中国で拘束の日本人「懲役12年」刑が確定 「米中スパイ戦争」のなかでターゲットは米同盟国にも
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年11月14日 17時30分
中国の習近平国家主席(南アフリカのヨハネスブルク)
日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が11月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国でスパイ容疑で拘束され、懲役12年の刑が確定した日本人男性について解説した。
中国で拘束の日本人男性、懲役12年の刑が確定 ~松野官房長官、早期帰国に向け働きかけを強調
中国で「反スパイ法」に違反したとして拘束された日本人男性について、懲役12年の実刑判決が確定した。松野官房長官は11月13日の会見で「司法プロセスの透明性の確保などを働きかけている」と説明した上で、早期帰国に向けた働きかけを続けると強調した。
秋田)日本だけを狙い打ちしているというよりは、米中のスパイ戦争が激しくなってきているのでしょう。そのなかで、7月に中国が「反スパイ法」を改正し、捕まえやすくしているという底流があるのだと思います。
米中冷戦のなかでの「反スパイ法」改正 ~いままで「白」だったものが「グレー」に
飯田)日本人をターゲットにしているというより、もっと大きな構図があるのですね。
秋田)そうです。日本のためだけに反スパイ法を改正し、日本人の拘束を増やしているわけではないと思います。中国はアメリカとのスパイ戦争、もっと言えば米中冷戦のなかで、「中国国内の情報や技術を取られる」というリスクがあります。ハイテク関連の情報もありますが、それだけではなく、取られたくない共産党内の情報など、さまざまな軍の機密があるわけです。
飯田)機密情報を。
秋田)その流出を防ぐために反スパイ法を改正し、「国家の安全に危害を加える」という非常に曖昧な定義で、十把一絡げに誰でも拘束できる権限を国家安全省と公安省に与えたわけです。もちろんアメリカとの対立が底流にあるわけですが、当然、法律をつくったのに、まったく成果が上がらないというわけにはいきません。例えば40キロ制限の道路があり、これまで60キロくらいの車は「いいよ」と言っていたけれど、少し交通規制を厳しくしたとなれば、42~43キロの車も捕まえていくわけです。
飯田)少しでもオーバーしていれば。
秋田)そういったなかで、本来であれば白なのに日本企業の行為がグレーとみなされ、捕まっているような状況ではないでしょうか。
捜査を一段と引き締める米中
飯田)それほど米中によるスパイ摘発が激しくなってきているのでしょうか?
秋田)7月下旬に、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が「(アメリカ側による)中国内での情報収集の体制立て直しが進んでいる」と発言し、一部で衝撃を広げました。2010年ごろ、中国側が中国内でのCIAスパイ網の摘発に成功し、2桁のアメリカ人のCIAスパイが殺されたと言われています。CIA関係者から聞いたことがありますが、内部では有名な悲劇となっているようです。
飯田)協力者たちが……。
秋田)捕まってしまい、おそらく殺されてしまったのだろうと。そこから立て直して、約13年ぶりにバーンズ氏が「再建が進んでいる」と言ったのです。これと同じタイミングで「反スパイ法」が中国で改正されました。
飯田)7月に。
秋田)順番に考えると、中国が7月1日に反スパイ法を強化し、それに対してCIA長官が「我々のスパイ網も再建された」と言っているわけです。また、9月には国家安全省、中国のスパイ機関がSNSに「もしも去年(2022年)のバリに続いて、今年(2023年)のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でもバイデン氏が習近平氏と会談したいなら、態度を改めなければいけない」という趣旨の投稿をしたのです。
飯田)ありましたね。
秋田)これは異例の状況です。CIAも通常、中国にそんなことを言わないですよ。
飯田)「普通は外交の話は外交部だろう」となりますが。
秋田)「お前たち、しっかり対米の引き締めをやれ」と言われていて、勢いに乗って話しているわけです。一方、連邦捜査局(FBI)は着々と捜査を進めていて、「中国のスパイとみられる2000件の案件が捜査上に上がっている」と言われています。
飯田)FBIは国内を取り締まる機関ですよね。
秋田)CIAは海外に出て情報を集める。FBIは日本で言えば警視庁のようなもので、そこが2000件ほどの中国に関する案件があると言っているのです。
中国のターゲットは同盟国にも
秋田)全体を俯瞰してみると、中国はアメリカでも摘発されていますし、アメリカのCIAによるネットワークが復活しつつあるなかで、これからも「どれがグレーでどれが黒か」がわからなければ、グレーでも捕まえていく形になるかも知れません。
飯田)しかもターゲットは、米中の対立だからアメリカ人かと思いきやそうではなく、日本人も……。
秋田)日本やカナダ、オーストラリアなど、同盟国にも及びます。中国から見れば、日本に渡った中国の軍事機密情報は、必ずアメリカにシェアされると判断していると思います。
日本企業の社員からすれば、これまでの通常活動が、気付くとグレーの領域になっていることも
秋田)今回、捕まっている日本人の方々は、米中の大きな枠組み内の犠牲なのか。それとも規制が強化されて、42~43キロくらいで走っていれば大丈夫だったところが、急に取り締まりが厳しくなり……。
飯田)中国国内の法律の運用が変わったということですか?
秋田)私も中国に駐在していたからわかりますが、「今度、産業政策がこのように変わる」という話があれば取材するではないですか。発表前にシンクタンクなどはさまざまな見通しを教えてくれますよね。企業は当然、出てくるであろう通商政策の中身などを情報収集していると思うのです。しかし、それを中国の当局者や友人に聞いただけで、これまでは白だったはずなのに拘束されてしまう。
飯田)正当な企業活動の一環だったものが。
秋田)対米戦略の重要な要素だとみなされると、グレーになってしまうということです。
飯田)「国家機密を知っただろう」と言われてしまうのですね。
秋田)日本社員の方々からすれば、これまでの通常活動が、気付くとグレーの領域になっているような状態です。
飯田)情報を取った相手によるのでしょうか?
秋田)そうです。本当にわからないですね。
現場による得点稼ぎの可能性もある
飯田)結局、中国側の運用でいかようにもできてしまう。
秋田)運用する側も、上から「アメリカも2000件もの案件を調査しているのだから、もっときちんと摘発しろ」と発破をかけられている可能性もあります。
飯田)「件数が足りないぞ」と。
秋田)「法律まで与えているのに、なぜ件数が増えないのか」というようなところですね。
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