手の平に乗るほど小さい「スウェーデントーチ」 なぜ増産が難しい?
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年12月6日 17時20分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
今回は、「スウェーデントーチ」をご紹介します。
スウェーデントーチとは丸太に切り込みを入れ、なかから燃やすことで1本の丸太がストーブになったり、コンロになったり……いま人気の「焚き火アイテム」として注目されているものです。
このスウェーデントーチを、宮城県蔵王町で製造・販売している方がいます。渡辺悟士さん・44歳。蔵王町の遠刈田温泉で、インターネット関連会社「株式会社ワールドライブ」を営んでいます。
こけしの発祥地として知られる遠刈田温泉で、なぜ渡辺さんはスウェーデントーチをつくり始めたのでしょうか?
千葉県出身の渡辺さんは幼少期を仙台で過ごし、中学生になると、父の転勤により南フランスで暮らしました。フランスで退屈だったのは、日本のゲームが手に入らないことだったそうです。「それなら自分でつくろう」と思ったのが、プログラミングを始めるきっかけでした。
帰国後、大学2年生だった2001年にベンチャー企業を起こします。仕事が忙しくなり、大学を中退。首都圏を拠点にシステムエンジニアとして活動を始めた渡辺さんは、「越境EC」……クロスボーダーとも言いますが、国をまたいで商品を販売するオンラインのネットショップにも進出します。
しかし、これからという時期に東日本大震災が発生。仙台の実家が津波で全壊してしまいます。両親や親戚は無事でしたが、渡辺さんは仕事を中断し、瓦礫の片付けや泥かきなど、実家の復旧作業に追われました。
4年後の2015年、「これからどうしようか」と感じていた渡辺さん。海外生活が長かったので、夫婦で海外移住も考えていましたが、「日本ならどこがいいか」も想定したそうです。
山深く、自然に囲まれ、雪が多そうな場所……そんなイメージだけで、渡辺さんは宮城県蔵王町に移住します。ところが、冬になると想像を絶する寒い冬が待っていました。
薪ストーブがないと蔵王の冬は過ごせない。しかし、その薪がなかなか手に入りません。「いらない木があるので切って欲しい」という話を聞くと、すぐに駆けつけて「無償で切りますので、この木をいただけますか?」と交渉しました。
このように木を蓄えないと暮らせないのだそうです。渡辺さんは、周辺の移住者仲間と手分けして木を集め、蓄えて、みんなで分配する仕組みを考えます。それを「ウッドストック」と名付けました。
蔵王の暮らしに慣れてきたころ、次に襲ってきたのが新型コロナでした。渡辺さんはビンテージの「コレクターズアイテム」を輸出する仕事もしていますが、海外へ飛行機が飛ばず、開店休業状態になってしまいます。
アウトドアが趣味の渡辺さんは、「こんなときこそのんびりしよう」と考えました。2年前の秋、娘が通う幼稚園のパパ友が集まった際、日が暮れて寒くなってきたので「焚き火でもしようか」という流れになります。そのとき、「スウェーデントーチをやってみようか」と思い付いたそうです。
杉の丸太があったので、チェーンソーで切り込みを入れて火をつけると、メラメラと燃え出し……その炎が何とも言えず心地いい。まわりが暗くなり、丸太の中央から燃える炎を飽きもせずじっと見つめていた渡辺さんの心に、「ポッ!」とあかりが灯ります。「これ、売れるかも!」と新たな事業を思いつきました。
杉の丸太はヤニが多く煙たいので、渡辺さんは他にいい木材がないか探します。そこで、薪ストーブにくべていた間伐材の「ヤマザクラ」に注目し、トーチをつくってみました。煙が少なく、桜の香りがすごくよかったそうです。
丸太の内部を薪ストーブと同じ構造にして、空気の通り道をつくり、燃えやすいように工夫しました。「トーチ」も「こけし」も、つくる工程は同じだそうです。
渡辺さんがつくったスウェーデントーチは、従来のものと比べて約3分の1。手のひらに乗るほどコンパクトサイズです。しかし、大きな丸太のトーチと比べても、火力も燃焼時間も引けを取りません。特殊な構造で「特許」も取得しました。
こうして、渡辺さんは2022年に新規事業をスタート。「ウッドストック」のブランド名で売り出すと、コロナ禍のキャンプブームと相まって即完売します。
「増産したいんですが、ヤマザクラが足りないんです。オンラインの需要に応える分で精一杯。地元や近隣エリアのお店で販売する分が追い付かないんですよ」と嬉しい悲鳴をあげる渡辺さんに、これからの「夢」を伺いました。
「蔵王の木でつくったスウェーデントーチを、ふるさと・スウェーデンに輸出したいんです。『こんな小さいもので火がつくのか?』と笑われるかも知れませんが、こんなに小型でも炎が強く、煙も少ない。そして『いい匂いがする!』と、北欧の人たちをあっと驚かせたいですね」
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