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ガザ「休戦」国連総会決議 日本「棄権」の背景 国際政治学者が解説 

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月31日 11時55分

ガザ「休戦」国連総会決議 日本「棄権」の背景 国際政治学者が解説 

国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が10月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本が棄権したガザの「人道的休戦」を要求する国連決議案について解説した。

2023年9月19日、国連総会議場で一般討論演説を行う岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202309/19usa.html)

2023年9月19日、国連総会議場で一般討論演説を行う岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202309/19usa.html)

岸田総理、国連決議案の棄権について「内容面でのバランス欠如のため」と説明

イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に関する緊急特別会合を開き、国連総会では「人道的休戦」を要求する決議案を121ヵ国の賛成で採択した。この決議に関して、イスラエルやアメリカなど14ヵ国が反対、日本やイギリスなど44ヵ国は棄権した。日本の棄権について、岸田総理は10月30日の衆院予算委員会で「ハマスのテロ攻撃への強い非難がないなど、全体として内容面でバランスを欠いている」と説明した。

国連・グテーレス事務総長のバランスを欠いている動きが岸田総理の言葉に含まれている

飯田)この決議案はヨルダンが出したものですが、イスラエルもハマスも批判せず、「人道面を強調」ということが報じられました。日本は乗らなかったのですね。

神保)物事の順序の問題だと思います。その順序をどう定めるかについてですが、最近、国連のグテーレス事務総長によるバランスを欠く動きがあります。おそらく、それが岸田総理の言葉に含まれているのではないかと思います。

飯田)グテーレス事務総長の動きが。

神保)今回の事態の前提は、ハマスによるイスラエルへの軍事攻撃です。イスラエルでは市民を含む約1400人が亡くなっています。これに対し、イスラエルには「自国を守る権利がある」というところが起点になります。

「イスラエルの行っていることは、既に悪いことなのだ」という価値観を含めた決議案に乗れないアメリカ

神保)そこからイスラエルの軍事作戦が始まるのですが、当然、「民間人を保護し、人道的に配慮すべきだ」という話になります。しかし、そこだけを取り上げて「イスラエルの行っていることは既に悪いことなのだ」という価値観を含めた決議案に対し、当然アメリカは乗れない。そして、アメリカが厳しく反対しているものに、同盟国である国々もそう簡単には乗れないのだと思います。

飯田)なるほど。

神保)事務総長は最近、「ハマスによる攻撃は理由もなく起きたわけではない」とか、「パレスチナの人々は長年暴力に苦しめられてきた」などと発言しています。確かに、それはその通りです。「イスラエルがすべて正しい」などと言うつもりはありませんが、それでハマスの大規模なテロ行為を正当化することは当然できません。「国連の事務総長は一体何なのだ」と、イスラエルはいま、完全に信頼を失った状態にあります。この紛争に中立者として国連が関与することは難しくなっている状況だと思います。

議論が分かれる欧米 ~自衛権とヒューマニズムの根本的な矛盾

飯田)アジアの方ではそうでもないかも知れませんが、ヨーロッパやアメリカの言論を見ていると、「どちらにつくのだ?」と踏み絵を踏まされるような状態です。

神保)アメリカ、ヨーロッパ、イスラエルを含む方々と議論したり、メーリングリストでやり取りしていますが、アメリカやヨーロッパでは、かつてないほど人々の価値観が揺さぶられているような感覚があります。

飯田)アメリカやヨーロッパでは。

神保)それは「自衛権とヒューマニズムの根本的な矛盾」だと思います。イスラエルを支持する人たちにとっては、あれだけの酷い事件が起きたのだから、自衛しなくてはいけない。それに対して「やってはいけません」と言う人を「人間として信用できない」というところもある。

飯田)人間として信用できない。

神保)逆に、アメリカのなかでもZ世代からすると、そもそも構造的な暴力が生じていたところに対する異議申し立ての延長に、あの声があるのだとすると、自分たちがやっていたことの反省なくして、軍事行動を正当化するのは何事かという意識がある。この世界観の根本的矛盾が、意外と9.11のアメリカの価値観よりも、はるかに先鋭に出てきている感じです。

イスラエルを支持する人とパレスチナを支持する人の間で価値観の根本的矛盾が出ている

神保)この件でハーバードなどでは「旗幟を鮮明にしていない」として、イスラエル寄りの方が大学への寄付をやめる状況が起きています。

飯田)旗幟を鮮明にしないことが「許せない」という感じなのですか?

神保)ウクライナ情勢に関しては、「ウクライナを支持する」と明確な形で「侵略反対」が出ましたが、今回はそう簡単に判断できないと考えている人が多いわけです。学内では、いろいろな学生を中心にパレスチナ支持のデモが起きている。でも、イスラエル寄りの方々からすると「なぜ、そんな状態を放置しているのだ」となり、価値観の根本的矛盾が出ているのを感じます。

人間の尊厳を揺るがしたのはハマスの攻撃 ~対ハマス攻撃は重要である

飯田)日本はG7議長国でもあります。かなり及び腰な面があるように見えますが、アプローチは難しいのでしょうか?

神保)「自衛する権利を守る」という点においては、日本の防衛と明確に一致しています。例えば中国から侵略的な攻撃を受けた場合、「自衛する権利がない」とか「ヒューマニズムが大事」と言っていては、国防は成り立ちません。この原則はルールに基づいて守られるべきです。

飯田)国防において。

神保)ところが、日本が「完全にイスラエル寄りか」と言うと、そうではありません。これまでもパレスチナ、特にガザや西岸地域に対する人道的な支援をかなり丁寧にやってきた経緯があります。ですから、自衛の権利と人道的配慮に関し、日本は順番に取り組んでいく姿勢を見せることが大事だと思います。

飯田)総理が国連の演説で使った「人間の尊厳」という言葉は、かなり包摂的な概念かも知れませんが、その辺りが理解されればいいですけれど。

神保)まず、人間の尊厳を揺るがしたのはハマスの攻撃だということです。ですから、「対ハマス攻撃は重要だ」と考えることがポイントだと思います。

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