それでも「アブラハム合意」に基づく「アラブとイスラエルの接近」が終わることはない
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年11月14日 19時5分
![それでも「アブラハム合意」に基づく「アラブとイスラエルの接近」が終わることはない](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_476847_0-small.jpg)
日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が11月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエル・パレスチナ情勢について解説した。
![記者会見するイスラエルのネタニヤフ首相=2023年10月28日、中部テルアビブ(ロイター=共同)](https://news.1242.com/wp-content/uploads/2023/10/2023103104898RS.jpg)
記者会見するイスラエルのネタニヤフ首相=2023年10月28日、中部テルアビブ(ロイター=共同)
World Policy Conference(ワールド ポリシー カンファレンス)
飯田)秋田さんは11月3~5日に、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開かれた「World Policy Conference」に参加したそうですね。
秋田)アブダビの会議では主に中東や、フランスが主催する会議ですのでヨーロッパ、またアフリカからも大勢の政治家、識者が来ました。当然ですが、いまの中東情勢が話題になりました。
飯田)イスラエルとハマスの戦闘が行われている最中ですからね。
イスラエルが多くの死傷者を出したことへの反発
秋田)2つ発見がありました。1つは、いま中東の上空に、方向性がまったく逆の2つの気流が渦巻いています。1つは当然、憎悪や怒りの感情で、パレスチナ問題をめぐるものです。特にイスラエルが死傷者を大勢出してしまっていることについては、かなり反発が聞かれました。
アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない ~スローダウンしても反転することはない
秋田)ただ、もう一方で「地政学のベクトル」も相変わらず消えてはいないのだなと思いました。長期的には、こちらの方が重要だと思います。いまは感情の部分でぶつかり合っていますが、共通の脅威であるイランに対応するため、「アラブ諸国とイスラエルが接近する」という動きです。2020年秋から「アブラハム合意」のもとに、それまでずっと宿敵だったアラブ、特にサウジアラビア、バーレーン、モロッコ、UAE。このうちサウジアラビアはまだですが、参加国の湾岸アラブ諸国が、イスラエルと電撃的な国交樹立を決めました。これは事実上、イランに対抗するためにアメリカが主導した「反イラン連合」なのですが、地政学の計算から結びつくのです。サウジアラビアも、つい最近まではイスラエルとの国交正常化が言われていました。
アブラハム合意は長期を見据えた国家戦略の決定
秋田)それが「もう壊れてしまったのかどうか」が今回、私の最大の関心でした。いろいろと個別に話を聞くと、UAEやエジプト、サウジアラビアの人もいましたが、「アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない」と言っていました。
飯田)そうなのですね。
秋田)アブラハム合意に関与している国のある高官は、「これは長期を見据えた国家の戦略決定だ」と言っていました。ですので、いま起きている情勢によって多少スローダウンはするけれど、「反転することはない」と言っていたのが印象的です。
飯田)イランの思惑とは違ってくる。
秋田)ハマスはそれを壊そうとしたのですが、傷は付いても完全に消滅はしないというような話でしたね。
飯田)それは現地に行かないと、なかなかわからないですよね。
秋田)彼らは表立っては言いません。私が今回会議へ行ったいちばんの目的は、「アブラハム合意」という地政学接近が終わるのかどうか、本音を聞こうと思って行ったのです。会議でそのようなことを公式に言う人はいませんが、会場で個別に話を聞くと、だいたいみんな「いまは静かにしているけれど、途切れることはないだろう」と話していました。
将来的には「イラン連合」と「アラブ・イスラエル連合」の二極構造に
飯田)報道によると、イランのライシ大統領がサウジアラビアに行き、トップと会っていたようです。「もはや対イスラエルで、アラブとペルシャも手を組むのか」という話になっているように感じますが、そうではないのですか?
秋田)非常に複雑なのですが、基本的に、イランは「イスラム革命を輸出しようとしている」と言われているイスラム国家ですよね。アラブは王政なので、イスラム革命のような状況が起きて、イランのようになってしまうことを恐れているのです。
飯田)イランはイスラム革命によってパーレビ王政を追放したわけですものね。
秋田)彼らは他国にもイラン革命が起きて、自分たちのようになることを望んでいるのです。だからハマスやレバノンのヒズボラなど、イスラム教シーア派を支援している。相容れないわけです。
飯田)イランとアラブは。
秋田)では現在、なぜイランとサウジアラビアなどが接近しているのかと言うと、融和のためではなく、米ソ冷戦時代のデタントのようなものです。
飯田)雪解けですか。
秋田)イランも、国内では女性のスカーフ着用の問題でデモが起きて大変ですし、経済制裁も長い。サウジアラビアは今後、再びトランプ大統領に代わるかも知れないアメリカの状況をみると、アメリカがどこまで守ってくれるのかわからない。緊張緩和しているだけで、やはり全部引き剥がせば、「アブラハム合意」のパラダイムと言うか、アラブとイスラエルが接近して「反イラン同盟」を築いていく。イランはそれに対抗するため、シリアやレバノン、また半ばシーア派が多いイラクなどと組んでいく。
飯田)それぞれ。
秋田)いまのパレスチナ問題の激情と言っていい対立は長く続くと思いますが、10~20年先を見ると地政学は、旧ペルシャ帝国の連合である「イラン連合」と、イスラエルの軍事力とハイテクを使って対峙していく「アラブ・イスラエル連合」という二極構造になる。それが安定の鍵を握ると思います。
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