宿泊・飲食「求人上昇」の一方 人材が集まらない「製造・建設・運送」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年11月1日 17時40分
![宿泊・飲食「求人上昇」の一方 人材が集まらない「製造・建設・運送」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_474044_0-small.jpg)
ジャーナリストの佐々木俊尚が11月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。3ヵ月連続で同じ水準となった有効求人倍率について解説した。
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※画像はイメージです
インバウンドが解禁され、飲食・宿泊等の求人が上昇
厚生労働省によると、仕事を求める1人に対して何人の求人があるかを示す有効求人倍率は、9月は1.29倍で、3ヵ月連続で同じ水準となった。「宿泊・飲食サービス業」は前年同月比5.2%増、「学術研究、専門・技術サービス業」は前年同月比2.6%増だった。失業率は0.1ポイント改善し、2.6%だったことが総務省統計局からも発表されている。
飯田)飲食・宿泊等々は人手不足で賃金が上昇したのでしょうか?
佐々木)インバウンドが解禁されて、私は昨日(10月31日)、福井から東京に戻ってきたのですが、東海道新幹線のグリーン車は白人ばかりという感じでした。ひかり号でしたが、富士山を観に行くため、小田原でみんな降りるのです。
飯田)ひかりは「ジャパン・レール・パス」で乗れるから。
佐々木)ひかりの方が外国人が多いという不思議な現象が起きています。インバウンドの需要で、特に高級ホテルが日本に増えています。外国人の富裕層向けに増やしていく方針で、お金も外国人観光客から入ってくる。
飯田)外国人観光客から。
佐々木)それに合わせて、高い賃金で英語を話せるような優秀なスタッフを雇おうという流れです。そういうニーズが増えているので、全体的に求人倍率も上がっているという、いい流れになっています。
ガソリンや原材料の値上げで「賃金の上昇が物価の上昇に追いつかない」製造業・建設業・運送業
佐々木)一方で困っているのは、製造業・運送業です。ガソリンなどの燃料が高い問題や、外国から輸入する原材料も値上がりしている。ですので、値上げは一応しているけれど、原材料やガソリン代の上昇が大きいから、合わせるためには値上げせざるを得ない状況で、それを賃金に回す余裕がない。だから製造業・建設業は有効求人倍率が下がっています。また、「2024年問題」と言われていますが、運送ドライバーさんたちの働き方改革で、働く時間の上限が……。
飯田)残業の上限が決まっている。
賃金が上がらず、ますます製造・建設・運輸のインフラを担う人材が集まりにくくなる
佐々木)そうすると、コストの問題が浮上してきます。値上げはしているけれど、いつまでも賃金が上がらない。そうなると、いま起きている「賃金上昇が物価上昇に追いつかない」という問題が、業種によって明確に分かれてきてしまうのです。
飯田)職種によって。
佐々木)コロナのあとに「K字回復」と言われましたが、右上に向かう線と、右下に向かう線で2つに分かれる形の回復パターンがあります。飲食や観光業などはV字回復していくけれど、製造や建設、あるいは運送・運輸業は下がってしまう可能性が高い。経済そのものが上向かないというよりも、賃金が回復しない方向になり、ますます製造・建設・運輸のインフラを担う人材が集まりにくくなるかも知れません。
東南アジアから見ても円安で日本の賃金が安く、外国人労働者も集めにくくなっている
佐々木)人手は足りないけれど、給料は相変わらず上がらない。だから、ますます人が離れてしまう。国としては「外国人を雇って対応しよう」という感じになっていますが、円安状態が続いてしまうと、実質的に海外から見て日本の賃金が安くなる。東南アジアから見ると、日本の賃金は「高い」と思われていましたが、もはや東南アジアから見ても日本の賃金は安いです。その割に仕事はきついし、日本語で話さないと文句を言われる。そうなると、技能実習生も来てくれなくなります。
飯田)そうですね。
佐々木)人口減で若者の数も減っていくとなると、インフラを担う人材をどうやって雇用するか、対応が難しくなると思います。
利潤を上げた大手企業が下請け、孫請けへの支払いを上げていない
飯田)運送業に関して、2024年問題で取材しましたが、一方で大手はかなり利潤も上がっている。しかし、それが「下請け、孫請けにきちんと支払われていない」というような指摘もありました。
佐々木)大手企業は賃上げしないと優秀な社員が来ないので、賃金を上げるではないですか。それはとてもいいことです。実際、今年(2023年)の春闘でも大企業では賃上げが進み、ユニクロが初任給を30万円にしたことが話題になりました。でも、やりすぎると今度は自分たちの社員の賃金を上げるために、外部に出しているコストを下げることになる。
飯田)むしろ絞ることになってしまう。
佐々木)そうすると、ますます中小下請けと大企業との賃金格差が広がってしまう問題があり、難しいですね。だからと言って「大企業は賃上げするな」と言うのもおかしな話で、いつまでたっても安い給料のままでは、他の国に遅れを取ってしまいます。中小企業や下請けにしわ寄せがいかないよう、全員が賃上げできるのが理想ですが、現実的にこれを齟齬なく行うのは困難な道だと思います。
飯田)企業経営者側も、ない袖は振れないかも知れないし。
佐々木)高度経済成長時代に国民の給料が総じて上がっていったのは、ある意味、工業化の奇跡的な時代だったと思います。工業化が終わり、低成長で一部の業種だけが儲かる時代になってくると、平均的に全員の給料を上げるのは難しいですよね。
抜本的な改革でなければ、いまの状況は変わらない
飯田)今度は可処分所得をどうやって残すか、「現役の負担をどう取り除くか」という税金や社会保障の話になる。
佐々木)後期高齢者の1割負担により、他の健保組合などにしわ寄せがいって、結果的に社会保険料の高騰につながっています。金融資産を捕捉し、高齢者でも金持ちは3割負担にするなど、そのくらい抜本的に対応しないと現状は変えられないのではないでしょうか。
飯田)選挙を前にして、政治家にそれができるかどうか。
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