大統領選前に「米中危機管理」を形にしたいアメリカ ~中国「香山フォーラム」米国防総省・担当幹部が参加
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月31日 18時20分
国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が10月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・北京で開催された「香山フォーラム」について解説した。
「香山フォーラム」中国の国防相不在で中国軍の制服組トップが講演
中国・北京で開かれた安全保障会議「香山フォーラム」で10月30日、中国軍の最高指導機関である中央軍事委員会の制服組トップ・張又俠副主席が基調講演し、「中国から台湾を引き離すことを中国軍は絶対に許さない。決して手加減しない」と述べた。これまでは慣例で国防相が登壇していたが、李尚福前国防相の解任後は空席のため異例の対応となった。
飯田)一緒に解任された外相に関しては、既に後任として王毅さんが務めていますが、国防相は不在のままです。
神保)私は、この香山フォーラムに招待されていたのです。
飯田)本当ですか!?
神保)行くはずだったのですが、私が関わっている地経学研究所の年次フォーラムに出なくてはならず、行けませんでした。過去に3回出席しました。中国の人民解放軍が中心となって組織する「アジア安保会議」という感じで、ロシアやグローバルサウスの国々の国防相も揃い踏みであり、さながら「パラレルワールドの世界観」が展開されています。
人民解放軍関係者が多く出席し、クローズドでの意見交換の場も
神保)特に中国の人民解放軍関係者が多く出席しているなかで、私自身もプレゼンや司会をする場がありました。分科会のようにクローズドな状況での意見交換の場もありますので、重要なフォーラムだと思います。
飯田)そういうところで相手の赤裸々な意思を感じ取ることは大事ですか?
神保)日本人の参加者はごくわずかしかいません。その意味でも貴重な機会だと思っていたのですが、今回は行けませんでした。雰囲気は何となく想像できます。
中央軍事委員会の副主席が中心となり、何事もなかったように開催
飯田)軍内部の人事などが報じられていますが、そのようなことがあっても、人民解放軍の全体としての意志やシナリオに変化はありませんか?
神保)あたかもないように組織されていて、それが「中国共産党と中央軍事委員会こそがガバナンスの中核にある」ということを示すためにも使われています。李尚福国防相の解任は衝撃的なニュースで、内部にも影響があったに違いないと思います。それでも香山フォーラムは予定通り開催され、今回は中央軍事委員会の副主席が中心となってスピーチしています。あたかも「問題ない」というように示しているのだと思います。
アメリカの国防総省・中国担当幹部も参加
飯田)主張などはいままで通りなのでしょうか?
神保)基本的には、「中国の基本路線は揺るがない」という方針を示す場になっていますが、今回も戦争中のロシアのショイグ国防大臣がメインスピーカーの1人として参加しています。そこは「露骨だな」と思いますね。実は今回、アメリカも参加しているのです。
飯田)アメリカも。
神保)国防総省の女性の担当幹部が参加しています。サンフランシスコで行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で米中首脳会談が開催されるかも知れないので、アメリカも敵視せずに参加する姿勢を見せたのだと思います。
中国国防部と米国防総省との間の協議を再開させないといけない
飯田)王毅氏の訪米で話し合われたことのなかに、「国防レベル・軍レベルの対話も行う」という内容がありました。今回、ここで何かしらの対話があるかも知れないのですか?
神保)水面下では、何らかの会話が行われる可能性があると思いますが、正式協議が開催されることはないと思います。ただ、ナンシー・ペロシ元下院議長の台湾訪問の際に、アメリカと中国のさまざまなコミュニケーションチャネルや信頼醸成措置などがあったのですが、いまは事実上、機能停止している状態です。そのため、何か一触即発のことがあったとき、危機管理メカニズムが米中間で確立していないという問題があります。やはり、ここは戻していかないと「緊張の管理ができない」という問題意識は双方にあります。「中国国防部と米国防総省との間の協議を再開させないといけない」という思いは両方にあると思います。
李尚福氏が失脚したことで、国防トップ同士の対話交渉が進む可能性も
飯田)春先に行われたシンガポールでのシャングリラ会合のなかで、当時はまだ李尚福さんがいました。そしてアメリカの国防長官と「会う、会わない」という話があった。結局「アメリカから制裁を受けているので会わない」ということになりましたが、李尚福さんがいなくなったことで、対話できる可能性もあるのですか?
神保)これはテクニカルな話であり「皮肉だな」と思うのですが、アメリカが中国と危機管理の対話をトップ同士で行いたいのはわかるけれど、「そもそもアメリカ自身が中国の国防相に個人制裁を掛けたから、まともな協議ができない」というのが中国の立場で、これはよく理解できるわけです。
飯田)制裁を掛けられているなかでは。
神保)本気で危機管理の対話をしたいのであれば、「まずその条件をつくるべきだ」というのが中国の姿勢で、それが続いてきたわけです。今回、李尚福氏が異例の失脚になり、中国のカウンターパート交渉に出てくる人は個人制裁の対象ではありません。テクニカルに言えば、交渉を進める要因になるかも知れませんが、中国の不信感はそれだけでは払拭されないと思います。
李尚福氏らの失脚の本当の原因はわからない
飯田)中国側としても、「対話を再開させたいから失脚させた」というわけではなさそうですか?
神保)それは関係ないと思います。失脚については憶測でしかありませんが、秦剛外交部長と李尚福国防相、ロケット軍の司令官、場合によっては前国防相の魏鳳和氏も取り調べを受けているところを見ると、組織的な権力に対する何らかの反乱行為を最高指導者が認定した可能性もあります。「自らが大事にしてきた人に裏切られた」という思いが一斉粛清につながっているのかなと想像します。ただ、よくわかりません。
飯田)これに関しては、確たるものが出てくるとは思えないですね。
大統領選挙の前に米中の危機管理を形にしたいアメリカ
神保)最後までわからないと思います。我々としては状況によって、適切な形で戦略的に対応していくしかありません。もしこれで米中の対話が開けるようであれば、アメリカは今年(2023年)中に形にするでしょう。来年は大統領選挙ですから、今年中に危機管理を形にしていくことが大事だと思います。
飯田)APECで米中首脳会談が開かれるという話もありますが、そこで固まるのでしょうか?
神保)米中首脳会談で「何も合意できなかった」となれば、習近平国家主席の面子の問題にもなります。習近平氏は歓迎されたいのです……歓迎はされないのですが。
飯田)形の上では。
神保)「歓迎され、アメリカの大統領とWin‐Winの合意がつくれた」という成果を持ち帰ることができるかどうか。それを王毅氏とサリバン大統領補佐官との間で調整しているのだと思います。
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