあまりポジティブに考えていません。理由としては、中長期的な潜在成長率が拡大するというより、むしろ縮小する方向が強そうなのです。よく言われるように、少子高齢化が日本以上のペースで急速に進んでいます。世界各国の高齢化における1つの特徴は、60~70代の比重が増えるだけではなく、90歳以上の人が増える傾向にあるのです。
飯田)90歳以上の人が増える。
片岡)60~70歳の方と比べると、90歳以上の方は健康寿命を考えても、大多数の方が寝たきりでおられる可能性が高い。医療費などの面でも負担が高まることが容易に予想できます。
飯田)そうですね。
片岡)それに対して「中所得国の罠」となると、そういったものに対するお金、ないしは制度的な対応が追いつかない可能性があります。この辺りは社会の不安定さなどを生み出しますし、何よりも高齢者の方が増えれば、労働力から見て生産性の拡大は見込めなくなり、所得拡大・内需拡大という形の好循環が起こりにくくなる可能性があります。
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