日銀、大規模緩和を維持 「いま金融緩和を解除しても景気が冷え込むだけ」佐々木俊尚が解説
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年12月20日 17時55分
金融政策決定会合を終え、会見する日銀の植田和男総裁=19日午後、日本銀行
ジャーナリストの佐々木俊尚が12月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。大規模緩和の維持を決めた日銀の金融政策について解説した。
日銀の金融政策決定会合、大規模緩和を継続
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日銀は12月19日に開いた金融政策決定会合で、大規模緩和策の維持を決めた。総裁は会見でも2%の物価上昇目標の持続的な実現を慎重に見極める姿勢を強調した。
飯田)事前には「マイナス金利が解除されるのではないか」などと言われていましたが。
佐々木)新聞・テレビでは「早く解除せよ、金融正常化せよ」の大合唱なのですが、なぜそんなことを言うのか、逆に不思議なぐらいです。景気が悪ければ大規模緩和を持続させる必要があるし、景気がよくなってインフレが進行するのであれば、金利を上げるべきです。それは当然のバランスの話だと思います。しかし、まるで金融緩和、マイナス金利が続いていること自体がこの世の悪のようになっている。よくわからないですよね。
「いま金融緩和を解除しても景気が冷え込むだけ」という判断
佐々木)植田総裁が言っていることは、とても真っ当だと思います。現状、物価(上昇率)が3%ぐらいまで上がっているのですが、まだまだ輸入物価の上昇によるコストプッシュインフレの状態です。「物価が上がって賃金も上がる」というプラスのスパイラルではないので、いま解除しても景気が冷え込むだけという判断です。それはそうだと思います。
2024年の春闘で賃金が上がり、「物価の上昇以上に賃金が上がる」という期待感
佐々木)今後の可能性としては、今年(2023年)の春闘で大企業を中心に賃金が大きく上がったではないですか。あの波がもう1回、来春の春闘でもくるのではないかという期待があります。
飯田)2024年の春闘で。
佐々木)いま、ようやく賃金が上がってきたけれど、それ以上のスピードで物価が上がっているので、実質賃金が下がり、生活が苦しいという実感が広がってしまっている。それをうまく反転させる必要があります。物価を下げて実質賃金を上げるのではなく、物価は上がっているけれど、それ以上に賃金が上がるという期待感で「実質賃金を上げていく」という流れにしないと、またデフレに戻ってしまうかも知れません。
春闘の結果を見た上で、金融政策をどうするのか改めて考える
佐々木)「2024年の春闘の結果を見た上で、金融政策をどうするのか改めて考える」というところではないですかね。逆に言うと、春闘が行われるのは例年2~3月ですよね。それ以前に金利を上げる理由があまりないと言うか。
飯田)ものすごく経済がよくなっているのであれば、という話ですね。
佐々木)3~4ヵ月で急速に上回るとは思えないし、コストプッシュインフレもそれほど変わらないと考えれば、「上げろ」と大騒ぎせず、じっくり見守るぐらいの方がいいのではないかと思います。
飯田)今回、囃された根拠となったのが、植田総裁による国会での「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」という発言でした。
佐々木)何をもってチャレンジングと言っているのかですよね。頑張ってマスコミの抵抗にめげず、金融緩和を続けていくというチャレンジなのか。
飯田)「チャレンジング」という言葉に反応するのであれば、そう取ることもできますし、メディアは「何が何でも利上げするのだ」とか、「マイナス金利解除だ」とか。
佐々木)それがチャレンジングなのでしょうか?
飯田)これに対して植田総裁は昨日(19日)の会見のなかで、仕事への取り組みを聞かれたため、一段と気を引き締めるというつもりで「チャレンジング」と言ったと話していました。困難だけれどもやり遂げるのだと。
佐々木)個人的なチャレンジングですよね。
円安基調のまま頑張って賃金を上げていく方向が正しい
佐々木)岸田政権の支持率が下がっている背景には、自民党の政治献金問題もあるにしろ、やはり実質賃金が下がって「物価が高く苦しい」という要素が働いていると思います。その物価高の原因は円安基調になっているところがある。アメリカの金利が上がっているなかで、日本だけ金利が低いため、相乗効果で円安になっていることを考えると、もう少し引き締めて円高方向に持っていった方が物価は下がるのではないか、という期待感はあると思います。岸田さんは内心、「金利を上げてくれないかな」と思っているかも知れません。
飯田)日本が特に動かなくても、アメリカが「利下げを来年やるかも」と言っただけで10円ほど円高に振れました。
佐々木)アメリカは金利が高すぎます。5%ぐらいですよね。これがもう少し下がれば全然違う状況になるし、日本だけがジタバタしても変わるものではありません。「円安を円高に改め、輸入物価を下げて」と動いても、あまり経済に対していい面はない。逆に、長い目で見て経済成長するためには、いまの円安基調のまま頑張って賃金を上げていく方向が正しいのではないかと思います。
飯田)ひところアメリカで言われた高圧経済的な話ですね。経済の好循環によって物価が上がるけれど、経済のパイも膨らんでいく。
佐々木)そうすると税収も増えるので、財務省も文句はないと思うのですが、平成30年間のデフレマインドが官民ともに沁みついていると言うか、「マイナスで考えておけば何とかなるだろう」というような人が多すぎる。マスコミは本当にそうですよ。
海外投資家が日本に目を向けるようになってきた
佐々木)「経済成長の可能性がある」という期待感が大事です。令和に入って5年経ったわけですが、環境整備は徐々に整っており、海外投資家が日本に目を向けるようになっています。有名なところではウォーレン・バフェット氏が総合商社へ大量に投資しています。また、経済安全保障の観点で中国から資本が流出していて、かなりの部分が日本に流入してきている。
飯田)中国から。
佐々木)同じ西側諸国内で資本が流動化し、「日本に投資した方がいい」という方向になっています。その一環として、台湾の半導体大手TSMCが熊本に工場をつくりましたが、数兆円の経済効果と言われているくらいです。
飯田)雇用も相当、生んでいるようです。
佐々木)熊本では時給3000円などと言われていますからね。日本はいまのところ株式も安いし、ポテンシャルが高いので、「もっと投資してもいいのではないか」という機運が海外投資家の間で広まっているという話もあります。日本国内でも、それに応えて「新しい会社をつくろう」という話も出てきたり、海外のAI関連会社などが東京に会社をつくる予定のようです。
飯田)開発拠点をつくるなど。
面白い場所に世界から会社が集まってくる ~そのなかに東京も
佐々木)グローバリゼーションのなかでは、そのときどきでいちばん面白いところに会社をつくる動きがあります。昔はそれがシリコンバレーだったのですが、シリコンバレーは家賃が上がりすぎて魅力がなくなったと言われています。最近ではアメリカのテキサス州ヒューストンや、ドイツのベルリンがあります。面白い文化があって、いろいろな人が集まっているところに行くわけです。そこに最近、東京が入ってきたと言われており、面白い方向だと思います。
飯田)海外から投資するにあたっても、ここ5~10年でガバナンスコードなども整備してきたから、ある程度は安心して投資できるようになってきた。
エンジェル投資家も現れ、これから日本は間違いなく伸びる
佐々木)国内のスタートアップ企業に関しても、資金を調達するには、かつては銀行から借りるしかありませんでした。しかし、ネットバブルから二十数年を経て、当時、起業して成功してお金持ちになった40~50代のなかに「エンジェル投資家」という、先行きがわからないスタートアップに「ポン」と1000万円、1億円などを投資するような人たちも出てきている。いろいろな意味で環境ができているので、これから日本は間違いなく伸びると思うのですが、メディアの人はまったくそんなことを思っていません。あとは高齢者なども。
飯田)基本的に「財政規律が」と言う人たちが税金を上げたがるのは、成長しないことが前提にあるから、「税金を上げないと収入がなくなる」というような恐怖感があるわけですよね。
佐々木)彼らにとってはデフレ経済の方がありがたいのですよ。例えば80歳ぐらいで1億円の金融資産がある人が、10%ほどのインフレになったら、現金で持っていれば、あっという間に金融資産が吹き飛びます。
飯田)目減りしていきますね。
「貯めておけばいい」というデフレマインドをどう変えていくか
佐々木)インフレが起こると、金融資産が若い世代に移転していく効果がある。だから、お金がたくさんあってデフレなのであれば、貯めるのがいちばん得です。円が減らないわけだから。
飯田)そうですね。
佐々木)インフレだと現金が減っていくので、その分を投資に回す動きが出て、その投資がスタートアップなどに向かう……そういう好循環になっていくわけです。この30年の「貯めておけばいい」というデフレマインドをどう変えていくかが最も大きな問題なのですが、難しいですね。私が新聞社に入ったのが1988年で、昭和最後の年なのですよ。
飯田)なるほど。
佐々木)翌年から平成になり、まさに平成の時代に新聞記者をやっていたのだけれど、あれからもう三十数年経った。あのころ新入社員だった同僚が未だに新聞社のいちばん上にいるわけです。だから昭和の伸びゆく高度経済成長など、私を含めて誰も知らない。「世の中が縮小していくのが当たり前」という意識が沁みついているところがあると思います。
再び高度成長期のころのマインドに引き戻すことが大事
佐々木)もう1回、高度成長期ぐらいのマインドに引き戻すことが大事なのではないでしょうか。あの時代の日本もそれほど豊かだったわけではありませんが、当時の池田勇人首相が所得倍増計画を打ち出し、「収入が倍になる」というような期待感があったのです。実際は倍以上に増えたのですが。
飯田)それだけ伸びていくからこそ、失敗するかも知れないけれど投資ができたり、チャレンジができた。
佐々木)新入社員の一括採用もそうです。私が新聞社に入ったころは、優秀な人間だけだと小さくまとまりすぎるから、企業も少し変わり者を入れていました。でも最近は就職人数も少ないので、まともな人しか入れることができない。そうなると破天荒なものがなくなり、縮小再生産に陥ってしまう可能性があります。
飯田)同じ価値観のなかで判断するだけになってしまう。
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