ALS患者嘱託殺人事件 「どこまで尊厳死を認めるのか、認めないのか」という議論をするべき
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年12月20日 18時50分
京都ALS患者嘱託殺人 JR京都駅の改札を出る山本直樹容疑者=23日午後2時24分、京都市のJR京都駅
ジャーナリストの佐々木俊尚が12月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ALS患者嘱託殺人事件について解説した。
ALS患者嘱託殺人事件、元医師に懲役2年6ヵ月の判決
4年前、全身の筋肉が動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を患う京都市の女性を本人からの依頼で殺害した罪などに問われた46歳の元医師に対し、京都地方裁判所は12月19日、「医師でありながら被害者をろくに診察せず犯行に及んでおり、強い非難に値する」として懲役2年6ヵ月の判決を言い渡した。
飯田)元医師の山本直樹被告は、医師の大久保愉一被告とともに、嘱託殺人の依頼を受けたということです。
日本では認められていない「積極的安楽死」
佐々木)現行の日本の法律では明らかに殺人なので、きちんと罪を償わなければいけない。それは当然のことです。しかし、一方で「こんな悪い医師がいる」で終わりにしてはいけない事件でもあります。日本では積極的安楽死は認められていません。つまり医師が薬を注射する、もしくは患者本人が自分で薬を注射するのを医師が助けることは認められていない。スイスなどでは認められていますが。
飯田)薬剤をチューブを通して針で刺し、最後にコックを開けるのは自分の意思で行う。
佐々木)実際、日本から向こうに行き、尊厳死を選んだ方もいらっしゃるという話もあります。これをどう捉えるのか、日本でも今後の重要な課題になると言われていますが、議論がまったく進んでいません。
亡くなった女性が被告に対して「安楽死したい」とSNSで伝えていた
佐々木)こういう事件が起きてしまい、判決が出ると、「悪いやつが捕まった」というような話で終わってしまうのも残念です。実際、京都地裁が判決で言っていましたが、亡くなった女性は被告に対して「安楽死したい」とSNSで伝えていたそうです。自ら命を絶つことを望み、「他者に依頼するしかなかった」というような判決文が語られています。
「どこまで尊厳死を認めるのか、認めないのか」という議論をしなければいけない
佐々木)公判では亡くなった女性の主治医が出廷し、証言されています。「胃ろうはもうしたくない」と求めたり、安楽死を取り上げた番組を観て「自分はいま死ぬしかない」とおっしゃっていたと。しかし、いろいろな治療薬を試すなど、「生きていきたい」という希望もあった。「揺れ動いていたのではないか」というようなことが語られているわけです。日本社会としては今後、「どこまで尊厳死を認めるのか、認めないのか」という議論をしなければいけないと思います。
飯田)本人の意思や揺れる部分をどこまで汲み取るのか。
佐々木)懸念されているのは、日本は同調圧力が強い社会ではないですか。自分としては生きたいけれど、周りからそれとなく「おばあちゃん、まだ死なないの?」などと言われて、本人の意に添わぬ空気の圧力で死を選ぶような状況があってはいけない。あくまでも独立した個人の意思として、尊厳死を選ぶかどうか。その独立性をどうやって推し量るのか、というような議論はあるようですね。
「尊厳ある死の迎え方をどこかで許容しなければいけない時期」がくる
飯田)ヨーロッパの事例がよく紹介されますが、個人の意思を重要視するプロテスタントの国では受け入れられるけれど、カトリックの国などではなかなか難しい。ベースの文化によっても違ってきます。
佐々木)自分に内在する意思として、周りにとやかく言われても「私はこうするのだ」と言えるかどうか。「周りに流されてしまわないか」も踏まえて議論するべきです。「ヨーロッパで行われているからいい」という単純な話ではありません。
飯田)ある意味、共同体の構成によっても違ってくるのでしょうね。
佐々木)相当慎重に議論しなければいけない。ただ今後、高齢化社会が進み、しかも単身世帯が圧倒的に増えていくという状況のなかで、個人的には、ある程度「尊厳ある死の迎え方をどこかで許容しなければいけない時期」はくるのではないかと思います。昔のように子や孫に囲まれ、ベッドで和やかに亡くなる、などという環境が期待できない時代ですからね。
「胃ろうの状態のまま延命することがいいのかどうか」という議論も
飯田)他方、医療技術の進歩を考えると、「意思は示せないけれど心臓は動いており、肉体としては生きている」という場合はどうするのか。
佐々木)「胃ろうの状態のまま延命するのがいいのかどうか」も議論になっています。
飯田)臓器移植法のときもそうでしたが、法だけではなく、倫理面も含めての議論になりますね。
佐々木)日本には、そういうことを議論する場所がなかなかない。マスコミがそこをカバーしきれていないという問題もあると思います。
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