台湾半導体大手進出によって回帰する日本各地の「企業城下町」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年11月1日 17時45分
半導体分野に関する準備会社の共同設立についての会見で記念撮影する(左から)PSMCの黄崇仁会長、SBIホールディングスの北尾吉孝社長=5日午後、東京都千代田区(萩原悠久人撮影)
ジャーナリストの佐々木俊尚が11月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。宮城県に工場建設を発表した台湾の半導体大手PSMCについて解説した。
SBIホールディングスと台湾半導体大手、宮城県に工場建設を発表
ネット金融大手のSBIホールディングスと台湾の半導体大手PSMCは10月31日、都内で記者会見を開き、共同で宮城県大衡村に半導体工場を建設すると正式に発表した。1期目の工場は約4200億円をかけ、2027年の稼働を目指す。
佐々木)ファウンドリー、いわゆる半導体の製造だけを担う会社において、PSMCは世界第6位だと言われています。台湾のなかでは第3位です。第1位のTSMCは、熊本の工場がもうすぐ稼働します。その影響で熊本の経済が活況を呈しています。
飯田)すごいらしいですね。
佐々木)アルバイトの時給が3000円というレベルで、お店もホテルもできて人も集まっており、新しい企業城下町のような感じです。歴史を振り返ると、高度経済成長の時代はいろいろな会社が各地方に工場をつくり、そこに人が集まって企業城下町がたくさんできていました。しかし、2000年代になるとグローバリゼーションのなかで、どんどん工場が海外移転してしまった。
TSMC、PSMCという台湾企業によって地方都市の企業城下町が回帰 ~熊本・宮城
飯田)私も神奈川出身なので、日産の城下町という感じでした。座間や横須賀、追浜にも工場がありました。
佐々木)工場が日本国内から移転すると、かつての企業城下町はなくなり、現在の惨憺たる地方都市の状況があるのですが、20年の月日を経て再び国内に、しかもTSMCとPSMCという台湾企業によって回帰してくる。日本経済の浮き沈みを考えると、「もはや海外から工場を受け入れるのか」と寂しい気もしますが、それでもTSMCやPSMCなどの台湾ファウンドリーの力は圧倒的です。それが日本に来てくれるのは、経済安全保障の観点から考えても素晴らしいことだと思います。
半導体ビジネスをプラットフォーム型のビジネスにした台湾のファウンドリー企業
佐々木)ファウンドリーに関して、アメリカ経済史の研究者が書いた『半導体戦争』という翻訳書が刊行されています。20世紀・黎明期の半導体から、いまに至るまでの歴史が書いてあります。コンピューターのスタートとともにアメリカが半導体をつくり始め、日本が途中から真似してつくるようになり、70~80年代は日本の半導体が世界を席巻しました。
飯田)LSIなどの時代ですか?
佐々木)そうですね。すごかったです。ソ連も当時、アメリカに対抗して一生懸命つくろうとしたけれど、半導体をつくる装置が精密すぎて、コピーできるようなものではない。そのなかで台湾のファウンドリーは違うやり方をしたのです。いままではインテルなどのように、半導体の設計も製造も行い、それをチップにするという垂直統合だったわけです。
飯田)一気通貫で進めていた。
佐々木)しかし、製造と設計を分離するしかないと考え、いわゆるプラットフォーム型のビジネスにした。何がよかったのかと言うと、アメリカの小さなスタートアップ企業が「こういう半導体をつくったらいいだろう」と考えて設計する。でも、それをつくるには莫大な金が掛かるので、スタートアップに参入できる余地がなかったのです。
飯田)小さな会社では。
佐々木)そこに台湾のファウンドリーが出てきて、「うちがすべて精密な半導体をつくる装置を担います」と。実際に精密な半導体をつくるための映写機のようなものは、オランダや日本の会社がつくるのですが、そういうものを集めて、巨大な製造装置を台湾のファウンドリーがつくる。その代わり、設計やアイデアはお願いする形で分業したわけです。分業したことによって、半導体をさらに進化させることもできた。
飯田)なるほど。
佐々木)だから、もし台湾侵攻が起きて台湾の半導体ファウンドリーが消滅してしまったら、世界中で半導体がつくれなくなってしまう。台湾侵攻も絡んだ深刻な課題になっています。そこでリスクを分散させるため、TSMCが日本やアメリカに工場をつくっているのです。日本にとってはありがたい、いい話だなと思います。
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