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令和6年能登半島地震で注目される「BCP」の存在

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月5日 17時30分

令和6年能登半島地震で注目される「BCP」の存在

余震が発生し、救助活動中のビル倒壊現場から急いで退避する消防隊員ら=3日午後0時54分、石川県輪島市(恵守乾撮影)

経済アナリストの馬渕磨理子が1月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。令和6年能登半島地震が経済に与える影響、これから先に企業が取り組むべき事業計画について解説した。

余震が発生し、救助活動中のビル倒壊現場から急いで退避する消防隊員ら=2024年1月3日午後0時54分、石川県輪島市(恵守乾撮影) 写真提供:産経新聞社

余震が発生し、救助活動中のビル倒壊現場から急いで退避する消防隊員ら=2024年1月3日午後0時54分、石川県輪島市(恵守乾撮影) 写真提供:産経新聞社

BCP(事業継続計画)

令和6年能登半島地震による被害額推計について、野村総合研究所は年間名目GDPの約0.15%に相当する8000億円規模にのぼるとの試算を発表した。

飯田)地震発生から昨日(1月4日)の夕方で72時間が経過しました。これまでも甚大な被害が報道されています。

馬渕)被害の全容はまだわからないところもありますが、8000億円規模という試算も出てきました。これが出ないことには予備費の計画が進まないので、情報に基づくと、おそらく46億円くらいの予備費が出てくるのではないでしょうか。

被災地への輸送ルートでの渋滞を防ぐため、個人レベルの物資搬入は受け入れていない

馬渕)その他、工場やサプライチェーンが寸断されているなど、いろいろな経済的ダメージが報じられています。私自身ができることは限られているので、SNSで「寄付しました」と出したところ、それを見てくれた地方公務員の友人が「ありがとう、すごく嬉しい。ただ、うちの県としては、まだ個人レベルの物資の搬入は受け入れていません」と。企業や団体からは受け入れているのですが、交通渋滞などを防ぐため、いまは個人のものは混乱を招くので受けておらず、「それを同時に発信して欲しい」と同級生からメッセージをいただきました。岸田総理も「必要な物資を速やかに届けられるよう、一般車両の利用はできるだけ控えて欲しい」と呼びかけています。

BCPをつくることが企業の競争力につながる

飯田)石川県が窓口となっていますが、仕分け等も大変なので、現段階では企業からまとまった数をいただいて、それを順に発送しているようです。とりあえず40億円規模の予備費を、まずはプッシュ型支援として民生支援に充てたい。今後の復興はまた別ですよね。

馬渕)日本は災害が非常に多い国ですので、従前から国も企業に対してBCP(災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画)の作成を働きかけています。例えば災害やテロに遭ったとしても、コア事業だけは推し進められるようなプランを作成しておく。コアビジネスだけでも回せれば、その地域全体を守れますし、企業には従業員をいかに安全に避難させるかなども求められており、BCPをつくる会社も増えています。

飯田)増えている。

馬渕)いろいろな企業の事例を見ていると、災害に備えるためではあるのですが、いまはBCPをつくること自体が企業の競争力につながっている事例も出てきています。例えば台湾のTSMCが誘致されている熊本には、ヒサノという運輸業の会社があります。ヒサノは半導体や精密機械の運搬が得意な会社です。他にもそういう企業はたくさんありますが、自分たちを選んでもらうためにBCPを作成するのです。災害はとてもつらいことですが、災害が多い日本であるがゆえにBCPを事前につくり、それを企業競争力につなげていくという取り組みもあり、このタイミングで考えてもいいかも知れません。

BCP作成は値上げ交渉にも影響してくる

飯田)台湾も地震が多い国なので、TSMCもそういうところを重く見るのでしょうか?

馬渕)大企業側も自分たちの取引先がリスク管理できているかどうかを見ています。また、BCP作成は値上げ交渉にも影響してくる可能性があり、「自分たちはここまでリスクを考えているのだから取引してください」という付加価値のつけ方もある。さらにはしっかりと物が守れるので、値上げ交渉にもつながります。そのように災害プラスBCPを使っていくといいのではないでしょうか。

飯田)災害もそうですが、人がいなければ事業は継続できません。

馬渕)そうなのですよ。いかに守るのか、平常時に考えておくことが大事だと思います。

災害の多い日本にはBCPの意識付けが重要 ~地方自治体や地銀のサポートを受けて作成できる簡易版BCPも

飯田)「こういう話は大企業向けで、うちのような中小はできない」という方もいるかも知れませんが、補助金などは出るのですか?

馬渕)補助金が出ることもありますし、簡易版BCPもあるので、A4用紙4枚程度の書類を地方自治体や地銀のサポートを受けて作成できます。これから金利が高まっていくなか、企業経営者の方々がお金を借りるコストも高まりますが、これを受けると補助金やものづくり補助金が出たり、低い金利でお金を借りられるなど、BCPには制度としてのメリットが整えられています。

飯田)そうなのですね。

馬渕)さらに認定証が発行されるので、ホームページに掲載し、「自分たちはリスクをしっかり認識できている会社です」と発表する企業も多いです。

働く側も自分ごととしてリスクの認識を高めて物事を考えることができ、組織がいい方向に向かっていく

馬渕)中小企業庁がBCPを作成した企業にアンケートを行っており、そのなかの約6割の企業が「従業員のリスク認識が変わった」と答えています。経営者側は常にリスクを考えていますが、現場で働く側も自分ごととしてリスクの認識を高めて物事を考えることができ、組織がいい方向に向かっていくことになります。

飯田)なるほど。

馬渕)制度自体には、もちろん補助金という恩恵もありますが、組織をよりよく変えていくプラスの効果がある。さらに「自分たちは信頼できる企業である」と対外アピールにも使えて、副次的な効果も期待できます。パフォーマンスとしてつくるのではなく、この辺りまでイメージして設計することを私自身、いろいろなところでお勧めしています。

飯田)トップダウンというよりも、現場から「どういうリスクがあるのか」と洗い出していく方がいいのですか?

馬渕)号令はトップがかけますが、つくるのは現場です。そうすると現場の意識が変わり、かつ自分たちで「事業のやり方やマニュアルを変えよう」という声が出てくるらしいのです。自発的な組織に育つので、現場で物事を考えられるようになる。こういう使い方がBCPの制度にはあると思います。

災害の多い日本では、「どのような状況でも経済を回す」というものの考え方がとても大事

飯田)具体的なつくり方としては「こういう事業をやっており、もし震度7クラスの地震があった場合、こういうことが起こるから備えておこう」ということですか?

馬渕)災害の場合もそうですし、洪水や新型コロナのような感染爆発など、いろいろな可能性があります。例えば、もし建物が倒壊した場合でも、「自分たちのコアビジネスを継続させるためには何が必要なのか」をみんなで考えるのです。災害の多い日本では、「どのような状況でも経済を回す」というものの考え方がとても大事です。

羽田での「JAL機の奇跡の脱出」も日ごろの訓練とBCPの意識があったから

飯田)日経新聞の秋田浩之さんがこの番組に出演した際、ウクライナへ取材に行った話をされていました。先日、「なぜウクライナがここまで戦えたのか」という記事を書かれていましたが、鉄道など、インフラ整備の部分が非常に大きいと。まさにBCPの考え方です。壊されたらすぐ直すための拠点づくりをするなど、すべて変えたからだという内容でした。そういう国土強靭化の話にもつながっていくかも知れませんね。

馬渕)羽田空港でのJAL機のケースにも言えますが、「90秒以内に全員を脱出させる」というような日頃の徹底的な訓練とBCPの意識があるがゆえのことだと思います。

飯田)乗客乗員379人が全員脱出できた。しかも最後に機長が見回ったらお客さんが残っていて、一緒に避難させたという話です。

馬渕)BCPについては、平常時からいろいろなところでお話ししていますが、改めて、このタイミングで誰もが認識・実践していけたらいいと思います。

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