「ゆくりなく」の意味を知っていますか?
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年12月14日 11時20分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(12月7日放送)に評論家の宮崎哲弥が出演。『教養としての上級語彙』について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。12月4日(月)~12月8日(金)のゲストは評論家の宮崎哲弥。4日目は、好みの語彙について—
黒木)宮崎さんが出版された『教養としての上級語彙 知的人生のための500語』(新潮選書)の500語は、1万語を超える語彙のなかから選ばれたということですが、なかでも宮崎さんが好きな日本語があるのですよね?
宮崎)自分の好き嫌いを言葉に対して押し付けるのはどうかと思いますが、「ゆくりなく」という言葉が好きですね。「思いがけなく」というような感じの意味です。また、「端無(はしな)くも」という言葉もあります。
黒木)「端無くも」。
宮崎)なかなか使われなくなっている言葉ですが、私はこういう言葉を復活させたいと思いますね。
黒木)昔々に読んでいた本に書いてあったような記憶があります。
宮崎)この『教養としての上級語彙 知的人生のための500語』は普通の語彙集とは違い、「初見の用例」と名付けたのですが、本文のなかにいろいろと埋め込まれているのです。そのあとに辞書的な定義がくる。そして、近現代的な文学から選んできた用例が書かれているという構成です。なぜ「初見の用例」を考えたのかと言うと、私たちが普通に新しい言葉に出会うときの状況を再現したかったのです。
黒木)小説などを読んでいて。
宮崎)そこで読者は「あ、この言葉は知らない」と、「ふっ」と考えてしまうでしょう? できれば、そこで「これはどういう言葉なのだろう?」と推測して欲しいのです。そのあとに出ている辞書的な定義を見て、「こういうことだったのか。自分は間違っていたな」とか、あるいは「自分の思っていた通りだった」などと思う。そうすると記憶に残るではないですか。そういう記憶のフックになることを考えたのです。
黒木)知っている語彙があると、「あ、知ってる」と嬉しくなります。宮崎さん的に言うと「ボキャ貧」の逆で、「ボキャ富」ですか?
宮崎)「ボキャ豊」や「ボキャ富」と言います。
黒木)ボキャブラリーが豊富だと、そういう気持ちになります。でも、知らないと「こんなに知らない語彙があったのだ」と思ってしまう。それを恥ずかしいとは思わず、知った喜びと言うか、いままで知らなかったことが恥ずかしいのではなく、「知ることができて嬉しい」と思える自分がいます。「まだまだだな」と思いながら。
宮崎)言葉は、最初は知らなくて当然ですから、恥ずかしがることはありません。むしろ、自分が使える言葉を増やしていく楽しみを知って欲しいのです。
黒木)この本で学んだ言葉を、「日常のなかで使っていきたいな」と思いました。
宮崎)それは最高です。語彙というのは2つあります。1つは「理解語彙」。本などを読む際に「私はこの言葉を知っており、理解ができる」という語彙で、これが第一段階です。それを会話のなかや手紙などを書くときに、能動的に自分で使えるようになることを「使用語彙」と言うのです。
黒木)使用語彙。
宮崎)理解語彙と使用語彙。できれば、まずは理解語彙にしていただき、然るのちにそれを使用語彙として使っていただけると最高です。
黒木)私は「笑壺に入る」という言葉を知りませんでした。「上機嫌で笑うこと」なのですね。
宮崎)辞書的な語釈はそうなのですが、むしろ「ほら、笑いが止まらなくなるでしょう?」という感じの意味合いです。
黒木)「笑い」など、いろいろなカテゴリーで分けられていますが、「笑い」のところには「失笑」もあるではないですか。「どんな笑いだろう?」と自分で芝居するのですよ。失笑だったら「ふふっ」とか。
宮崎)それはいいなぁ。
黒木)「憫笑」は憐れんで笑うことですが、「どう憐れんで笑うのだろう?」という感じで、私は芝居と結び付けながら語彙を楽しんでいます。
宮崎哲弥(みやざき・てつや)/評論家
■慶応義塾大学文学部社会学科卒業。
■政治、経済、宗教、漫画、映画などを対象に評論活動を展開。
■単に政治経済を専門とするだけの評論家とは違い、矢沢あい氏の人気漫画『NANA』に関して評論したり、ヴィジュアル系ロックバンド「LUNA SEA」のヴォーカリスト・河村隆一と対談したり、日本のヒップホップについて語ったりと、サブカルチャーやオタク文化全般に対しても深い理解を示し、好意的なスタンスにある。
■2022年に『教養としての上級語彙 知的人生のための500語』を発売。中学生のころより本や雑誌、新聞からメモしてきた「語彙ノート」の1万語から500余語を厳選。読むだけで言葉のレパートリーが拡がり、それらを駆使できるようになる異色の「文章読本」となっている。
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