岸田政権の問題は「全体のプランがない」こと 元日銀審議委員が指摘
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月30日 17時35分
元日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士が10月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。税収還元策の制度設計を指示した岸田総理について解説した。
岸田総理が減税と給付を合わせた税収還元策の制度設計を指示
岸田総理大臣は10月26日の政府与党政策懇談会で、所得税と住民税を合わせた4万円の定額減税や、非課税世帯に7万円を給付する案について制度設計を検討するよう与党に指示した。政府は11月2日に経済対策を決定した上で、給付は補正予算の成立後、減税は法改正を経て2024年6月に実施したい考え。
国民の声を聞きながら政策を決める岸田政権
飯田)メディア各社の討論番組などで与党幹部がいろいろ発言しています。「減税は1回だけではなく、まだ決まっていない」など、いろいろ出てきていますね。
片岡)岸田政権の特徴だと思うのですが、支持率を見て運営している感じがありますね。
飯田)そうですね。
片岡)岸田さんとしては「成長の果実を減税という形でこれだけ分配するのだから、支持率が上がるのではないか」と思っていたけれど、あまり上がってこない。むしろ「本当は増税なのではないか」というような話もあり、国民の支持を得られていません。そのなかで「1回だけではなく、先々の面も残すような形の減税を考えた方がいいのではないか」という案が出てくるということは、まさに国民の声を聞きながら決めているところがあるのかなと思います。
支持率低下の理由
飯田)日本経済新聞が、内閣支持率と世論調査の話を出しています。
—–
『内閣支持33%、発足後最低 所得減税「適切でない」65% 日経世論調査』
~『日本経済新聞』2023年10月29日配信記事 より
—–
片岡)メディアによっても受け止め方が違うと思います。「インフレだから増税すべきだ」と考える方にとっても、「岸田政権は生ぬるい」ということでしょう。逆に、確かにインフレ率は上がっているけれど、所得はそんなに増えていないし、暮らしが改善したとは言えない……私はこの判断が正しいと思うのですが、そういう目線から見ても、減税は言われるほど十分ではないため、両方から「何だ、これは?」と思われるところがあると思います。そういったところが支持率の低下につながっているのではないでしょうか。
「全体のプランがない」ことが問題 ~税収増を防衛費増税や国民にどのような形で還元するかの議論がない
飯田)一方で防衛費についてですが、かつては増税を打ち出しただけに「減税して欲しい、楽にして欲しい」という人たちから見ても、「この財源でまた増税と言うのか」と疑心暗鬼になっている感じがありますね。
片岡)「全体のプランがない」というのが1つの大きな問題だと思います。今回のように想定以上の増収があった場合、増えた部分を防衛増税などに対して、時限的にどこまで還元するのか。
飯田)防衛増税に対して。
片岡)その上で、さらに余った部分をどういう形で国民に還元するのか、という議論がすっぽり抜けたなかで、「とにかく所得税を減税しよう」とか「防衛費の増税はどうなったのか」という議論が先行しており、全体像がよくわからないところがあります。11月2日に経済対策が出る予定なので、「全体感を含めてどんな格好になるのか」が個人的には注目点だと思います。
所得税の定額減税、非課税世帯への給付が経済にどう影響するか
飯田)確かに税金をいじることになると国民生活にも直結するし、「全体的な哲学のようなものを示さなければいけない」と識者の方が指摘していました。11月2日にそれが出るかどうかですか?
片岡)あとは給付と減税に関して、所得税の定額減税は法改正も必要ですし、2024年6月辺りと対応が少し遅れます。他方、非課税世帯に対する給付は比較的早く出てくる可能性があるので……。
飯田)補正予算成立後という話ですね。
片岡)その辺りがどういう形で経済に影響するのか。
消費税を一時的に減税するべき
飯田)足元の経済で言うと、「需給ギャップはほぼなくなったのではないか」と言われていますが、庶民生活としては、物価が上がっているから可処分所得が厳しい。片岡さんならどういう処方箋を出しますか?
片岡)単純に消費税を減税します。足元の物価高で特に影響が大きいのは、食料品や生活周りに近いところですから、それを端的に値下げします。それなら物価高も抑制できるし、国民の皆さんも値段が安くなって嬉しいという話になると思うので、消費税を一時的に減税するのが1つの方法だと思います。
飯田)それによって、特に個人消費などが刺激されればよい。
片岡)あと、これは一時的な対策だと思うのですが、例えば所得税についても一応、現状は定額的にいろいろな控除があります。これはデフレ状態に対応しているもので、インフレになると生活費もかさんでくるわけですから、「基礎控除をもう少し減らしてもいいのではないか」という指摘も当然あると思います。
高所得者の税金負担を多くする ~保険料も高所得者層ほど厚く負担するような仕組みに変える
片岡)また、所得に対して階段状の税率、ブラケットのようなところを、あまり価格が動かない・所得が増えない状況のときに設定されたブラケットから、インフレ対応型に変えていく必要があると思います。おそらく中・高所得者層の方にとっては増税になりやすいと思うのですが、他方で所得も増えていますから、その分、高所得者を中心に税金をより多く負担する。こういう状況にしていく必要があると思います。
飯田)高所得者を中心に。
片岡)社会保障に関しても保険料の負担は、特に高所得者層ほどより厚く負担するような仕組みに変えていく必要があると、個人的には思います。
「増税」と言うのであれば、高所得者を中心に行うべき
飯田)デフレの30年で消費税は典型ですが、累進課税的な要素が抜け落ちていった部分があるのですか?
片岡)年収が一定以上ある高い方たちの税負担割合が、極端に低くなっています。「インセンティブを上げて経済活動してもらいたい」という意図で減税していたのですが、状況が変わってきている部分があるわけです。ですから「増税」と言うのであれば、高所得者を中心に手をつけるべきです。所得が増えていく状況が持続するような環境をつくる上で、行うべきだと思います。
1~2年限りの消費税減税では国民の消費拡大にはつながらない
飯田)個人消費への刺激ですが、アメリカを見ていると、消費税を一旦下げると当分は物価が下がるかも知れないけれど、その先の部分で「グッ」と過熱して「物価も上がるのではないか」と指摘する人もいます。いかがですか?
片岡)やってみないとわからないところではありますが、日本とアメリカの最大の違いは、日本の場合、いまの物価上昇率でも、なかなか価格が上がらないようなサービスがまだあるのです。
飯田)「実質値上げ」のようなものが多いですよね。
片岡)その辺りは10~20年のデフレにおいて、負の遺産がまだまだ根強く残っている状態だと思います。こうした状況では、多少の消費税減税をしたところで、1~2年限りではそれほど過熱しないような気がします。
飯田)1~2年では。
片岡)よく「岩石理論」という話で、金融緩和や財政出動をやり過ぎてしまうとハイパーインフレになると言うけれど、ちょうどいいところで止めればいいではないですか。「先行きの物価が上がりそうだ」と心配するがあまり、足元の状況に対してしっかりとした対策を取らなかったのがこれまでの日本です。そういう状況をいまこそ是正する必要があるのではないでしょうか。
30年ぶりに改善方向にある日本経済だが、消費が進まない ~減税などを含めた可処分所得の拡大が必要
片岡)日本経済はいま、30年ぶりに改善の方向感が見えてきています。株式市場もそうですし、雇用や設備投資、生産も改善してきている。唯一うまくいっていないのが消費ですが、消費を支えるのは所得です。所得と価格と消費拡大が両立するような恰好で回すというのが、いまの日本経済の課題であり、所得改善において政府ができることは当然、減税などを含めた可処分所得の拡大です。日銀も国内経済における好循環の動きを邪魔しないよう、金融政策をしっかりやっていただきたいと思います。
飯田)ゆめゆめ早めの引き締めで「どこかで見たことがあるな」という展開にならないで欲しい。
片岡)そうですね。
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