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バイデン・習近平会談の最大のポイントは「関係の改善」ではない

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年11月14日 17時40分

バイデン・習近平会談の最大のポイントは「関係の改善」ではない

バイデン米大統領(右)と中国の習近平国家主席(インドネシア・バリ島)

日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が11月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。APECの財務相会合、IPEFの閣僚級会合などがスタートしたアメリカの外交ウィークについて解説した。

バイデン米大統領(右)と中国の習近平国家主席(インドネシア・バリ島)=2022年11月14日 AFP=時事 写真提供:時事通信

バイデン米大統領(右)と中国の習近平国家主席(インドネシア・バリ島)=2022年11月14日 AFP=時事 写真提供:時事通信

アメリカで外交ウィーク開幕

日本やアメリカなど21の国や地域が参加する「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」の財務相会合が11月12日、サンフランシスコで始まった。また13日から2日間の日程で、日米韓など14ヵ国が参加する新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の閣僚級会合も始まった。

飯田)またAPEC閣僚会議や、15日からはいよいよAPEC首脳会議が行われます。訪米中の西村経産大臣は13日、IPEFの初日の閣僚会合後、「貿易分野全体として実質妥結に至らなかった。(部分的な)進展はあった」と明らかにしました。IPEFの枠組みにはインドも入っていますが、全体としてはどういう展開になるのでしょうか?

IPEFはバイデン政権が終わればなくなる ~アジア側にうまみがない

秋田)IPEF自体はよく言われるように、バイデン政権が終われば消えてしまうような枠組みだと思います。アジア側にうまみがなさすぎるのです。アメリカの貿易解放を含まず、アメリカ市場を開けるわけではないけれど、ルールづくりをもう少し明確にして、貿易やデジタルなどで「協力しやすいようにしましょう」という枠組みですから。アジア側はルールだけを厳しくされるけれど、その分「きちんとアメリカに売れるのか」と言うと、そうではありません。

飯田)アジア側からすれば。

秋田)でも、アメリカにはこれしか通商政策はないので、何もないよりはいい。環太平洋経済連携協定(TPP)から抜けてしまったトランプ氏よりはいいのではないか、という話だと思います。

アメリカ国内の4分の3は、自由貿易はほどほどにして、アメリカ国内の雇用を守って欲しい

飯田)政治的に、アメリカのTPP復帰は絶望的ですか?

秋田)9月に南部アトランタからジョージア州へ取材に行き、トランプサポーターの方々と会って話を聞きました。有権者の構造からみると、アメリカはいま、完全に自由貿易を進めるという雰囲気ではないと思います。

飯田)ないですか。

秋田)いまのアメリカは極端に言えば、トランプサポーターが4割くらいで、民主党サポーターも4割くらい。どちらも4割強です。そして1割くらいの人がどちらにいこうか迷っており、ほとんど二極化されています。トランプサポーターの人たちはアメリカファーストですから、自由貿易に関しては慎重です。残り半分の民主党のうち、バーニー・サンダースさんやエリザベス・ウォーレンさんなどの左派は反対です。「アメリカの労働者を守って欲しい」と言っています。この前も大きな労組の集会がありましたね。

飯田)自動車労組の。

秋田)4分の3くらいは自由貿易はほどほどにして、アメリカ国内の雇用を守って欲しいという、民主党左派と共和党・親トランプの人たちです。そうすると、バイデン大統領は(TPP復帰を)やりたいと思っても、選挙に負けてしまうので、できるわけがないですよね。

飯田)その辺りの外交も内政から派生するのですね。

秋田)そのように強く感じました。

米中首脳会談でアメリカが目指すのは、「やってはいけないルールを決めよう」ということ ~譲る気のない中国

飯田)一方、APECの期間中に米中首脳会談が行われるのではないかと言われていますが、中国に対してはどうでしょうか?

秋田)「バイデン・習近平会談」の最大のポイントは、関係改善ではないと思います。習近平氏もバイデン氏も関係が改善できる、あるいは関係を改善したいと思って会うのではありません。現在の米中間は冷戦と言っていい状態で、単にハイテクや安全保障で対立しているわけではなく、お互いが信用できないのです。コロナ禍を通じてさらにそれが強まり、ロシアの侵略を批判しない中国側と、ロシアを敗北させようとするアメリカ側で、世界観の違いのぶつかり合いが起きています。それを1回の会談で改善するのは無理です。アメリカが目指すのは、「喧嘩はするけれどルールは決めよう」ということです。

飯田)ルールだけでも決めようと。

秋田)やってはいけないルールは決めておく。例えば「危険な軍事衝突を避けるため、ホットラインに電話が掛かってきたら出よう」、あるいは「少し不快なことがあっても、軍トップ同士の意見交換をやめてはいけない」など。ガードレールと言っていますが、そのような危機管理をアメリカが求めるということです。

中国が求めるのは既に渡してある「やってはいけない行動リスト」の答え

秋田)対する中国側は、それに応じたら「アメリカは安心してもっと対中強硬のアクセルを踏むだろう。偶発的事故がないと思ったら、南シナ海や中国沿岸に船を出すはずだ」と考えているでしょう。だから、先にリストをアメリカ側に渡してあるのです。「やってはいけない行動リスト」というものを、過去にブリンケン氏に渡してありますから、習近平氏はその答えを求めると思います。

飯田)やってはいけない行動のリスト。

秋田)反中的な法案や、既に行っている制裁などがリストアップされており、「これらを止めなければガードレールはできない」というのが中国の立場です。1962年のキューバ危機で、米ソは初めて核戦争の直前までいき、ホットラインや危機管理を設けました。いまの米中はキューバ危機の前のような、危ない米ソの状態に近いけれど、キューバ危機的な段階を踏まずに安全な冷戦にいけるかどうか。その試金石だと思います。

飯田)そこまでには、まだハードルはありますか?

秋田)結論から言えばいかないでしょうね。

飯田)1回の会談ではそこまでいかないですか?

秋田)米ソ危機のときも、「このままでは本当に核戦争になる」というところで初めて懲りて、対話などの定例枠組みをつくったのです。アメリカはキューバ危機を経験していますが、中国にはそういった経験がありません。アメリカは下り坂で、自分たちはまだ上昇機運だと思っているので、「譲る必要はない」という感じだと思います。

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