懸念すべきは円安ではなく「物価下落」 関西経済界の発言に専門家が言及
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年11月28日 17時45分
元日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士が11月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「これ以上の円安は避けたい」と発言した関西経済界について解説した。
関西経済界が財務省に「これ以上の円安は避けたい」と述べる
関西経済連合会など関西の経済団体は11月27日、大阪市で財務省の政務官らと意見交換会を開いた。大阪商工会議所の鳥井会頭(サントリーホールディングス副会長)は「円安による原材料・エネルギー価格高騰で、中小企業の経営環境は楽観を許さない状況だ。これ以上の円安は何としてでも避けたい」と訴えた。
飯田)一方、財務省の瀬戸政務官は終了後の会見で、「為替についてのコメントは控えたい」と述べました。足元では少し円高に巻き戻っているところがありますが、どうご覧になりますか?
片岡)こうした訴えが届いたのでしょうか。
飯田)市場に対してですか?
円安が進んでいるのはアメリカの金融政策の影響であり、日本が是正することは難しい
片岡)「円安は避けたい」と財務省に訴えたようですが、いま円安が進行している理由は、アメリカの金融政策が影響しています。アメリカが「利上げするぞ」と示すなかで、日銀が金利を一定にしているため、それによって円安が進行するという流れです。そのため、例えばいま円安が進んでいるからといって、日本側が是正しようと思っても、そもそも是正するのは難しい状況です。
円安が大きく進み、輸入価格が上昇したのは去年の話で、いまは減少傾向にある
片岡)「円安を避けたい」と日本側にお願いしても、あまり効果はないと思います。そもそも、いま円安が深刻化しているかと言うと、そうではありません。円安が大きく進んだのは去年(2022年)です。なおかつ、輸入価格もそこまで上昇してはいない。円安要因で輸入価格が上昇したのは去年のいまごろで、今年(2023年)の4月以降は、輸入価格は前年と比べて減少傾向にあります。
飯田)減少している。
片岡)日本経済全体において、輸出価格と輸入価格のバランスで、どのくらい状況が「改善しているのか、していないのか」を示す指標に「交易条件」があります。去年は交易条件が悪化していますが、これは輸入価格の上昇で悪化していたのです。しかし、今年は改善しています。企業全体から見て「輸入価格が上昇し、コストが上がって大変だ」という状況は、今年に関しては当てはまりません。
消費者の購買意欲が減退し、今後物価が下がっていく可能性も
飯田)前年に比べ、むしろ少し下がっているくらいなのですね。
片岡)改善しています。確かに大変ではありますが、今年は深刻さの度合いが縮小しています。
飯田)月末に入り、さまざまな経済指標が出てきています。消費者物価指数なども出ましたが、3%までいかないくらいでした。「4ヵ月ぶりに少し上昇」などとも言われましたが、最近は3%前後で横這いに推移しています。
片岡)少し上がったのは、ガソリン補助金が今年の9月から半減した影響です。基調としては変わっていません。先行きについては、値段が上がってきているなかで消費者の購買意欲が減退しており、その辺りのバランスもあって、今後は徐々に物価が下がっていくかも知れない。こちらを気にした方がいいと思います。
飯田)物価が下がっていく可能性を。
片岡)物価高と言いますが、リスク要因という意味においては、物価が下がっていく懸念があります。足元の消費者物価指数を見てもそうですが、海外要因でエネルギーや食料品の価格が上がったことで、国内の関連財の価格が上がり、物価が上がっている。そういった原因ですので、例えば国内のサービスなど、輸入に関係なく国内の需給バランスで決まる価格は、むしろ上がっていないのです。
飯田)サービス関連の価格は。
片岡)原材料価格が上がっているなかで、その動きが止まれば、消費者物価指数も落ち着くのではないかと思います。
海外インフレが円安とも相まって国内に輸入されて物価が上がる
飯田)「物価高だ」と言われますが、需要と供給のマッチング部分は、下り坂に入っているかも知れない。
片岡)それほど強くないのではないでしょうか。今年の日本経済、特に物価についてはプラス要因とマイナス要因が両方作用するなかで、ジワジワと物価が上がってきています。
飯田)プラスの部分は、海外からの要因でしょうか?
片岡)物価高の話で言うと、基本的にエネルギー価格、原材料価格、海外のインフレ要因が、円安も相まって国内に輸入される形で物価が上がっている要素があります。
春闘での賃上げもあり、何となく価格上昇が持続したが、海外要因の停滞もあり、物価が下がっていく
片岡)物価が上がったことに対しては、今年の春闘もそうだったように、企業としても業績がいいので、おしなべて賃上げという形で対応したのです。賃上げの流れがあったので、所得がある程度下支えされる。そのような状況のなかで「価格上昇に耐えられるのではないか」と考え、企業としては「値段を下げなくてもいい」と、何となく価格上昇が持続するような格好になった。
飯田)値段を下げなくていいと。
片岡)ただ、足元の消費や設備投資といった国内需要に関する指標を見ると、国内総生産(GDP)の統計でも明らかなように、前期比でマイナスになるなど、あまり強い状況ではありません。価格上昇に対して、徐々に家計や企業が「価格上昇に耐えられない」と思っている部分もあるのです。このままの動きが続いてしまうと、海外要因の停滞もあり、「物価が下がっていくのではないか」と予想されます。
飯田)このままの動きが続けば。
片岡)価格上昇が持続するなかで所得を拡大させるには来年(2024年)以降、「春闘で賃金上昇などの動きが出てくるのか」というところが1つのポイントになります。
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