日本の「防衛産業」を強化するために必要なこと
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月31日 18時15分
国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が10月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本の防衛産業政策の方向性について解説した。
日本の防衛産業政策のあるべき方向性
地経学研究所・国際安全保障秩序グループの研究レポート『各国防衛産業の比較研究:自律性、選択、そして持続可能性』(要約版)が公開された。2022年12月に発表された戦略3文書を受けて防衛力の抜本的強化が進められる一方で、日本の防衛産業に対する危機感に言及している。
飯田)地経学研究所では昨日(10月30日)、年次イベントが行われました。神保さんも関わっておられますね。
神保)私は常務理事を務めています。地経学研究所は、公益財団法人国際文化会館のなかにある研究組織で、鈴木一人所長のもとで進められています。いろいろな研究グループがあって、そのなかに国際安全保障秩序グループというチームがあります。このたび、そこが140ページにわたる非常にシリアスな研究レポートを報告しました。それが『各国防衛産業の比較研究:自律性、選択、そして持続可能性』の要約版です。
日本の防衛産業をどのように強化するか
神保)問題意識としては、昨年(2022年)の戦略3文書で、防衛産業の強化は日本の防衛力そのものであり、産業力を強化する方向性が示されていたのですが、「どのように強化するのか」という議論が十分に行われていません。貿易産業を強化するためには、まず各国を比較する必要があります。特にアメリカは特別な存在ですが、例えばイギリスやオーストラリア、イスラエル。そして隣の韓国。韓国は最近、絶好調です。
飯田)戦車などを……。
神保)ヨーロッパに輸出しています。それらを比較研究しながら、自らの防衛産業の位置付けを明らかにして、今後の方向性を探るレポートになっています。
飯田)防衛力は「基盤」と言われますが、防衛産業の人たちは採算の合わない、そして日本の自衛隊のためだけにオーダーメイドのような形でつくっていた状況があり、心意気で進めていたような部分も報じられています。しかし「いい加減、会社内でも説明がつかなくなってきている」という話はよく聞きますね。
がんじがらめの防衛産業
神保)防衛産業は特殊な産業です。これまでは「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」、いわゆる「別表」と呼ばれる調達目標に向かって生産し、納入するという仕組みでした。計画経済的な形でラインを組んで生産している。利益率も低いなか、「お国のためにやっている」という状況でした。ところが部品メーカーを含めて何千社という会社があり、「利益率の低い貢献だ」と言うわけにはいかず、最近は主要企業が次々と撤退しています。そうなると、そもそも産業基盤がものすごく脆弱になるという問題意識があったわけです。1つは、これをどうにかしなければいけない。
飯田)産業基盤が脆弱になっている。
神保)2つ目に、どのぐらい海外に依存し、どのぐらい国産化するかという問題があります。海外に依存すれば最先端のものが早く入ってくるけれど、特定の国に依存する体質になり、コントロールを受けてしまうことになる。対して、国産化すれば自律性は高まるけれど、大きなコストがかかります。特に海外輸出が苦手な日本産業にとっては、まさに市場が限られているなか、単位当たりのコストが高いものをつくり続けるのかという問題があり、がんじがらめになってしまったわけです。
飯田)なるほど。
神保)特に戦略3文書のもとでは、装備庁も頑張ってお金をつける。場合によっては工場を国産化したり、利益率を確保するために補助金を出すなど、防衛産業がモチベーションを保てるような仕組みをつくろうとしています。しかし、よく考えると国産化や補助金は、イノベーションを起こすような仕組みではないですよね。そのまま依存してしまうわけです。
防衛産業のなかで「競争的な環境」をつくる
神保)だとしたら、今後はしっかりと新しい軍民両用(デュアルユース)技術のようなものを、民間企業のスタートアップとともに……例えば完成品ではなく、センサーや分析技術、誘導技術、AIなどの電子技術などを柔軟に取り入れていく。新しい経済システム・エコシステムのようなものを防衛産業のなかで取り組み、「競争的な環境をつくらなければダメなのではないか」と言われています。
飯田)競争的な環境。
神保)海外市場を選ぶときも、これまではアメリカの比率が高かったわけですが、次期戦闘機に関してはイギリス・イタリアとの共同開発を発表しています。また、要素技術に関してはイスラエルなど、こういったところを含めて柔軟に選択できる体制をつくることが、今回の提言の特徴だと思います。
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